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書評「水曜日の手紙」 角川書店 森沢明夫(著)

by staff on 2019/3/10, 日曜日
 
タイトル 水曜日の手紙
単行本 288ページ
出版社 KADOKAWA(2018/12/7)
ISBN-10 4041073162
ISBN-13 978-4041073162
発売日 2018/12/7
購入 水曜日の手紙

「誰かの言葉があなたを変える。
あなたの言葉も誰かを変える。
そうして世界は変わっていく。
今日はどんな言葉を口にする?」

この冒頭に驚いてしまった。本の読み始めと、読み終わってからの、この4行の言葉の私への問いかけが、まったく違うものになっていた。

「言葉はときに人の心を傷つける。でもこっそり手帳に書くだけなら、誰も傷つけはしない。だから安心して、自分のなかの “毒” を吐き出し続けてきたのだ。浄化、浄化、と脳裏で唱えながら。」日記を書き続けるのが苦手な人がいる。そう思ってしまった時に、日記は書けなくなる。こっそり書くだけなら、そして日記としてでなく、「今日の感謝」とかにして書いていくと続けることが出来る。

「変わらなきゃ。わたしはホームページから水曜日郵便局の公式の便箋をダウンロードして、それをプリンターで印刷した。その便箋には、水曜日の日付と本文を書くスペース、そして、ペンネーム、年齢、都道府県を書く欄があった。」読み進みながら、自分も書きだそうと思ってくるほどに、不思議な本だ。著者森沢明夫氏はベストセラー作家で、吉永小百合主演の「虹の岬の喫茶店」や有村架純主演の「夏美のホタル」など、映画化・ドラマ化もされている。

そっちの未来も悪くないけど、やっぱりぼくは現実の未来を選択するよー。今井洋輝はバイバイといいながら封筒を水曜日郵便局に投函する場面がある。「もう逃げません。ぼくは、ぼくの心に嘘をつきたくない。絵本作家になるために、勇気を出して、遊び心を持って、水曜日から一歩、前へと進みはじめます。たった一度きりの人生、死ぬときに後悔しないために」著者は変幻自在に言葉を書きつなげる。「そっちの未来も悪くないけど、やっぱりぼくは現実の未来を選択するよー。バイバイ。胸のなかでつぶやいて、手にしていた封筒をポストに投函した。ぼくは、ふたたびスーツの群れのなかに飲み込めれていった。」

「鮫ヶ浦水曜日郵便局―。ここが、いまの私の職場だ。」章が変わり話が変わる。局員の仕事は、すべての手紙に目を通し、公序良俗に反する内容がないか、子供に送っても大丈夫か、個人情報は記されていないか、などの項目をチェックしたあと、その手紙をシャッフルして別の誰かに宛てて発送することだ。ある時心を揺さぶられる手紙にであった。差出人の名前は井村直美さんの、子供の頃から夢だったパン屋さんをして成功したものだ。「ひとつひとつの藍色の文字から“感謝”が溢れていて、便箋そのものにぬくもりが宿っていそうにさえ思える」便箋の最後は次のようにしめくくられていた。「あなたと、あなたの周りの人たちの未来が、最高にきらきらしたものでありますように。いつも笑顔でいられますように。あなたがあなたらしくいられますように。私の水曜日を読んでくださって、ありがとうございました。」

「読み終えた私は、しばらくの間、便箋を手にしたまま窓の外をながめていた。」「夢を叶えた井村直美さんの手紙と、いま、まさに夢に向かって歩みだそうとしている今井洋輝さんの手紙を交換したらどうだろう・・・」「もちろん、手紙はランダムにシャッフルして発送するのが基本だが、例えば、どうしても子供に読ませたくなるような夢のある手紙を、あえて子供宛てに送ろうとか、病気に悩む人と心のケアをする医者の手紙を交換してあげようとか、そういう良心に基づいた “粋な気配り” ともいえるルール違反に関しては、局員たちのあいだでは暗黙の了解となっているのだった。」

画面は変わって、直美さんの実生活が出てくる。「夕方、パートの仕事から帰宅して玄関のポストをチェックした。すると、いくつかのDMに交じって一通の手紙が入っていた。宛名は、わたしの名前だった。誰からだろう? 封筒を裏返して、ハッとした。すっかり忘れていた水曜日郵便局からだった。」

<ぼくは絵本作家を夢見ていながら、会社をずっと辞められずにいるサラリーマンです>
<今日は水曜日の夜で、お酒を少し飲んでいます>
<たった一度きりの人生、死ぬ時に後悔しないためにどうしたらいいのか、と・・・>
<そんな自分が、嫌いになってしまいました>
<もう逃げません。ぼくの心に嘘をつきたくない。絵本作家になるために、勇気を出して、今日という水曜日から一歩前に進みはじめます>

直美さんはこの手紙を追い風として受け取ろうと決意をするのだった。

今井洋輝は勤めていた会社に育児休暇を申し出た。「妻となったカッキーと、生まれたばかりの息子の洋太との時間を慈しみながら、その一方で絵本の原稿を書き上げようと目論んでいたのだ」友達からのイラストの仕事を受けることにして思い切って会社を辞めた。フリーランス生活ですっかり曜日に無頓着になっていたけれど、テーブルの隅っこでスマートフォンが振動した。どうでもいいやと思っていたが「ぼくの目は“水”という文字を捉えていた。スマートフォンの画面に日付と曜日が表示されていたのだ。水曜日。」「サイドボードの下部にある引出のなかから、大切に保管してある一通の手紙をとりだした。そして、それを手にしたまま、ふたたび椅子に腰かけた。ぼくは本当に久しぶりに手紙の文面に目を通しはじめた。」

<わたしの水曜日を読んでくれるあなた、はじめまして。こんにちは。>
<最近、分かっってきたことがあります。それは、人が幸せになるには、いくつかの法則があるということです。>
<あなたと、あなたの周りの人たちの未来が、最高にきらきらしたものでありますように。>

「次の刹那―。僕は笑顔のまま固まった。絵本のアイデァがきらりと脳内に降ってきたのだ。」

“水曜日の手紙” は不思議な本だ。自分もなにか実行したくなる気がしてくる。そしてこの書評を書き上げていたのが、水曜日なのだった。

(文:横須賀 健治)

 

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