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アートのひみつ(第9回) その音楽、実はずっと生モノにつき。

by staff on 2017/9/10, 日曜日

第9回 その音楽、実はずっと生モノにつき。

みなさん、こんにちは!横浜トリエンナーレ2017が先月から始まりましたね。現代アートシーンを体感できる身近なイベントであり、国際展でもあります。私もじっくりと楽しみながら観たいと思っています。(開催期間8/4~11/5)
2001年、あのインパクトのあった巨大バッタのオブジェを見てから17年。港と倉庫と風にパタパタと揺れるたくさんの旗と空の色。残暑の記憶…。またあるときは少しひんやりした秋の空気の記憶とセットになっていたり。

ある香りを嗅ぐと思い出す記憶、または、ある時に聴いた音楽でよみがえる記憶。私たちは何かを手がかりに、しまっておいた記憶を引き出しを開けるように取り出すことがあります。
五感を手がかりにするならば、他にも風景を見たり、手触りだとか、懐かしい味だとか、いろいろありますね。

記憶、または追憶という点では当てはまるような作品があります。それは絵画作品ではなく、音楽にもあります。実は絵画からイメージして作られたとされる作品がいくつかあります。風景画もありますが、今回は人物画からインスピレーションを受けた作品をご紹介。
その曲は、有名すぎるであろう、モーリス・ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」です。
スペインの画家、ディエゴ・ベラスケスがマルガリータ王女を描いた作品は「女官たち(ラス・メニーナス)」で知られていますが、ラヴェルは数点残された「マルガリータ王女の肖像」の中のルーブル美術館にある作品からイメージしたとか。

この青い衣装のマルガリータ王女は8歳で、ラヴェルが観たのはもっとあどけない2歳ごろの王女の姿でした。
宮廷画家によるこの王女の2歳ごろから15歳までの肖像画は複数枚あり、お見合い写真のような役割を持っていたようです。

マルガリータ王女はスペイン・マドリード、オーストリア・ウィーンのハプスブルク両家に続く政略結婚(母娘二代で叔姪婚)、その後、わずか21歳でこの世を去っています。没するまでの6年間の結婚生活で6人の子を出産(!)。彼女には持病もあって波乱な人生だったようで…。

「亡き王女のためのパヴァーヌ」が大ヒットになった理由は作曲の技巧に加えて、その運命、ストーリーにあったのではないでしょうか。当時は若い女性に人気の曲だったそうです。たしかにこのタイトルを見れば気になりますよね。
ラヴェルが残されたマルガリータ王女の肖像画をすべて観たのかはわかりません。ですが、幼い王女の姿を観たことで彼女の生涯を思って作った曲ならば、「亡き王女…」というタイトルは不思議ではないでしょう。

幼い王女がだんだんと成長していく過程をベラスケスは見事に描ききっています。堂々とした佇まいの8歳のマルガリータ王女のはすでに王族の顔になっているように見えます。この作品もベラスケスの代表作のひとつです。
一見、音楽と絵画はそれぞれに確立したものに見えるので影響しあうように思われないジャンルですが、ゲージュツという作用は幅が広いというか、本当に懐が深いですね。

実際にこの曲を聴くとき、「逝ってしまった王女へ捧げた哀しみの表現」というよりも、はかなげではあるけれど洗練された美しい旋律が印象的です。日本語に訳したタイトルの意味そのままを受け取るより、原題の韻を踏んでいるニュアンスのほうがこの曲らしいという気がします。

それと、音楽と絵画だけの関係にフォーカスするならば、その明らかな違いは「時間」です。時間がどのように支配するか?その違いだけだと私は思うのです。
ジャンルと「時間」を越えたラヴェルが素晴らしい表現を生み出し、さらに過ぎていく時間を超えていく。それをまた私たちは感じることができています。私たちの興味は移り気ですが新旧なんてことはどうでもよくなってくるように思えます。

時を超え、ラヴェルが惹きつけられたごく幼い王女の姿にはベラスケスの容赦ないまでの描写力、描かれた人物の人生までも滲ませる力が働いているように感じます。
別の画家の手によるマルガリータ王女の15歳の肖像画にも受け継がれ、表れています。ぜひこちらも機会があれば観ることをお薦めします。

そして、ぐっと迫ってくるような音楽、絵画はいつまでも新鮮で、現代アートと呼ばれるものと同じ場所にあります。歴史の順番に新旧はあっても古びることはないものだと私は思うのです。

筆者紹介

 
本 名 山田 明子 (やまだ あきこ)
略 歴 東京都生まれ
1994年 女子美術大学短期大学部卒
美術家 臨床美術士
Art Factory星組 代表
 
通信会社勤務を経て、2014年より高齢者施設などへ出張アート教室をおこないながら、横浜元町で「感性を生かし、育てる」アート教室「横浜MOTOMACHIアトリエ星組」を運営中
星組、臨床美術についての情報
  ☆横浜MOTOMACHIアトリエ星組☆
~「自由な感動」を育む「感性のレッスン」を~
http://artfactory-hoshigumi.crayonsite.com/
 
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☆臨床美術について☆
「臨床美術」は医師と芸術家によって作られた芸術療法です。
現在では学校やオフィスでの感性教育、病院や高齢者施設でのリハビリテーションに取り入れられています。

 

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