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しあわせの「コツ」(第12回) 「品(ひん)」はどこから来るか

by staff on 2017/12/10, 日曜日

第12回 「品(ひん)」はどこから来るか

京都 源光庵

「人は見た目が9割」と、最近は言われます。SNSでも若い人たちは「インスタ映え」する写真を撮るための工夫に余念がありません。ファッションでも「盛る」という言葉が使われますが、メイクや髪型をいじって少しでも見栄えを良くしようとします。見た目を良くすること自体、別に悪い事ではありませんが、「表面」を繕えばそれでOKという流れになっていくのは寂しいものです。

流行は絶えず変化します。時代によって「美」の基準も変わります。けれども時を超えて伝わるものには、何か共通するものがあるように思えてなりません。それはただ美しいだけ、ただ品質が良いだけではない何かがあります。

ユナイテッドアローズの設立者で現名誉会長の重松理(しげまつおさむ)氏は、美意識の背景にある「品」の世界について、次のように語っています。

「奇策はありません。あくまでも正攻法。それは “理に順う” ことです。つまり、自然の理(ことわり)や社会の道理から外れていないこと。いかに原料の品質が良くても、縫製をいい加減にしていたら商品はけっして美しくならない。その逆も然り。それはものづくりの理に適っていないからです。」

重松理氏 自宅に作った数寄屋造りの一室にて

良い品(しな)には品(ひん)がある。
なぜなら、良い品は「細部をゆるがせにしない」からです。見えない所まできっちり仕上げてあり、それが仕上がりの質を支えているのです。

見えない所も手を抜かない ― それは日本人の仕事ぶり全般に言えることではないでしょうか?仕事に対するこの姿勢は日本人の誠実さの表れであり、商品でいえば、「ジャパン・クオリティ」と呼ばれる世界に認められた品質の高さとなって表れています。私たちの日常生活を見渡してみると、不思議と「見えない所も手を抜かない」現象、というか、むしろ「見えない所を手抜きすると成り立たない」事象が多いことに気づきます。

例えば和服の着付け。

肌襦袢はもちろん、長襦袢や伊達締めなどをきちっと着付けていないと、着崩れしやすいものです。どれほど高価な着物でも土台がきちんとしていなければだらしなく見え、せっかくの美しさが引き立ちません。見えない部分が見える部分を支えているのです。昔の日本人はこの理(ことわり)を、小さい時から着物を着るときに自然に身に着けていました。

遊びでも同じこと。
日本人なら誰でも折り紙の一つや二つは折ったことがあるでしょう。

鶴のような簡単な作品でさえ、最初の折りを正確にしないと、翼の形がちぐはぐになったりして、美しい形に仕上がりません。完成したら決して見えることのない折山を、ひとつひとつ、きっちりと折り上げていく先に、めざした形が現れてくるのです。

私たちは「手抜き」は美しくないことを知っています。なぜなら、手抜きして作られた作品の姿は「虚」、すなわち「みせかけ」だからです。素地を隠し、あるいは糊塗してそれらしく見せた姿は偽りの姿であり、美や品が宿ることはありません。偽りであるゆえ、それは時の試練に耐えることができません。いつしか色褪せ、やがて本性が隠しようもなく表れてしまうのです。

では、その姿が「実」すなわち本物であるものとは、どんなものを言うのでしょうか?

それは、外側からは見えることのない基本や土台をきっちりと踏まえ、完成までのプロセスのどこをとっても手抜きのない作品であるといえましょう。そういう作品の外観は、下から積み上げてきたプロセスの最上層であり、無駄のない必然の姿なのです。

 
     
高い技術力の表れ 江戸指物   指物師の丁寧な仕事ぶり

今まで積み上げた工程は目には見えませんが、そこに掛かった手間と時間が「厚み」となって「品」を醸します。しかも、この状態は完成形であると同時に、これからも努力と工夫によってさらに改良可能な状態でもあるのです。完成形でありながら未完成の状態。それは作品に謙虚さという美質を与えていることに注目しましょう。決して主張しないのに、凛とした気品がある作品。日本の職人が作った作品にはみな共通している特徴です。

同じことが人物にも言えるのではないでしょうか?
何千回、何万回と踊ってきた人の立ち振る舞いは、何気ない動作さえ美しく、品があるものです。深い教養を積んだ人の語る言葉は、簡潔な中にも含蓄や洞察に富み、付け焼刃の能弁な人の敵う相手ではありません。これらの人に共通するのは、押しなべて「謙虚」であることです。自分は未熟者だという恥にも似た自覚があることです。

「品」とは、コートを羽織るように上から纏うものではありません。ノウハウを学べばマスターできるものでもありません。自分の人生の様々な局面を、逃げず、目をそらさず、嘘をつかず、きっちりと立ち向かって生き抜いてきた時、隠れようもなく立ち上る「魂のかおり」、それこそが「品」と呼ばれるものの正体ではないでしょうか?

どんなポーズも絵になるほど美しいイチロー選手

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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