ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第38回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第38回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
今年に入り、横浜美術館では美術家・村上隆の“スーパーフラット・コレクション”展が開催されました。世界クラスの村上隆の“脳内世界(おもちゃ箱)”を覗く試みです。曽我蕭白・白隠慧鶴の絵画、豊臣秀吉・一休宗純の書、そしてキーファーに至る外国勢までの多彩な世界。“スーパーフラット(超平面)”とは、既存のジャンルやヒエラルキーを超えた何でもありの境地。横浜美術館の開催と並行して、六本木の森美術館では“村上隆の五百羅漢図展”も開かれました。入場者は30万人を超え、外国人の多さにもビックリ。全長100メートルの画面を“白虎・玄武・青龍・朱雀”に分けて描かれる500の羅漢。日本美術の本質を、オタク文化(マンガ・アニメ)にもつながる“スーパーフラット”と見抜き、その世界観は西洋美術の文脈からの完全な離脱。とはいえ、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションもやってのける商売上手。2000年代にはフリードマンの“フラット化する世界”が日本でもベストセラーになりました。“ビジネスは芸術を模倣する”との黄金則に従えば、ビジネスにおける創造性にも“おもちゃ箱”が必要なのかも。梁塵秘抄では“筑紫の門司の関、関の関守老いにけり、鬢白し 何とて据えたる関の関屋の関守なれば 年の行くをば留めざるらん”とあります。関守も時の経過だけは止められないとの理。“変わるために、変わらないものを確認する”と芭蕉。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
仕事と人生、創造的な姿勢で立ち向う 創造性を刺激する場所に人は集う
組織の都合でなく、組織の方が働く人の暮らしたい都市や地域に立地する
仕事一辺倒では追いつけない遊びの空間 自己組織化のパワーを生み出す
リチャード・フロリダの専門は都市社会学で、カーネギーメロン大学教授時代に一度会う機会がありました。新しい地域発展モデルとして“創造的階級(クリエイティブ・クラス)”に着目、新たな経済の支配階級の台頭を研究しています。創造性については“3つのT”が不可欠だと主張、それが“技術(Technology)”“才能(Talent)”“寛容(Tolerance)”です。技術と才能についてはごもっともというしかありませんが、最後の“寛容”は余りなじみがありませんよね。これは、“人口の流動性”や“人種・宗教・LGBT(性的少数者)の許容”などを意味するとのこと。三つの評価尺度を用いることで、創造的階級にとって自己実現の重要な手段となる居住地をフォーカス、“創造都市”というコンセプトを提案しました。組織の側が、創造的階級が暮らしたいと望む地域に立地を考える時代。 “人生で最も大事なものは逆境と良き友”と科学者・糸川英夫。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
企業の事業開発や商品開発でも 自らの世界に籠もり、似た構造を内に抱えている
アプリケーション(用途)コンセプトは、専門分野の深掘りだけでは生み出せない
シューマイ専門店 シューマイ抜きの弁当をヒットさせるだけの、発想と思い切り
顧客は自らが欲するものを、ますます自らの口で説明できなくなっています。経験・ノウハウは重要な武器になりますが、そこに“編集・研磨”が加わらないと壁を撃破できない恐れも。経験知をいったん抽象化して、それを論理的に再構成して一つの概念へ到達するプロセス。明治時代の思想家が喝破した“客観を主観で捉え、主観を客観で捉え返す”という反復作業。戦後の日本人は、それを自然体で受け止め、“VHS”“インスタントラーメン”“ウォークマン”などを世に送り出してきました。そこに裏ワザはなく、“多くの人間と接触する”“人材の流動性を高める”“異種技術との出会いの場を増やす”“二項対立を無化する(フラットな世界)”などの正攻法。4億年以上生きている植物に学び、今こそ必要なのは地べたを這う戦略思考。“コブラは猛毒を持つがゆえに危険であるが、一方でそれを逆手にとりファラオを守る役割を与えた”のが古代エジプトの歴史。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
素質や才能という前に、自力で解決する意志と意欲をもっていること
米国企業の採用基準 一生、弛まず学び続けることができるかどうか
学校の勉強は、あくまで準備体操・練習問題 本番への覚悟を固める
真のプロフェッショナルは教えず指示も出さない。一流の音楽指揮者は指示を出すのでなく、空間をつくって楽団員を招き入れるなどの工夫を怠らないとか。必要なのは“異質性を許容して概念化・統合化をはかること”。欧州経営大学院の研究では、失敗の本質として、“失敗しても因果関係をはっきりさせない”“経験に頼りすぎる”“同じ失敗を繰り返す”“一旦下した評価を変えたがらない”“当初の目標に拘り過ぎる”などを指摘しています。日本にもそのまま当てはまりそうですね。対応策として“既存手法と独自手法を組み合わせる”“業績目標でなく行動目標を設定する”“他社には追随せず自力で考える”があげられています。状況が急激に変化すると現状の情報・知識だけでは不十分、瞬時の判断には直観的・倫理的な価値観こそが命綱。“バカっていうのは、自分がハダカになること。自分だけの、ものの見方や生き方を押し通すこと”と漫画家・赤塚不二夫。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)(二)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第38回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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