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書評 「ヨコハマ・イエスタデーズ」 講談社 三上義一 著

by staff on 2015/5/10, 日曜日
 

1859年の開港によって横浜山手に外国人居留地ができ、その子弟のための学校もいくつか開校されました。その一つがセント・ジョセフ・カレッジ(Saint Joseph College、後にSaint Joseph International School と改名)です。

セント・ジョセフ・カレッジは、カトリック教会のマリア会によって1901年(明治34年)に開校された小学校から高校までのインターナショナル・スクールでした。イサム・ノグチが在学し、ノーベル化学賞を受賞したチャールズ・ペダーセンらの大勢の著名人を卒業生に持つこの学校は、横浜三大インターナショナル・スクールに数えられるほどの名門校でした。惜しまれながら2000年(平成12年)に99年の歴史を閉じました。

「ヨコハマ・イエスタデーズ」の著者、三上義一氏は、1964年(昭和39年)に7歳でセント・ジョセフに入学して、高校卒業までの12年間、横浜山手の学校に通われました。

セント・ジョセフが廃校になると聞いて、当時のことを描きたいと自叙伝的な小説「ヨコハマ・イエスタデーズ」を書かれたのです。

英語が全く話せない日本人の男の子が、英語青年だった父親の命令一下で、母親と二人で横浜に引っ越してきて、セント・ジョセフに入学するところから物語は始まります。

すべてが英語で話される授業。一言もわからない状況の中で男の子は、毎日泣きながらもたくましく友達を作っていきます。ママも同じです。知り合いが誰もいない横浜に来て息子を何とかしてあげたいと駆けずり回って、ようやく英語の家庭教師を見つけてきます。

トウザイと呼ばれる男の子は、自分の息子の「ナオ」にこう言います。

ナオ、どんな学校にもいじめはある。パパは毎日何にいじめられていたと思う?
「ことば」さ–。

(著書から引用)

トウザイは、小学生にして、中華街の政治勢力の争いを目の当たりにし、横浜の中にある「外国」を感じていました。様々な人種との交わりの中で日本という国の枠を超えた世界観を身に着けていきます。

横浜はよそのもの街、来るものを拒まず、去る者は追わず、過去を問わない港街。・・・インターナショナル・スクールはそんなヨコハマのミニチュア世界だった。
(著書から引用)

「ヨコハマ・イエスタデーズ」は、1960年代から1970年代にかけての横浜山手・中華街・本牧で何が起きていたのかを赤裸々に描き出しています。

学校の課外活動としてダンスパーティーが定期的に開かれ、女の子とチークダンスを踊る中高生がいたなんて・・・。同世代の私には信じられない世界が繰り広げられていました。

当時横浜市内には米軍基地やハウスがあり、本牧はアメリカ文化をいち早く感じ取れる場所でした。トウザイたちは、英語を駆使して最先端のファッションと音楽に酔いしれていました。
トウザイは、20ヵ国以上に及ぶ仲間たちとの交流の中で出会いと別れを経験していきます。そして、年を重ねるにつれて日本人でも外国人でもない自分を半端者だと感じるようになります。

日本には「アイデンティティー」という言葉がない。日本じゃ、違うこと、ユニークであることは居心地の悪いことなんだ・・。
(著書から引用)

国籍も人種も性別も年齢も、人間性には何の関係もないことなんだ。トウザイは12年間のセント・ジョセフの生活で多様な価値観を認める「国際人」としての感性を磨きあげていきました。

ナオ、パパはあのインターナショナル・スクールで大切な教訓をひとつ学んだ。血や言葉が違っても、人は同じ屋根の下で暮らすことができるということだ。・・・人間は人間でしかなく、みな同じだが同時に違って当然だということを。その違いこそが誇りなのだということを。そしてその違いを認め合いそれを乗り越えてこそ初めて言うことができるのだ--インターナショナルだと。
(著書から引用)

「ヨコハマ・イエスタデーズ」は、青春グラフティーとして楽しめるだけでなく真の国際人の矜持とは何かを私たちに考えさせてくれる小説です。

国際情勢や日中・日韓関係が混沌としている今こそ、人種のるつぼの中で青春を過ごした「トウザイ」の想いを多くの若者たちに感じ取ってほしいと願っています。

※三上義一氏は、今月の「ヨコハマこの人」に登場されています。
今月号の「横浜スケッチ」は、セント・ジョセフ・カレッジの寄宿舎として使われていたエリスマン邸から見た風景が描かれています。

(文:渡邊桃伯子)


 

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