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田中健介の麺食力-それから- 第3回 「本当の『あの頃の洋食』になる前に」

by staff on 2018/12/10, 月曜日

第3回 本当の「あの頃の洋食」になる前に

2010年に出版した自著「麺食力-めんくいりょく-」。横浜の麺料理とその周辺の情景を描きながらもほとんど売れなかった可哀想な本。著者自身も出来上がった本をほとんど読まずにいましたが、東京オリンピックを迎える2020年に出版10周年となるのを機に、改めて当時の内容を振り返り、現在の移り変わりを綴っていく、ついでに啜っていく企画をこちらでやらせていただいております。

今回は第三回目。本稿締切前日という切羽詰まった時期にも関わらず、師走だし「年越し蕎麦はぜひここで!」みたいな感じで行くかと、ぼんやりな企画を暢気に考えていたら、風の便りで衝撃的なニュースが入ったのです。

「洗濯船、12月29日で閉店です」

拙著で紹介した麺料理の名店は約150店舗。恐らく現存しているお店は確実に100店舗は切っているでしょう。出版から8年半という時間は、横浜の町並みを十二分に変貌させ余りあるほどのものです。閉店した店舗数は具体的に数えたことはありませんが、閉店のニュースは何らかの形で入ってくるので、その都度残念な気持ちになります。書に記録したということは、直にお店へ足を踏み入れ、食事を楽しんでいたのです。そんな思い出の場が失われるというのは、ちょっぴり切ないですね。

「あの頃の洋食 洗濯船」店舗外観(夜ですみません)。
かつて「ポートヨコハマ」という洋食店だったのを居抜きで開業したので
船・港をイメージした前店舗のコンセプトのままの外観となっている。

京急黄金町駅と横浜市営地下鉄阪東橋駅の間、どちらかと言えば黄金町駅寄り、中区末吉町にある「あの頃の洋食 洗濯船」。拙著をお持ちの数少ないファンの皆様は119ページを開いてこちらと合わせてお読みくださいませ。ない人は、ないなりに楽しめるよう書いていきますのでご安心ください。

風の便りは事実で、次々と来店する常連客は皆これを目にしては嘆いていた。

「お三の宮で生まれ育って、末吉町に嫁いだの。だからこの近辺しか知らないの。」と笑う店主・三好理恵子さんは、生粋のハマっ子。元々は夫婦で酒屋を営んでいたのが、三人の息子さんを育て上げた後に「好きなことをやろう!」と洋食屋を始めたのがきっかけ。拙著によれば「八海山」など、お酒のメニューも豊富である旨が記されていますが、元が酒屋だったということが窺い知れる部分です。

「昔の洋食屋さんのテーブルには必ずリーペリンソースがあったのよ。
ウスターソースの元祖。今の人はそれを知らないんじゃないかしら。
子供の頃は辛くて食べられなかったけれど。」
こんな風景ひとつ取っても店主・三好理恵子さんの洋食への造詣の深さがうかがえる。

メニューブックにはこれぞ洋食!というようなメニューが多く記載されている他に、ホワイトボードにも酒の肴になるような一品料理がズラリと並んでいます。これだけの料理の数々を一人で作り上げているのがスゴイ。さらに驚くべきはそれらがすべて独学によるものだというのです。独学系というのはどことなく素人感が滲み出る場合も少なくなかったりするのですが、洗濯船のメニューはどれを頼んでも丁寧に調理されていて、丁寧な盛り付け。お金を出して食べたい!と思える料理を作る人。ルーツはどうあれ、そのプロ意識の高さに心からリスペクトします。

ナポリタンはサラダもセットで付く。サラダがまた実に丁寧。

ナポリタンをアップ。
奇をてらわないシンプルなナポリタンをいかに毎日提供できるかがプロだと思う。

ハンバーグとか、フライ系もとてもそそるのですが、私はいつもナポリタンを頼みます。これは宿命です(笑)。いや、ここのナポリタンが好きなのです。三好さんが一番好んでいるサイズだという1.9mmのパスタに玉ねぎ・ピーマン・マッシュルーム・ベーコン。炒め油はオリーブオイル。これでベーコンを炒めるとベーコンから出る油とうまく融合して非常に良いまとまりが出ます。パイナップルビネガーがきいたデルモンテのトマトケチャップでフルーティーに仕上がります。シンプルと言えばシンプルですが、全具材が三好さんの手によって最適化された素晴らしいナポリタンなのです。

拙著で取り上げる旨は伝えていたが、面と向かっての挨拶は今の今までしておらず。
でも店内に拙著を置いていてくれたことはたまに確認していました。
私この本の著者です、なんて、時が経てば経つほど言うのは恥ずかしくなっていくもので。。。

何故閉店するのかと聞くと、最初は「平成が終わるからよ」とはぐらかしていましたが、最近膝を悪くしてしまい、ドクターから立ち仕事を控えるように言われたことが本当の理由で、じゃあまだ動くうちにスパッとやめちゃえと決断したそうです。
「自分で楽しみたいからって勝手にお店始めて、辞める時も勝手ね。お客さんはついてきてくれてたのに」
三好さん自身も、三好さんが作るナポリタンやその他の料理も、「ニュートラル」という言葉が似合うなあと。
今後はご主人とつつましく暮らしていくのだそう。これからもきっと楽しい事を見つけて生きて行かれるのだなあという雰囲気が感じられました。

三好理恵子さんと拙著。
もっと洋食の話を深めたいと思えた人物です。

私の属する日本ナポリタン学会では2011年より認定店事業を進め、2018年11月現在で全25店舗。年3.5店舗ペースで認定店を増やしていることになります。認定したいお店はたくさんリストとして持っています。洗濯船ももちろんその中のひとつで、機が熟すのを待っていた矢先の閉店の一報。悔しい。本当に悔しい。

筆者紹介

 
本 名 田中 健介(たなか けんすけ)
略 歴 1976年9月生まれ。横浜市出身。横浜市在住。
武相高校、神奈川大学卒業。
自称エッセイスト、本業は福祉関係。
ベイスターズファン歴35年、CKBファン歴17年。
 
2009年9月、日本ナポリタン学会設立、会長となる。
http://naporitan.org
 
2010年3月、著書「麺食力-めんくいりょく-」(アップロード)刊行
https://amzn.to/2DGVqiU(Amazonへ短縮リンク)
 
2017年5月~ 連載「はま太郎」(星羊社)「田中健介のナポリタンボウ」
https://www.seiyosha.net/
 
連絡先:hamanomenkui@gmail.com

 

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