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ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第25回)

by staff on 2015/4/10, 金曜日

大浦総合研究所 代表/大浦勇三

ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第25回)

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ

- 梁塵秘抄 -

 トーマス・カーライルは、明治から戦前まで日本で人気の高かった19世紀英国の思想家・歴史家です。夏目漱石はロンドン留学時に博物館を何度も訪れ、帰国後“カーライル博物館”を書いています。私は学生時代、当時誰も見向きもしないカーライルを偶然読む機会があり、英国出張時には、後にアガサ・クリスティが住み、007-ジェームズ・ボンドも居を構える設定のチェルシーにある博物館を訪れるチャンスに恵まれました。カーライルは膨大な“フランス革命史”の完成原稿を、友人の小間使いの不注意からゴミとして燃やされてしまい絶望の淵へ。しかし、自分が書かなければ誰も書けないはずだとの思いから立ち直り、すべてを一から書き直したというエピソードの持ち主です。先日、横浜美術館25周年を記念した“ホイッスラー展”が開催され、そこで“灰色と黒のアレンジメントNo.2:トーマス・カーライルの肖像”に遭遇、私にとってはホイッスラーの代表作“白のシンフォニー”以上の衝撃でした。梁塵秘抄では“春の焼野に菜を摘めば、岩屋に聖こそ坐すなれ 唯一人、野辺にて度々逢うよりはな いざ給え聖こそ あやしの様なりとも、妾らが柴の庵へ”とあります。天魔の誘惑を断ち切るのが修行。されど、遊びを絶っては修行にも身が入らず、本来の目的が達成でき難いのも人間。“音楽は音の詩であるように、絵画は視覚の詩である”と色彩の交響楽者・ホイッスラー。

“遊びをせんとや生れけん” 「遊」

アンリ・ルソー 素人画家として、ほぼ無名のままで生涯を終えた
ルソーの才能に惹かれた若きピカソは晩年ルソーをパーティに招待
心の勲章こそ真の値打ち 本物は鑑定書ではなくモノが語りかける
江戸時代の絵は江戸の明るさでみるものだ、と骨董商・中島誠之助

 アンリ・ルソーは20年以上もパリで税関の仕事を続けながら、余暇に絵を描き続けた典型的な日曜画家。ピカソやゴーギャンなど、少数の画家仲間からは評価を得ながらも、無名のうちに生涯を閉じました。日本でも藤田嗣治や加山又造など、多くの画家に影響を与えたといわれます。真の評価とは、鑑定書ではなく本源的な値打ちに軍配をあげるもの。骨董商・中島誠之助さんは、ニセモノにひっかかるワナとして“欲が目を曇らせる” “懐が甘い-それなりに使える金を持っている” “不勉強”の3つをあげています。モノが持つ姿・形に“不自然さ”はないか、ニセモノ特有の“語り過ぎる・飾り過ぎる”ところはないのか。何事も“歴史・時間からモノを観る眼力”が問われそうです。文化はビジネスにも大きな影響を持つようになり、経済の大きな枠組みの一環。“個性の前に抑制。抑制(基本)によって初めて個性(創造)が生まれる”とは狂言師・野村万作。

“仕事をせんとや生れけん” 「献」

スウェーデンモデル 弱い企業や産業は淘汰、人材を国際競争力のある分野へ
日本は技術優位に依存して分散 どんな市場を創るか、どこまで標準化するか
好きなことを納得するまで極める 究極まで進めるには失敗事例から発想する
日本人は駄目・駄目と鍛える アメリカ人は素晴らしい・素晴らしいと育てる

 デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランドには、北欧の小国という冠をつけがちですが、その底力は恐るべきもの。出張で一度訪問した折、モノではない“人間的な豊かさ”に驚いた印象があります。スウェーデンの場合、ビジネスの代表格はH&MとIKEA。産業構造転換に向けた人材教育・職業訓練には高い評価があり、教育の社会的制度を新しい技術革新に沿ったものに変えていく強い意志と、プロセスに全力投球し、結果は長い目で評価するとの覚悟が窺い知れます。プロフェッショナルの条件は何より“柔軟性”。固定観念をいつまでも打破し続けることこそ生き残りの極意。技術を世界的視点からマップの形で更新を繰り返すしかなさそうで、その技術も狭義の要素技術だけではなく運用/保守技術を含めたもの。“頭でなく目。頭だと他人の知識で見てしまいドキドキ感がない“と随筆家・白洲正子。ドキドキさせる技術こそ日本の真骨頂。

“学びをせんとや生れけん” 「学」

知識獲得は重要 問題はその先の解きほぐし・咀嚼・消化 それが血肉に
知識獲得手段は多様で便利に ただ血肉化する過程は自己責任による編纂
理想は果てしもなく遠い場所にある 一方で理想はいつも己の傍らにある
是非初心忘れるべからず・時々も老後も初心忘れるべからず、とは世阿弥

 “初心忘れるべからず”は世阿弥の言葉として有名ですが、その後には“時々も老後も初心忘れるべからず”と続きます。要は一生、初心を忘れるな、ということになりますが、そんなに簡単なことではありません。世阿弥は父・観阿弥の後継者ですが、伝統を守るだけではなく大変な革命家。当時の貴族・武家社会には、幽玄を尊ぶ気風があり、世阿弥は観客である彼らの好みに合わせ、言葉・所作・歌舞・物語に幽玄美を漂わせる能の形式“夢幻能”を大成させました。将軍や貴族の保護を受けて教養を身に付け、能の前身といわれる猿楽を理論化し“風姿花伝”として纏めたほどの実力者。それでも晩年は佐渡に流刑の身となりました。現在、知識の獲得・編集は多種多様になり、時には目的を忘れて手段に振り回される恐れも。ヘレン・ケラーが晩年に語った“解きほぐし”の大切さ。しっかり咀嚼・消化してこその血肉。これも“初心忘れるべからず”かも。

「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」

 今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。

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(第25回了)

 

大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール

大浦勇三(おおうら ゆうぞう)  

大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/

石川県七尾市出身。
早稲田大学卒業、筑波大学大学院修了。
米国経営コンサルティング会社 アーサー・D・リトル 主席コンサルタントを経て現職。
主担当領域は、経営改革/企業再生、経営戦略/情報通信技術戦略策定、業務改革/組織改革、研究開発/商品開発マネジメント、マーケティングマネジメント、ナレッジマネジメント、イノベーションマネジメント、サプライチェーンマネジメント、人材マネジメント、コーチング/メンタリング、プロジェクト/プログラムマネジメント、ベンチャービジネス支援等のコンサルティング。

筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。

主な著作物:

  • 「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」<全10巻>(大浦総合研究所:PDF版)
  • 「イノベーション・ノート」(PHP研究所)
  • 「ITプロジェクトマネジャーのためのコーチング入門」(ソフトリサーチセンター)
  • 「図解 日本版LLP/LLCまるわかり」(PHP研究所)
  • 「IT技術者キャリアアップのためのメンタリング技法」(ソフトリサーチセンター)
  • 「よいコンサルタントの見分け方、かかり方」(清話会)
  • 「日本のモノづくり - 52の論点」<共著>(日本メンテナンス協会)
  • 「現場主導型の組織運営とスピード戦略」(日本監督士協会)
  • 「eコミュニティがビジネスを変える」<訳>(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメントが見る見るわかる」(サンマーク出版)
  • 「図解 ナレッジ・カンパニー」(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメント革命」(東洋経済新報社 )
  • 「図解 グローバル・スタンダード革命」(東洋経済新報社)
  • 「業務改革成功への情報技術活用」(東洋経済新報社)
  • 「情報化戦略と投資評価・システム運用管理の実際」<編著>(企業研究会)
  • 「会社改革実務辞典」<共著>(産業調査会)
  • 「プロジェクトマネジャー(PM)の育成・スキルアップのためのメンタリングの進め方と実践法」 (ソフトリサーチセンター:CD-ROM版)   など

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