ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第23回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第23回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
イノベーションでは“率直”かつ“直球勝負”でいくことが求められそうです。舞台美術の第一人者といわれた朝倉摂さんは“わび・さび”に逃げるのではなく、ダメだったり・失敗したり・間違っていたら“ごめんなさい”と率直に非を認めることを信条としました。“安全な場所に身をおかない” “安全弁をはずして生きる” “あらゆる先入観を破壊する” “思ったこと・考えたことは常識からはずれていても持論を貫く”のが基本スタンスだったとか。その覚悟の裏には、どう押しとどめようとも世の中は合理的・効率的な方向に動いていくこと、その大きな流れには太刀打ちできないこと、しかし人間はそれだけでは生きていけないこと、素直になれないと人と仕事をしてもつまらないこと、などの強い思いがあったようです。いい仕事をしたいからこそ腕を磨き続ける必要があり、それには簡単に滑れる斜面を一万回すべるのではなく、死ぬかもしれない斜面を一回すべることを繰り返す戦法しかないとの強い信念。梁塵秘抄では“阿弥陀仏の誓願ぞ、かへすがへすもたのもしき 一度御名をとなふれば仏に成るとぞ説いたまふ”とあります。阿弥陀如来は、すべての衆生が成仏しないうちは己も成仏しないとの誓願。すべて救われるというのが日本仏教。自ら行動しないかぎり世界で戦えないのであれば、最後の骨は誰かが拾ってくれることを信じて、思い切り道楽するしかなさそうですね。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
一流歌手は能のもつ静寂を秘めるという 他者との間を繊細に醸し出す感受性
有能な人材の要件 夢を見るだけでなく冷静に客観化、モノでなく発想を売る
人間 貧しさに耐えるDNAは保有するが、豊かさを生きるDNAは持たない
落語家の立川談志は、古今亭志ん朝だけは“木戸銭を払ってもいい”とその実力を認めていたようです。そんな志ん朝がある時、貧乏のどん底を潜り抜けてきた父親の古今亭志ん生に“落語ってどうやったらおもしろくできるの?”と問うと“面白くやろうとしないことだよ”との極意がさらっと返ってきたとのこと。それなら簡単のようですが、貧乏の地獄を知らない人間がその境地にたどり着くのは大変なこと。落語は“笑わせるもんじゃなくて思わず笑ってしまうもの”。思わず笑ってしまうような異質な交流の場がコミュニティ。イノベーションではコミュニティの大切さが強調されますが、そこは日本人のDNAである“間(ま)”の空間。世界や人間に対するモノの見方や考え方をアイデアや知恵の形で相互に発信し深め合うもので、単なる仲良しクラブとは別世界。己の特徴を生かすとは、“強み”だけでなく“弱み”も対象にするということですよね。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
見えないリスクは無視 計画や予算の範囲外はすべて想定外で処理
待っても願っても黒船は来ない 伝えたい唯一つの光玉に集中する
経済・市場・技術の専門家ではなくビジネスのプロフェッショナル
ベトナム戦争の時代、米国の国防長官はロバート・マクナマラでした。大変な秀才でエリート中のエリート。そのマクナマラがベトナム戦争に対して残した苦い教訓は今も決して古びていません。“ナショナリズムの強さへの過小評価” “米政府内の専門家の不在” “人民戦線に対するハイテク兵器の限界” “米国民の結束・支持の欠如” “政府・議会での率直な議論の回避” “国際問題ではすぐに解決できない課題の存在”。イノベーションでも、状況が刻一刻と変化する中で、現実と理論に対する両方の洞察が求められます。経験則だけでは“思考の固定化”につながりかねず、“理論構築”というコンパスを持たねば船は漂流するだけ。“実践・経験”と“理論・コンセプト”の両方を操るスキルを鍛えるしかなさそうです。見えないもの・抽象的なものに対する感応度が鈍ることは命とり。幕末・明治の時代に学ぶべきは“死は常に勘定に入れておく”との覚悟なのかも。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
先に行かずに並行していく 一言で済むことには二言は使わない
やる人はどんなに止めてもやる 秘めて大事にすると自然に発酵
正しい投資先ではなく正しい人間を探索すること、とバフェット
世界的な投資家として勇名を馳せるバフェットは“事業に対する決め手の最終形は<人>しかいない”と断言しています。やる人は周囲がどんなに反対してもやるし、大切に秘めていても自然と発酵するもの。“正しい投資先ではなく正しい人間を探索すること”に尽きるとの確信。地道に腕を磨きながら力を蓄えていけば、最後はさまざまな重みをくぐり抜けた“その人の軽さ”が顔を出すということですかね。役者でいえば、演技力より私生活の蓄積、演技していない時の裸の人間修業。最後は“まるごとの人間”の総合力ということになりそうですが、頭脳が一つの専門領域を超えるものを鷲掴みにすることの難度があがっているのも事実。“人生に耐えるには、ある程度<軽薄>であること”と喝破したのは哲学者ジンメル。進む方向は自ら決めると肚を括り、ビッグデータ解析を乗り越えて“売れないものをつくる。流行を追わない”という手立てもありでは。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第23回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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