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第29回 筑波大学附属小学校の模擬授業を大盛況!

by staff on 2015/11/10, 火曜日

筑波大学附属小学校の模擬授業を大盛況!

みなさんこんにちは!
市民度アップを目指し活動する、ヨコハマのNPO法人ど・あっぷ!です。
去る10月17日、「子どもたち一人ひとりが問い続ける社会科づくり」と題して、筑波大学附属小学校の社会科教諭 由井薗健先生をお招きし、模擬授業を行っていただくイベントをを実施させていただきました。(会場:神奈川県民サポートセンター)

お陰様でたくさんの先生方や教員を目指す学生の方々にお越しいただきました。

 

(クリックで拡大画像)

たくさんの方々にご参加いただきました。
たくさんの方々にご参加いただきました。

当日由井薗先生が横浜の県民サポートセンターに到着されたのは、開始予定時間の約40分前。
「今日は懇親会で飲むから、タクシーで来ちゃいました~」と、大きな大きな段ボール箱を抱えて、先生は開場に入っていらっしゃいました。
先生は、上大岡在住の横浜市民でいらっしゃるのですが、それでも上大岡から横浜までは、結構な距離。タクシーだって、結構かかったはずです。
「先生、そんなに大きな荷物があることを知りませんでしたー。すいませーん。」
「いいのいいの。どうしようかと思ったんだけど、授業で使ってる実際のものがある方がいいと思って・・・。」先生は、ニコニコしながら、そう言ってくださいました。
本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいになり、せめて、準備を手伝おうと、わざわざタクシーを使って運んでくださった、その大きな段ボール箱の中を除いてみると・・・。
「えっ?ガラクタ?」

今月はイベントのご報告をさせていただきたいと思います。
最後までどうぞお付き合いください。

箱の中身は!

箱の中身、気になりますよね?
まずは何枚かの手作りパネル(作業着を着たおじさんの写真ではありましたが、まぁ、これは授業で使うのだろうなとわかります)。それから、おもちゃの刀(?)。木の枝みたいの(??)。透明のビニールシート(???)。 鉄パイプ(????)。などなど・・・。刀も鉄パイプも結構な長さですし、ビニールも分厚いもので、かなりの重量があります。
大変失礼ながら、もし、この箱が廊下に置いてあったら、サポートセンターの守衛さんは間違いなく捨ててしまうのではないかと思われる代物達。
しかし、由井薗式授業では、教室にいる子ども達に臨場感を与え、現場へいざなう、言わばワープマシーンのようなアイテムとして、大活躍するのでした!

問い続け力を育む授業

先月号でもご紹介させていただきましたが、由井薗先生が授業づくりで大切にされていることは、「問い続ける力」を育むという事です。
※先月号 http://yokohama-now.jp/home/?p=13623

そして「問い続ける力」を次のように提唱されていらっしゃいます。

  • 自ら社会的事象に問いかけ、その問題を解決するために、既有の知識や経験を根拠に、資料収集や仲間との議論を通じて、多面的に思考・判断し、ねばり強く問題を探求していく力。
  • みんなが幸せになるために「どうすればよいのか」と自らの生き方を問い続け、よりよい社会形成の参画につながっていく力。

この「問い続ける力」を育むために、由井薗式授業は、生徒たちの「なぜ?」を紡いでいくような授業構成となっています。具体的には、生徒たちから「なぜ?」を出させ、それを生徒たち自らが調べ議論し、解決していくというスタイルです。しかし、一つの「なぜ?」を解決すると、また新たな「なぜ?」が出てくる。それが丁度授業の終わりに来るように導かれ、新たな「なぜ?」が出たところで、次回に持ち越されるという具合。生徒たちは、その「なぜ?」が知りたくてたまらず、どの子も次の授業までに自主的に家で調べて来るのだそうです。
生徒たちが家に帰ってまで調べたくなるような「なぜ?」が出るようにするために、由井薗先生は、生徒が「自分たちの問題」として捉えられている事が重要だとお話されています。
「自分はどう思うのか」「自分ならどうしたか」というように、問題を自分の問題として考えられた時、子どもの興味や探求心はどんどんと深まり、能動的な行動へとシフトしていくという事のようです。

なぜ? なぜ? なぜ?

当日の講演では、いくつもの授業単元をご紹介いただきましたが、今回は、その中の一つをご紹介させていただきます。

「今帰仁村(なきじんそん)」はどこにあるか?
こんな問に対して、まず、子ども達は地図帳で村探しをしていくところから、この単元は始まります。
子ども達が使う地図帳には、様々なマークが書かれています。千葉県の木更津には、ゲーム機のコントローラのマークだったり、九州高千穂には鬼のマークだったり・・・。
もちろん、それぞれに理由があってつけられたマークです。生徒たちは面白いマークをみつけては、その理由を調べ、より深くその土地の産業や、名産を学んでいくという実に楽しい授業。特に面白いマークを見つけた生徒は、得意げにそれがどこにあるかヒントを出していきます。見つけられない子はなんとか見つけようと必死になります。そんなまるで宝探しゲームをしているような感覚の中で、「今帰仁村はどこ?」というお題が出されます。
もう、見つけないではいられなくなっている生徒たち。
特殊な名前から、「北海道かな?」「沖縄かな?」といくつかのエリアに当たりをつけはじめ、大勢の子ども達の目がそのエリアに注がれます。ついにそれは沖縄である事が発覚。さぁ、スポットライトは「今帰仁村」に当たりました。いよいよ授業は本題へと移っていきます。

次に先生が生徒に見せるのは、今帰仁村の航空写真。美しい海岸線を持つその村は、当たり一面緑の畑でおおわれていました。

これはいったい何だろう?航空写真からは、それが何の畑なのかまではわかりません。生徒たちの「なぜ?」の旅が始まっていきます。結果、それがサトウキビである事がわかってきました。が、「なぜ、サトウキビなの?」という問いが新たに生まれます。ここで1時間目は終了。問いは次回にもちこされてしまいます。
次の授業。生徒たちが家で様々に調べてた事も発表してもらいながら、沖縄は台風が多い事、意外と水不足である事、そしてその両方にサトウキビが強い事などがわかり、サトウキビが作付けされていた事がわかっていきます。
しかし、授業の終盤、また新しい「?」が浮上してしまいます。
実は、生徒に見せた航空写真には、「施工前」という但し書きが書いてありました。

「??」なら「施工後があるってことじゃん」「施工後はどうなってるの?」
実は生徒に見せた写真は、30年前のもの。現在は、緑の畑だった所はみごとに真っ白になっていました。どうやら広大なビニールハウスとなっているようです。「何をつくってるんだろう?」
当然、そう思いますよね。でも今日の授業はここまで!
おいおい、それはないだろう! 気になるよー。ってなりませんか? 沖縄に広大なビニールハウス地帯? なぜ??

 

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現在の様子。googl earthでみてみるとこんな感じでした。
現在の様子。
googl earthでみてみるとこんな感じでした。

これが由井薗式

由井薗式の従業は、こんな調子で進められていきます。
いわば、寸止めの連続です。止められると、人は先に進みたくなる。扉をみせられて、今日はここまでと言われると、扉を開けたくなる。そうして子ども達の興味はどんどんかりたてられ、受動的に扉が開くのを待つのではなく、自らが能動的に扉を開けていくようになっていきます。

さらに、子ども達の興味を引き出す大きなポイントは、「臨場感の演出」。
冒頭でご紹介した“ガラクタ”いえ失礼、“ワープマシーン”たちの出番です。

 

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ビニールハウスのビニールを広げる由井薗先生
ビニールハウスのビニールを
広げる由井薗先生

実はこの小道具の多くは、由井薗先生が、現地を取材した際に持ち帰ったリアルなもの。
たとえば、枝は、本物のサトウキビ。ビニールシートや鉄パイプは、本物のビニールハウスで使われるものです。それを見て触りながら、生徒たちは、教室から現場へとワープし、現場の人達の気持ちになりながら考えを巡らせていきます。

最終的にこの授業では、ビニールハウスでは糖度の高い高級スイカが、年に3~4回作られていること、そのスイカは台風の時期を外して作付けされている事、しかし、それでも台風と重なり、大きな損害が出る事もある事。また、台風の被害を最小限にするため、苦渋の決断をして、ビニールハウスのビニールを破る事がある事。そのビニールも高価なもので、被害は小さくない事などを学んでいきます。そして、最後には、その時の農家の方の気持ちにまで問いが及び、実際に農家の方にインタビューをして、気持ちを確かめるところまで行きつきます。

そして極め付けが、自分の考えを表明させる事。

自分ならどうしたのか、どう思うのかという事を、写真のようなマグネットパネルを使って、都度都度生徒たちに考えさせ発表させる機会を設けます。人の意見を聞いたり、授業を重ねていく中で、意見が変わっていく子ども達も出てきます。しかしそれは、自らが考えた末の結論。その事が大事なのです。
「自分ならどうするのか」と考えた瞬間に、問題は一気に他人事から自分事として捉えられていきます。時には答えのない難しい問題も出てきます。社会の問題には必ず、表面には映し出されない背景と、時には苦悩の末に下された決断があります。子ども達は、その事実を、問題を問い続け、自分事として捉えながらリアルな出来事として学んでいくのです。

高いところから映し出された航空写真から、そこに生活する個人にズームインしていき、最終的には、人の心、自分の心にまで焦点を当てて社会を学ぶ。これが由井薗式の授業でした。

 

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「社会を考えて創る子どもを育てる社会科授業/東洋館出版社」より
「社会を考えて創る子どもを育てる社会科授業/東洋館出版社」より

話し合いを楽しむ

私たちはこれまで、航空写真のように、俯瞰してながめた情報でしか、社会科を学んでこなかったように思います。それは、自分とは関係のないどこかの出来事。そのため、多くの場合、特別な興味や関心を抱くことなく、ただ一つの情報として、頭の中を右から左に流れていくだけのものでした。
しかし、由井薗式で自分自身にも問いを向けながら学んだ生徒たちは、社会の出来事を、背景とともに深く記憶に刻んだだけではなく、自分の考え方や、クラスメイトの異なる意見にも触れ、意見を二分する問題がある事を自然と学びます。そして問題によって人の意見が分かれる事は自然な姿である事も同時に学んでいくのです。

 

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話し合いを楽しむ
話し合いを楽しむ

加えて先生は「話し合いを楽しむ」子どもを育むことにおいても注力されていらっしゃる事をお話されました。
「話し合いを楽しむ」なんと素敵な言葉でしょう。
しかしそれは決して簡単な事ではないと思います。「話し合いを楽しむ」には、とても多くのスキルが必要になるからです。相手の話を十分聞く力(相手に最後まで話させる力)、自分の意見を相手がわかるように伝える力、お互いの意見の違いを容認する力、併せて忍耐や根気も必要です。そのため、自分を含め、大人でもこれができる人は多くはないように思います。

「民主主義を支える『民的資質の基礎を養う』のは社会科でありその低迷は日本社会の低迷につながる。」と由井薗先生は言います。
しかし、異なる意見を交わしながら、それを楽しむことのできる彼らは、ある意味、民的資質の基礎どころか、応用までも社会科で養われているように私には感じられました。

残念ながら、高学年になればなるほど、嫌いな科目の上位に上がるのが社会科なのだそうです。
私も社会はあまり好きではありませんでした。◎◎コンビナートがとか、□□の生産量の多い県はとか、○○時代の××事件は何年かとか、まさに暗記科目の印象しかありません。
社会科見学でも、マヨネーズとコーラの工場は、お土産があったから楽しかったくらいしか覚えていません。今思えばもったいない限りです。

社会科は教えるのも難しい科目だと思います。特に小学生は歴史や地理なども含まれ、範囲も広く、何をどこまで教えたらよいか迷うという先生の声も聴きます。そのため、私たちが良く知る、教科書をなぞっていきながら、教師から教えられた情報を生徒が暗記するというスタイルになってしまうのだとも思います。

しかし、社会とは、実際に存在する人の生活そのものの過去と現在であるという視点で見つめるだけでも、これまでとは違った捉え方になりそうな気がしました。

社会とは、自分一人が生活しているのではなく、数え切れないほどのたくさんの人達の存在があってはじめて社会です。そのため正解のない問題が生じます。しかし正解がないからこそ、一人ひとりが考える余地が生まれてくるとも言えるのだと思います。
だからこそ、社会に住まう人間には、話し合いを楽しむ(異なる意見を容認して議論できる)スキルが不可欠な要素なのかもしれないと感じました。

最後に、今回、大きな玉手箱(ガラクタなんて言ってごめんなさい!)をかかえて駆けつけてくださった由井薗先生に、たくさんの気づきと学びをいただきました事、この場をお借りして、改めて心より感謝申し上げます。
また、休日にも関わらず、会場に足をお運びいただきました参加者の皆さまに御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。

講師プロフィール

由井薗 健(ゆいぞの けん)
神奈川県横浜市生まれ。東京学芸大学A類社会科卒業。1997年に横浜市立間門小学校教諭となり、2003~2012年横浜国立大学教育人間科学部附属横浜小学校、2012年より筑波大学附属小学校勤務。2011年より社会科の教科書を執筆。初等社会科授業研究会常任理事。小学校社会科授業づくり研究会代表。著書に『高学年の心を開く授業づくり』(文溪堂)、『社会を考えて創る子どもを育てる社会科授業』(東洋館出版社)、『ニッポン都道府県NEWぎもんランキング~小学生が知りたい日本と都道府県のぎもん集』(学研教育出版)など。

(写真・イラスト:NPO法人ど・あっぷ!(DO UP!) / 文:築山 美樹)

 

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