ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第27回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第27回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
チャップリンは、一番の自信作は? と問われて “次回作” と即答したといいます。あのピカソも “明日描く絵が一番すばらしい” と周囲に豪語していたとのこと。“うまくいったとの満足感を敵にすること” が創造的革新に必須のマインドということでしょうか。イノベーションでは、要素技術/スキルが核になるのは否定できませんが、仕組みやシステムなど、包括的な概念の価値もまた、それに劣らず重要だといわれます。技術/スキルだけに拘らず、組織のシステムやルールの変革へ踏み込むことが大きな成果につながるということですかね。これから一段と大切になるのは、社会変革の風を受けながら自己変身の意欲を持続させて、経験知のネットワーク化に本能をフル稼働すること。それには、先人が積み重ねてきた思想・哲学へのセンス・嗅覚。それを的確に伝えるためのポンチ絵と、限られた期間の中でやるべきことをやり抜く意志力。これこそ先人が考え実行してきた “けもの道” の生き様。梁塵秘抄では “熊野の権現は、名草の浜にこそ降り給え 和歌の浦にしましませば 歳はゆけども若王子” とあります。権現さまは仏や菩薩の仮の姿。若王子とは若いと同時に粗野で未熟ということ。若さは素晴らしく無限の可能性を秘めますが、逆目に出る怖れも。それでもあえて挑む。 “青草も燃える(他人のせいにするな。自分の火力が強ければ青草も燃える)” と実業家・土光敏夫。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
精神的豊かさをめざす 弱さを知り尽くした上で強みの主張はしない
普通のものは誰でも作れる いいものを作ろうとするから失敗もする
思った通りでなく技術を超えた偶然の刀が面白い、と刀匠・河内国平
河内国平(かわち くにひら)さんは、鎌倉時代の名刀がもつ地紋を現代の材料で再現した日本を代表する刀匠。まさに “技術を超えた偶然”。いいものをつくろうとすれば失敗は避けられないが、その境地に迫る人間への偶然の僥倖。刀身が柄と鞘に納められ、諸金具を取り付けたのが拵(こしらえ)。拵で思い出すのは宮本武蔵。武蔵の後半生は熊本城主・細川忠利の客分。永青文庫(えいせいぶんこ)は、東京にある旧熊本藩細川家伝来の古美術中心の美術館で、戦禍を免れた美術品・歴史資料を収蔵・展示しています。数年前、ここで宮本武蔵の拵を見る機会がありました。これまで上野の国立博物館で数多くの拵を見ましたが、多くは将軍や大名が保有したもので豪華&華美。それに較べると、武蔵の拵は、実に簡素で一切の装飾をそぎ落としたもの。その簡素さが震えるほどの凄味を感じさせました。簡素・単純であることを怖れない、とは作曲家・武満徹。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
企業経営 昔は偉い人、今はプロでないとやれない
経営トップ 最も問題を抱えているところに構える
正しい決定には適切な意見の不一致、とドラッカー
ドラッカーはオーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系。新聞記者として出発、 “サウンド・オブ・ミュージック” で描かれたナチスの脅威を目の当たりにして英国経由で米国へ移住。英国時代にはケインズの講義を直接受けたといいます。米国では “マネジメントの父” と呼ばれましたが、自らは経営学者ではなく “社会生態学者” と名乗りました。幅広い専門領域に基づく未来への洞察は “徹底的に人間社会を観察する” という生態学者の面目躍如。一方で、若き日から日本の古美術に深い関心を寄せて作品を蒐集、今年初めて日本で公開されています。美術への眼力は “論理より知覚” “分析より観察” “部分より全体” のスタイルとして結実。予測ではなく観察であり、何ごとにも光と影の両面があること。最近のビッグデータ解析には “合理的失敗” という落とし穴があり、ドラッカーとは対局。“ビッグ”が良いのではなく、焦点を絞り単純化することこそ宝。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
絵がどういうものかで大混乱しても絵から逃げない
教育も映画もオリジナル その時々ですべて異なる
無人の広野を走る勇気を持て、と映画監督今村昌平
映画監督の今村昌平は、カンヌ国際映画祭で2度のグランプリを受賞した日本を代表する監督の一人です。私には “にっぽん昆虫記” が最も印象に残っています。今村監督の師匠である川島雄三監督も大好きで、 “幕末太陽伝” は何度見てもあきません。今村監督は教育者としての顔も持ち、映画人を育成する横浜映画専門学院を創立したことでも有名です。 “無人の広野を走る勇気を持て” は映画づくりの不退転の決意を示すもの。映画をつくる度に自宅を抵当に入れて資金を捻出するという綱渡り。己の画風を貫き通すためには最後まで独立不羈。 “鬼のイマヘイ” といわれましたが、怖れるものは何もないということだったのかも。日本以上に海外での知名度・評価が高く、そこで描いた日本人像こそ日本人の本質。更に、それは日本人だけのものではなく、世界共通の人間の本質でもあることを海外の観客も納得。 “違っているからこそわかりあえる” という本源。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第27回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。 |
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