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夏目かをるの “くもとは”(第2回)
特別企画<インタビュー> 歌舞伎から新派へ 人気女形・市川春猿改め新派俳優・河合雪之丞誕生! 次世代への夢を馳せる、演劇人としての熱い情熱が今ここに。

by staff on 2016/12/10, 土曜日

三代目猿之助師匠の愛弟子の一人で「二十一世紀歌舞伎組」の人気女形・市川春猿が、劇団新派へ移籍。
大女優の水谷八重子・波乃久里子と共演する1月新春新派「華岡青洲の妻」の稽古直前に語ってくれた心情、新派への思い、さらに「華岡青洲の妻」を語ってくれた。

歌舞伎、新派、テレビのバラエティなど、ひっぱりだこの市川春猿さん。目元涼しく、まつ毛も長く、しかも西洋風な面立ちも宿す女形として、三代目・市川猿之助(現・二代目猿翁)率いる澤瀉屋(おもだかや)一門の人気スター。艶っぽい女やコケティッシュな娘、さらに女スリと波乱万丈の女性まで、ありとあらゆる女性を個性的に演じてきた。

1988年に国立劇場の歌舞伎俳優研修を修了して三代目市川猿之助(二代目猿翁)に入門。歌舞伎一筋にまい進してきた春猿さんが、来年1月三越劇場「初春新派公演」で、春猿改め河合雪之丞として劇団新派に入団すると発表した。雪之丞としてのスタートが、来年1月三越劇場初春新派公演の「華岡青洲の妻」だ。
http://www.kabuki-bito.jp/news/3627

歌舞伎ファンなら、ショックを隠せないだろう。しかも春猿さんが三代目猿之助師匠の頃に結成した「二十一世紀歌舞伎組」から応援していたファンは尚さらだ。

春猿改め河合雪之丞として第一歩を踏み出した今の心境と、新派に新しい風を吹かせようとする心意気から演劇論、さらに水谷八重子、波乃久里子らと共演の新春新派公演「華岡青洲の妻」(1月2日~23日)で、妻・加恵役への意気込み、見どころを語ってもらった。

人気女形歌舞伎俳優から新派俳優へ。新派に魅せられたきっかけ。

夏目(以下―――) 春猿さん、いえ河合雪之丞さん。このたびは移籍おめでとうございます。といっても、歌舞伎歴20年で歌舞伎本の共著(「歌舞伎入門 役者がわかる!演目がわかる!」世界文化社 http://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/14207.html)も手掛けた私にとっては、フクザツな心境です。新派俳優としてスタートした雪之丞さんにエールを贈りたい、でも同時に、春猿さんの歌舞伎が観られないのかと思うと残念でなりません。

雪之丞  ありがたいことです。私自身の個人的なわがままで(劇団新派に)行かせていただくことになりました。市川猿翁師匠の元で歌舞伎を29年間勉強させていただき、その中で、師匠はもちろん、先輩、同輩、後輩、スタッフの皆様など周りの方々に支えられて参りました。今回の新派入団にあたり、今までの皆様に対する感謝の気持ち、そして自分に対する厳しい気持ちを新たにして、これからも一層努力していきたいですね。新たな挑戦を見守っていただきたいです。

―――  ファンを代表として、新派俳優への道のりをお聞きしたいです。まず三代目・市川猿之助(現・二代目猿翁)師匠に相談した時に、師匠は何と言われたのですか。

 

雪之丞  「『あんた、いいよ、新派、似合っているよ』と言われました。

―――  大小判を押されたわけですね。

雪之丞  太鼓判というわけではないですが、旦那(師匠)がそう仰ってくれたので、ありがたかったです。

―――  では、歌舞伎には、春猿さんの出演はないということですか。

雪之丞  でも同じ会社(松竹)ですから、交流はあります。今後も交流を深めていきたいと思っています。

―――  それは楽しみです。歌舞伎ファンとしてもほっとしました。歌舞伎の方々との共演もあり得るというころですね。
ところで、新派への道のりはいかがですか。新派に興味を持ったきっかけは何ですか。

雪之丞  リサイタル(勉強会)で「明治一代女」をやらせていただきました。本来は歌舞伎役者ですから、歌舞伎の演目を選べばよかったのですが、「明治一代女」をやってみたくて、やらせていただいた。その時は新派に移籍するなんて、全く考えていませんでしたね。その後「滝の白糸」(2010年)をやらせていただいた頃から、毎年のように新派の作品に出演させていただきまして。

―――  「滝の白糸」で手ごたえを感じた、ということですか。

雪之丞  そうですね。その後「葛西橋」(12年)で女3役を早替わりで演じ、その後も「婦系図」「狐狸狐狸ばなし」と勉強させていただき、まただんだんと新派の魅力にのめり込んでいきました。

―――  新派の魅力とは何でしょう。魅了された雪之丞さんの新派に対する“思い”というのは、どういうものですか。

雪之丞  新派の全盛期には、年間12か月の公演があったと言われています。新派の作品には素晴らしいものが多いんです。花柳章太郎(※1)先生の「花柳十種」(花柳章太郎の代表的な10の芝居※2)など、花柳先生亡きあとに制定されたものですが、有名作品でも上演されていないものもあります。その作品もきちんと吟味してやる必要がありますね。
そのほかにも、ものすごい数の作品があります。いま掘り起こして読んでみると、とても面白い。現代に当てはめても、面白いものがいくつもありますので、そういう作品を掘り起こして復活させる作業も、やっていきたいですね。

―――  現代に通じる“新派”の魅力を復活させるということですね。

雪之丞  そうです。それから既存の古典や有名作品をしっかり観ていただくために、新しい作品、作家、演出の3つを柱に、つまり古典の継承、過去の作品の復活、新しい作品づくり、この3つを柱にしていきたいです。
これは私たちの次世代へと繋げていくためです。その時代に応じて、新しいものを作ればいいと思います。今が新作でもやがて古典になっていくのですから。
まずは素晴らしい新派の作品を、少しでも多くのお客さんに触れてもらえればと思っています。
特に若い人に面白かったというものをやっていかなければならない。新しい新派を観てもらうことがきっかけとなって、古典の新派に興味をもってもらえたら、嬉しいです。
師匠の猿翁も、古典を掘り起こして、古劇の復活から古典の再創造、スーパー歌舞伎というスピード、スペクタクル、ストーリーの3Sで創造していったという精力的な活動がありました。

―――  やはり猿翁師匠の弟子ですね!進取の気性もちゃんと継承していますね。

雪之丞  師匠の猿翁が作った三代目猿之助48撰(※3)があります。それぞれ大当たりしましたが、それを新派に活かしたいですね。素晴らしい作品を多くのお客さんに触れてもらいながら、次世代へと繋げていきたいです。歌舞伎で学んだことを、しっかりと生かすためにも。

―――  新派へ新しい風を吹き込むことになりますね。

歌舞伎役者が新派俳優を演じる意味は、「歌舞伎のノウハウを駆使すること」

 

―――  ところで新派と歌舞伎の違いは何でしょうか。

雪之丞  新派には女優さんがいることですね。それ以外に、大きな違いはないです。

―――  なるほど。新派に女優がいる、ということで何が変わるのでしょう。歌舞伎と比較して、いかがですか。

雪之丞  女優さんも一緒に舞台に立っていることでの違いはないです。芝居や流れ、作りということでは、全く変わりはないですから。

―――  では歌舞伎の女形と新派の女形の違いは何でしょう。

雪之丞  違いはないですね。芝居の作り方の違いもないです。
ただ、新派には「削ぎ落しの美学」みたいなものがあって、「言いたいけど、言わない」とか「しっかり決まりたいけど、決まらない」など、要するに「やれるけどやらない」というのが、新派らしいところでしょうか。

―――  そこに余韻を残し、観客に想像してもらうのでしょうか。

雪之丞  想像というものではないけど、技術的なことでいえば、柝(き)が入るところにわざと動きをあてないとか。
歌舞伎なら、(音に)動きをあてますね。あてないとおさまりがきかない。
でも新派は、わざわざそこを外す。でも外しすぎると、ダメなんです。

―――  外しすぎないために、そこに間を置くとか

雪之丞  ちょうどよい間をわかって外すから、良いわけです。できない人がやらないのと、できる人がやらないのとでは、全く違ってくるわけで。

―――  センスがものすごく問われることになりますね。

雪之丞  だから、それが技術力であって。削ぎ落していく技術です。

―――  難しいですね。

雪之丞  難しいです。それを歌舞伎で培ってきたノウハウで発揮していくことが、歌舞伎役者が新派に入る意味ということかもしれません。

―――  歌舞伎のノウハウを駆使して、新派でさらに雪之丞さんという演劇人が成長していくということですね。

雪之丞  成長していかなければいけませんね。私たちは師匠を始めとして、育ててもらったわけですから、それを活かすことが大事なことです。

―――  師匠からもらった大きなものは何ですか。
以前取材した時に、師匠は女形にしか身の周りの世話をさせなかったので、師匠のお世話をしながら歌舞伎の稽古を行い、地方巡業の時は深夜まで、眠る時間以外は師匠のそばにいたということでした。日常的な心遣いを学び、それを舞台に生かす…。それが結果的によい修行になったと仰っていましたが。

雪之丞  その通りです。そばにいて、観て聞いて学んだことを持って、新派に行くことが大きな手土産だと思っています。

―――  信念をお持ちですね。

雪之丞  自分で思ったことを実現して、お客様の前で見せていくというのは、大きな責任を伴いますから、当たり前のことです。

―――  移籍したばかりですが、忙しいほど息抜きが大事だという人もいます。
リフレッシュはいかがですか。ゴルフ歴4年だそうですが。

雪之丞  ゴルフは大好きです。屋外に出て緑の中で呼吸をすると本当に気持ちがいい。
最近は忙し過ぎて、ゴルフから遠ざかっているのが残念です。

弱い女から強い女へ。がらりと変わる妻・加恵を演じる「華岡青洲の妻」

―――  来年1月公演の「華岡青洲の妻」に対する意気込みや見どころを教えてもらいたいのですが、まず加恵という役は、これまで多くの方が演じてきましたね。

雪之丞  歌舞伎では坂東玉三郎さん、そして水谷八重子さん、大地喜和子さん、小川真由美さん、池内淳子さん、などなど。有吉さんの原作が素晴らしいです。出版(1966年)からわずか2年で舞台化されている。舞台向きの作品です。

―――  有吉さんの歴史小説を読むと、「この時代に生まれてきてよかった。女は自由になった」と感慨深いものがありますが、読み進めるうちに、ぐいぐい物語の世界に引き込まれます。この作品も、華岡青洲という医師の功績を、「嫁姑問題」に絡めて描いていますが、妻の加恵、姑の於継、小姑の小陸や於勝など、4人の女性達のそれぞれが現代にも通じるところがあります。
特に小陸が加恵に「あなたは(母の於継に)勝ったんだ」というくだりでは、今を生きる女性達の実態に迫る台詞です。10年以上前に、「負け犬の遠吠え」が火をつけたことから、女子同士のバトルが目に見えるようになり、キラキラ女子やこじらせ女子、腐女子などの言葉が生まれ、さらにテレビドラマでも舞台となった高層マンションのママたちの格付けに見られる女子カーストへと繋がっていっています。
加恵を演じるに当たって、どのような役作りをプランされていますか。

雪之丞  強い女ですが、女の弱い部分もあり、それをしっかり見せなければならないですね。

―――  憧れの女性・於継に乞われて嫁に迎えられ、まるで実の娘のように睦ましくしていたのに、青洲が遊学先から帰ってきてから、がらりと状況が変わりますね。憧憬や愛情から、孤独、そして憎悪へと向かっていきます。

雪之丞  がらっと変わりますね。これが芝居だと思うほどに、一瞬にして変わる。
それに伴って、最初はめそめそ泣いていたのに、だんだん強くなっていく。
嫁姑の対立を、小姑の小陸や於勝が俯瞰して見ていますね。母親と一緒になって、義理の姉の加恵をいじめるわけでもなく、俯瞰して、見ている。

―――  見ていますね。舞台では、それがどのように演じるのか、楽しみです。
ところで女同士のライバル意識というのは、女性だけでなく男性にもあるのではないでしょうか。

雪之丞  男性の場合は、仕事という場で闘っていますが、対他人ですからね。仕事から帰ってくれば、後は味方だけです。ところが当時の女性は嫁姑という関係で、家の中で24時間闘っているわけでしょう。その意味でも、女の強さとか、信念とかをぐっと抑えているわけですよ。ぐつぐつと煮えていたお湯が、最後にばっと沸騰するんですから。

―――  「ぐつぐつと煮えていたお湯が、最後にばっと沸騰する」。その表現だけでも面白い芝居だということが、だんだんわかってきました。役作りで一番大変なことは何でしょう。

雪之丞  紀州弁を覚えることですね。これが大変で‥‥

―――  これから稽古が始まりますが、どのように臨む予定ですか。

雪之丞  歴代の諸先輩達がずっとやってきた芝居ですから、できるだけ近づけるようにしたいですね。
共演の大先輩お二人(水谷八重子、波乃久里子)が、共に加恵を演じられてきましたので、お二人からご指導を賜られたらと思っております。

―――  最後に「華岡青洲の妻」への意気込みを教えてください。

雪之丞  私にとって新派移籍の第一作であると同時に、いろいろな方が演じてきた作品となりますから、この芝居を観てくれた方が、新派という一つの劇団を知ってくださり、さらにこれからの新派を観てもらえるようなきっかけになればと思っています。

―――  ありがとうございます。今から公演が待ち遠しいです。

インタビュー 2016年11月21日

※注釈

花柳章太郎(※1)
戦前から戦後にかけて活躍した新派を代表する美貌の女形役者。1952年の新派大同団結以後は座頭となって劇団を統率。初代水谷八重子との名コンビで次々に傑作を世に出す。1964年4月、演劇評論家らによって花柳章太郎の代表的な10の芝居「花柳十種」が選定された。

「花柳十種」(※2)
「歌行燈」「鶴亀」「蛍」「大つごもり」「あじさい」「夢の女」「鶴八鶴次郎」「遊女夕霧」「佃の渡し」「京舞」

三代目猿之助48撰(※3)
澤瀉屋(おもだかや)猿之助には「猿翁十種」(昭和39年制定)・「澤瀉十種」(昭和50年制定)、そして「猿之助十八番」(昭和63年制定)という澤瀉屋の芸がある。
2010年3月、自身が創り上げた、「復活通し狂言十八番」「猿之助新演出十集」「華果十曲」「新作・スーパー歌舞伎十番」の計48作品を、「猿之助四十八撰」として制定した。

初春新派公演「華岡青洲の妻」

2017年1月2日(月)~23日(月)
午前の部:11:00~(2日、3日のみ13:00~開演)
午後の部:15:15~
11月30日(水)チケット受付予約開始
劇場:三越劇場
【ご観覧料】9,000円
見どころ・キャスト
http://www.shochiku.co.jp/play/others/schedule/2017/1/post_298.php#tab02
日程・上映時間
http://www.shochiku.co.jp/play/others/schedule/2017/1/post_298.php#tab01
チケット情報
http://www.shochiku.co.jp/play/others/schedule/2017/1/post_298.php#tab03

        © 松竹株式会社

河合雪之丞 プロフィール

  1970年東京都出身。
国立劇場第9期歌舞伎研修修了後、3代目猿之助(現・猿翁)に入門。
女形・市川春猿として猿之助が主宰する21世紀歌舞伎組に所属。
澤瀉屋(おもだかや)一門の人気スターに。
2016年10月27日、新派移籍を発表する。
新芸名は大正から昭和にかけて新派を支えた女形の「河合武雄」の名字と、猿翁が勧めた「雪之丞」を合体させたもの。
師匠の猿翁がかつて名乗ろうとした「雪之丞」という名前をもらい、新派へと門出する。

撮影:星野真 http://makotohoshino.wixsite.com/m-h-photography

撮影協力:銀座メゾン アンリ・シャルパンティエ http://www.henri-charpentier.com/shop/ginza-maison/

筆者紹介

 
氏 名 夏目 かをる (なつめ かをる)
プロフィール

秋田県大館市出身。立教大学文学部日本文学科卒。

横浜との縁は、神戸育ちの母親が「横浜に来ると神戸を思い出す」とひいきにしていたので、横浜が大好きになりました。

2万人以上のワーキングウーマンの取材を元に、恋愛や婚活、結婚をテーマに、新聞や雑誌、Webで活動。恋愛婚活結婚コラム、女子力アップ、コミック原作、小説、絵本コピー、ルポ(「同窓会恋愛」)婦人公論、週刊朝日)、「歌舞伎入門」(世界文化社)、映画コラム(「WOWOW」など)幅広く活動中。

小説「ボディ・クラッシュ」(河出書房新社)、「季節はずれの恋」(講談社ムック「大人の隠れ家」)など飲食雑誌で飲食恋愛小説も執筆。

14人のインタビュー集「英語でリッチ!」(アーク出版・旧・佐々木真理刊行)で第12回ライターズネットワーク大賞受賞 。

10万人に一人の難病を後遺症なしに完治したことなどでテレビ出演、講演(神奈川ロータリークラブ)なども多数。

恋愛や婚活の相談にも応じています。
詳細はこちらをご覧ください。
HP: http://tcw.jp/moon-river/

 

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