ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第34回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第34回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
あるオーナーシェフ経営の人気レストラン・メニューは前菜もメインも種類が盛り沢山で、前もって絞っておかないと慌てることに。驚くのは、その中のどんな料理が注文されても難なく調理してしまう技の抽斗の多さ。それだけでも売りになりますが、経営から見ても経済合理性に適っているのが凄いところ。単品料理の利益率は材料費に大きく依存しますが、顧客は材料費の高いものではなく食べたいものを注文することから、結果として材料費の高いものと安いものがバランスよく注文され、利益率は一定水準で安定するとのこと。まさに技と商売の融合。八百屋オヤジのマーケティング戦略も実に頭脳的で、目玉の安売り商品価格をいかに正価商品とのベストミックスにもっていくか。これは “宗教的文脈の芸術が世界で求められている” とのビジネス感覚で注目を浴びる美術家・村上隆にも通じます。シェフ・八百屋・美術家のビジネスを貫く心棒は “時代を咀嚼しながら生き残る” こと。梁塵秘抄では “京より下りしとけのぼる、島江に屋建てて住みしかど そもしらず、打捨てて、いかに祭れば百大夫 験なくて、花のみやこへ帰すらん” とあります。百大夫は遊女の守り神。つれない世の中では守り神は誰にとっても欠かせない拠りどころ。人工知能を守り神として活かしつつも、決め手は本能・直観のフル稼働。“自分にないものを教えてくれる人はすべて先生”と女優・杉村春子。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
ベトナム人のナショナリズムの強さへの過小評価 米政府内での専門家の不在
ハイテク兵器における限界 弱みを見せないための議会との率直な議論の回避
国民の支持の欠如 国際問題即決の難しさの無理解 トップ間での議論の不足
ケネディ政権の国防長官だったマクナマラは、85歳の晩年でも頭脳は明晰、書類を見なくても40年前の統計数値がよどみなく出てくるといわれました。ビジネススクールでも教鞭をとった当時のコンピュータ付き理論派の代表格。フォードでは、大胆なリストラでコストを削減して効率性を高め、ヘンリー・フォード時代からの伝統に縛られた組織を一変させることに成功。その後、フォード一族以外ではじめてフォード社長に就任。その実績を引っ提げての国防長官就任でしたが、ベトナム戦争では歴史的な汚点を残すことに。専門家の不在・ハイテクの限界・議論の不足などは現在でもそのまま通じます。核心は “理性には頼れないこと” “目的と手段のバランスが必要であること” “目に見える真実が正しいとは限らないこと”。“人間は探求をやめず、探求の果てに元の場所に戻り、初めてその地を理解する” というエリオットの詩を噛みしめる晩年だったとか。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
重要性そのものに気づいていないか 原子力船むつは需要表現がされることなく
作業だけ進行、原子力動力プラントを備えた船舶 宇宙・南極・ゲノムも二番手
悪い戦術は良い戦略があれば救える 悪い戦略は良い戦術では絶対救えない典型
“MOT(技術経営)” という言葉が一時話題になりました。 “技術の研究・開発を中心とする経営手法” と説明されますが、本質は“経営(戦略)が技術を生むこと”。その典型例が原子力潜水艦。狙いは、第二次世界大戦の産物である原子力を第一次世界大戦の産物である潜水艦の推進力源としての利用。当時の潜水艦は潜水能力・航行速度に弱点。無期限に潜水できる・発見されないほど海中深く潜水できる・海上速度で海面下を巡航できるのが最終ゴール。それにはニーズ(需要)の文節化(Articulation)が大前提。文節化により “異種原子炉の並行開発” “現行と新規技術の同時追究” “複数の研究所とのアライアンスや多様な委託契約” “情報の共有と遮断” を徹底。“悪い戦術は良い戦略があれば救えるが、悪い戦略は良い戦術では救えない” は至言。“枠組みの中で考えるのでなく、枠組みが時間により変わる複雑なシステムの中で考える” と独首相メルケル。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
具象では階層的世界からカオスの世界へ 汎用的知識から直観的な知識へ
抽象では論理的世界からコミュニティ世界へ 分析的知識より概念的知識
意味を突き詰めるだけでは息が詰まる 無意味も共に考える、と小林秀雄
“柔らかい発想” を鍛えるには “やってみなはれ精神” と “他人の意見に耳を傾けること” が何より大切とか。未知との遭遇に直面する我々は、宇宙飛行士が鍛錬する “10%の定常と90%の異常” プログラムを、日常生活の中に溶け込ませる必要があるのかもしれません。そこでの命題は “具象と抽象の世界の間でどう折り合うか”。個としての知識処理能力の強化と併せて、人工知能とのパートナーシップも求められており、人工知能との協創をめざした相互に高めあうコラボレーション。小林秀雄は近代日本の文芸評論の確立者。詩人・ランボーなどに大きな影響を受けつつ、個性的文体と詩的表現を通じて影響力ある知的空間を構築。“世界は進む。何故、逆戻りはいけないのだろう:地獄の季節” とランボー。前後を問わず、踏み込む精神に集中できる人間が馬鹿にされながらも最後は勝つこと。“後悔というおめでたい手段で自分をごまかすな” と宮本武蔵。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)(二)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第34回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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