ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第62回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第62回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
2000年前後のシリコンバレーでは、 “紫色の木を描く” 人材の必要性が議論されました。既存の前提を否定・排除し、まさに想定外の発想・切り口を創出できる人材ということでしょうか。ただ、日本でも100年前に、画家・横山大観が “金色の富士山を描く” ことをやっています。想像力と構想力で見えていない価値を生み出すことでは共通。知の限界を破壊する問題設定に繋がる “抽象化能力” 。一人ひとりに求められるのは、やりたいと思うことをやるのに必要なスキルを強靭化すること。現在のスキル資源を正確に把握すること。忘れてならないのは、過去から現在までのスキルの分析・再評価でなく、 “何をやるか” の方向に沿った将来スキルを含めたものであること。手段系が先行して目的系が後回しになることだけはご法度。梁塵秘抄では “清太が造りし刈鎌は 何しに研ぎけん焼きけん造りけん 捨てたうなんなるに 逢坂奈良坂不破の関 栗駒山にて草もえ刈らぬに” とあります。造った鎌がナマクラ。ナマクラのままでは使いものにならない恐れ。 “アカデミアの知と実践的な知の垣根がインターネット型の知識編集によって取り払われ、真にグローバルでオープンな制度化が求められる” と今井賢一教授。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
考えることをやめると アイデアはストップする 絶えず考え続ける
新しいことに安易に食いつくのでなく 今やってることを軸に考える
旅人は遠くから到着 身体が着いた後でも心の到着を待つ、と開高健
作家・開高健はサントリー在職中に芥川賞を受賞。作家・山口瞳も在職中に直木賞を受賞しており、サントリーの文化・芸術に対する懐の深さが現在の組織風土にも反映されています。ベトナム戦争では、朝日新聞の特派員として戦時下のベトナムへ。最前線に出た際、反政府ゲリラの機銃掃射に遭うも生還。総勢200名のうち生き残ったのは17名。釣師としても有名で、 “オーパ!” など釣りをテーマにした作品に結実。現在の “キャッチ・アンド・リリース(釣った魚を川に戻す)” 思想を広めたともいわれます。 “成熟するためには遠回りをしなければならない。無駄を恐れてはいけない” が持論。 “今までは経済の効率化。これからは人間の効率化” と経営者で詩人(辻井喬)の堤清二。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
社内に散らばっている様々な高度専門性を統合 その中から特定のエリアに焦点
ナレッジマネジメントにおけるROI(投資収益率)の評価基準を何より明確に
恥ずかしがらず・我慢せず・遠慮せず・笑おう・喜ぼう・楽しもう、とニーチェ
ニーチェはドイツの哲学者。随所にアフォリズム(警句)を用いた巧みな表現に、多くの人間が鼓舞されてきました。音楽におけるワーグナーにつながるものがあるのかも。 “恥ずかしがらず・我慢せず・遠慮せず・笑おう・喜ぼう・楽しもう” とあくまでも前向き。健康上の問題を抱えながら孤高の立場を堅持。自分の著作がまったく売れないという悩みも。代表作の “ツァラトゥストラはかく語りき” は初版が40部。ゴッホが3000点の絵を描きながら、生前は1点しか売れなかったのと類似。それぞれの分野で屹立したヒーローも多くが生前は悪戦苦闘した典型例かも。 “今の世の中は解が出ない連立複次方程式。複雑すぎるから、どうしても単純な解を求めたがる” と経済学者・水野和夫。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
棟梁の条件 きちんとしたモノをつくることができる・人を育てることができる
予算の中で結果が出せる・周囲から信頼を得ることができる おかげ様の気持ち
生きるためにやる 自然への畏敬 これは技術ではない、と染色家・志村ふくみ
志村ふくみさんは染色家・随筆家。重要無形文化財保持者(人間国宝)で文化勲章を受章。時々、国立近代美術館工芸館(旧・近衛師団司令部)で拝見する機会があります。華やかな色は一切なく、植物染料で染めあげた抑制・深奥の美。志村さんは16歳で機織りに出合い、結婚後は専業主婦。その後、離婚を経て、娘二人を抱えてシングルマザーに。働いて二人の娘を食べさせなければならない決断を迫られた時、選んだのが “染色” の世界。死に物狂いで生命と向き合いながら切り拓いた染色の道。漆芸家・木工家の人間国宝・黒田辰秋からは “工芸はひたすら運・鈍・根に尽きる” と励まされました。 “緻密すぎる教育は鉢植えの木のような人を増やす” と明治時代の実業家・渋沢栄一。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(六)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第62回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.ne.jp/asahi/oura/ohura-research-institute/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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