ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第21回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第21回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
イノベーションでは、つまらない“答”が出ることは頻繁に起こりますが、つまらない“問”だけは絶対に許されないというところがあります。経営戦略論のゲイリー・ハメル教授は、イノベーションの核となる“デザイン・ルール”を以下のように抽出しました。“理不尽なほどの高い期待”“弾力的なビジネス定義” “ビジネスの枠を超えたミッション” “若者・傍流・新参者などの発想” “アイデア・資本・人材に対するオープンマーケット” “リスク低減へのシミュレーション”です。イノベーションである以上は想像を超えるハードルが必要なこと、イノベーティブなビジネスは計画通りにいった試しがないこと、常に今より悪い状況がありうること、時間をかければいいというものではないこと。特に“技術志向のビジネス”が失敗するのは、技術基盤の細分化を相対化するだけの分野横断的な想像力・知恵が出せないことが一因と指摘。梁塵秘抄では“淀川の底の深きに鮎の子の鵜(う)といふ鳥に背中食はれて きりきりめく可憐(いとお)しや”とあります。無常の世の中で鵜と鮎の価値の優劣を問うことは愚かで、それぞれに存在理由があること。今後、世界は西洋も東洋もなく、西洋はより情緒的に、日本はもっと論理的にという形での収斂が起きる可能性も。“イノベーションは論理的思考の産物ではないが、結果は論理構造を反映している”とはアインシュタインの見立てです。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
規則ばかり意識しないで本能を目覚めさせて闘う 人生の岐路は困難な方が正解
他人を意識しすぎるからすぐブレーキを踏みたがる 目は魂の窓で誤魔化せない
一日練習を怠ると自分、二日だと先生、三日だと観客にわかる、と女優栗原小巻
その昔、熱狂的な吉永小百合ファンはサユリスト、栗原小巻ファンはコマキストと呼ばれました。奇しくも吉永小百合と栗原小巻は生年月日が一日違い。栗原小巻は当初バレリーナを目指したようですが、バレエには演技の基礎が必要といわれ劇団へ。“之を楽しむものに如かず”と論語。知識より好きか嫌いかが重要であり、好きか嫌いかより楽しめることの方が大事ということですね。定石や理論を守るのは重要、ただ本能を目覚めさせることが一番ということでしょうか。ビジネスの世界も“規格・知識体系の流動化”が始動し、積み重なる地層に似た規格・知識体系の岩盤も、ビッグデータ解析&人工知能によって急速に崩れ始めました。人間の役割は“答”を出すことから“問”を提示することへ重心移動。コミュニケーションも、単なる言葉のやりとりだけではすまない気配。“生活上の喜怒哀楽とは別次元の世界”にも知恵を巡らす時代に入ったようです。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
死にたくなる原因 実は経済不況というより生きる意味の喪失
野球に不要な無駄な筋肉もある 鍛錬を間違えると身体を壊す
安定は幻想 高レベル維持には変化のみ、とカルロス・ゴーン
カルロス・ゴーンは仏タイヤメーカーのミシュランに入社。工場長を経てブラジル・ミシュランの社長へ。ハイパーインフレの中“クロスファンクショナル・チーム”で改革に成功。最後は米ミシュランのCEOとして実績を積み重ねました。ただ、ミシュランは同族会社で本社社長の芽はなくルノーの上級副社長へ転身。事業所閉鎖・調達先集約などで赤字のルノーを黒字転換。ルノーと日産の統合も、文化風土の違いや労働組合の反発などが危惧される中“日産リバイバルプラン”のもと見事に成就。ここでも“クロスファンクショナル・チーム”がフル稼働、役員レベルで担当をクロスさせる形での慣例破壊。まさにどうやるかの前に何をやるかを優先。“検索エンジン”全盛ですが、脳ミソも検索エンジン化し、脳の知識が細切れ状になり“文脈”を持たなくなる怖れも。“噺はこれでいいと思ったら死ぬ。いつもあらゆる角度からみつめろ”と五代目柳家小さん。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
芭蕉と良寛 二〇代は満足できる歌を作れなかったとも聞く
井戸水をすべて汲みつくす その後でやっと本物が出てくる
鍛えるべきは基本プレーと基礎体力 ゲームの過半を占める
芭蕉は生涯に約900の句を詠んだといいます。蕪村は3000、一茶に至っては20000。外界のことを詠みつつ己の内なるものを表現。山ほどの失敗を通じた基本の修得は芭蕉も良寛も同じ。芭蕉は私の母の故郷の伊賀上野の生れ。母の実家へ遊びに行った子供の頃に、芭蕉の名を初めて知りました。芭蕉が東北・北陸を巡り岐阜の大垣まで旅した紀行文が“奥の細道”で、日程は150日・2400キロの旅。最終地の大垣に到着してから5年かけて完成させたといいます。一方の良寛は、江戸時代後期の僧侶・歌人・書家で号は大愚。一日五合の米があればとの覚悟で五合庵に棲み、一切から解放された日常。書は良寛にとり己が心情の吐露であり、上手に見せようとしない独自の書法。上野の国立博物館で見た“夢”の書は撫でるように柔らか。“個”を大事にして磨き続けるしか乗り切れない時代、知識と価値を結びつけることの大切さを芭蕉と良寛は教えてくれますよね。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第21回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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