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アートのひみつ(第10回) 浮世絵を支える匠の技

by staff on 2017/10/10, 火曜日

第10回 浮世絵を支える匠の技

みなさん、こんにちは! 秋はいちばん月がきれいに見える季節ですね。今年は、10月4日が中秋の名月。(満月になったのは10月6日)美しい中秋の名月を見ることができたでしょうか?
この中秋の名月(十五夜)に次いで美しい月だといわれる「十三夜」(今年は11月1日)があります。十五夜の次に見えるので「後の月」(のちの月)とも呼ばれます。

日本ではこのように月の美しい季節が大切にされてきました。日本の絵画でも絵のモチーフにもなることは多く、また、月の姿そのものではなく月夜、月光、月と季節の風景など日本ならではのとらえかたも見られます。
今回は「武勇雪月花之内五條之月」、牛若丸と弁慶のエピソードがテーマになっている錦絵をご紹介します。

錦絵とは、浮世絵と聞いてパッと思い浮かぶあの多色摺りの木版画のことなのですが、浮世絵という絵画ジャンルに錦絵のスタイルが含まれていると言ったほうがわかりやすいかもしれません。
時代が下るにしたがって多色摺りの錦絵は進化して明治の頃にはド派手にも見えるあざやかな色使いも増えていっそう華やかな絵になりました。

この絵も制作年は不明ですが、幕末から明治に活躍した月岡芳年によるものです。三枚続きの大判錦絵はとても豪華です。芳年が描くテーマは美女から軍記モノ、妖怪までじつにオールマイティ。ちょっと怖い絵もあります。妖しげなテーマもお手のもの。それに「月」というのはどこか神秘的ですよね。

こちらはよく知られた五条大橋での牛若丸と弁慶の出会いの伝説をテーマに描かれています。薙刀で斬りかかる弁慶を「こっち、こっち~!」と挑発しながら身軽に飛びかわす牛若丸。同じテーマは芳年の最晩年の「月百姿」にも登場しますが、この作品には牛若丸と弁慶の他に天狗がたくさん描かれています。

天狗は妖怪や魔物とされますが、実は修験道、山岳信仰とも近い存在です。牛若丸に武術を手ほどきしたのが鞍馬山の大天狗、谷に住む僧正とされています。ここに描かれているのは鞍馬山僧正坊の他に、比良山次郎坊、愛宕栄術太郎、飯綱三郎、白峯相模坊、大山伯耆坊、彦山豊前坊、大峰山前鬼坊。
いわば日本代表の大天狗(八天狗)の姿。日本各地にある山岳信仰の神社の祭神の姿でもあります。五条大橋の伝説にプラスして日本代表の大天狗を描く…内容も凝った作品です。

もともと浮世絵は「当世風の、今風の」という意味で「風俗画」であり、最新ファッションから注目の旅行ガイドブックの役割まで、最先端の流行のモノ、コトを描いたものでした。また、最初から木版画ではなく、絵師が描く肉筆画の時代が長かったようです。
浮世絵が円熟期を迎え、1800年代はヨーロッパから化学染料も入ってきて、あの印象的な藍色も効果的に使われるようになります。浮世絵に描かれるテーマも多様になり、おなじみの人気絵師が続々と現れます。
そして、浮世絵は分業で、彫り師、摺り師、版元の存在は重要でした。

そこで思い出すのがフランスの「ポショワール版画」の技術。ピカソ、マティスも好んだ版画の技法で、英語だとステンシルと同じ方法です。
銅版などの薄く堅い金属金属版を切り抜いて、その孔の上から刷毛を使って彩色します。しかし、複雑な色彩の作品は100以上の型版が必要であらゆる行程で高度な職人技を必要とし、大変手間がかかります。

「ポショワール版画」は孔版画なので原画を左右反転せず正像で仕上げていきます。ところが浮世絵は凸版画ですから鏡像になります。ステンシルのような技法も用いられたりもしますが、肉筆画と間違われるほどの彫りと摺りの技術はどんなに洗練されたものだったか想像できますか?
さまざまなぼかしの技法、絵の具を使わずに摺る、エンボス加工のような空摺りやきめ出し、見る角度によって模様が表れるつや摺り(正面摺り)…。

ポショワール版画もそうですが、浮世絵は近代以降は携わる人が減り続け、他のジャンルへと受け継がれていきました。しかし、絵師、彫り師、摺り師のすべての技は残すべき日本の文化だと私は思います。

今年はロンドンの大英博物館で69年ぶりに北斎展が開催され、相変わらずの人気ぶりだったとか。
今年は日本でも関連の展覧会もまだありますから、人気絵師を支えた彫りと摺りの技を本物を観て味わってみてはいかがでしょうか。

筆者紹介

 
本 名 山田 明子 (やまだ あきこ)
略 歴 東京都生まれ
1994年 女子美術大学短期大学部卒
美術家 臨床美術士
Art Factory星組 代表
 
通信会社勤務を経て、2014年より高齢者施設などへ出張アート教室をおこないながら、横浜元町で「感性を生かし、育てる」アート教室「横浜MOTOMACHIアトリエ星組」を運営中
星組、臨床美術についての情報
  ☆横浜MOTOMACHIアトリエ星組☆
~「自由な感動」を育む「感性のレッスン」を~
http://artfactory-hoshigumi.crayonsite.com/
 
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「臨床美術」は医師と芸術家によって作られた芸術療法です。
現在では学校やオフィスでの感性教育、病院や高齢者施設でのリハビリテーションに取り入れられています。

 

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