ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第74回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第74回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
昨年、上野の森美術館で “エッシャー展” が開催されました。想像以上に若い人が多く大混雑。若い人の鋭い時代感覚には驚嘆しました。40年以上前にも展覧会を見た記憶があり、今もその時のガイドブックが残っています。現実にはあり得ない情景を描き出す“だまし絵”の異才と思い込んできましたが、今回の美術展を通じて、建築装飾美術学校で学んだ建築技術者としての素養が基盤であることを実感。見えない世界を見せる技術力。不可思議で不条理。緻密で独創的。錯視と幻想の世界。また、エッシャーといえば “正則分割(様々なモチーフを反復)” と “メタモルフォーゼ(姿を変態)” 。現実把握や空間認識を混乱させるイメージ群。芸術と科学・数学の境界の中で、論理的に決定不能な命題との遊び。AI時代は数学と美術の融合の時代。最近、欧米でMBA(経営学修士)よりMFA(美術学修士)の人気が高くなっているとか。梁塵秘抄では“鈴はさや振る 籐太巫女 目より上にぞ鈴は振る ゆらゆらと振り上げて 目より下にて鈴振れば 懈怠なりとて忌々し 神腹立ち給う”とあります。鈴は目より上で振るもの。でないと神さまがご立腹。“我々が演奏しているのは人生”とルイ・アームストロング。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
頑張っていれば誰かが見てくれる 生産・消費だけが生活のすべてではない
柔道の勝負で怪我の影響というものはありうる しかし、それも柔道のうち
和傘から照明具・茶室へ変身 生きたり働く時は簡単にできないといわない
水墨画は、唐代に成立した墨で表現する墨絵の一様式。墨を線や面、ぼかしで濃淡・明暗を表現する絵画。油絵とは異なり、筆墨が紙に浸潤する景色が持ち味。宋代は禅宗的故事・人物画。明代は花卉・果物・野菜・魚などの雑画。日本では、奈良時代に大陸から墨が伝来。達磨図など、禅の思想を表すものから山水画へ。日本の水墨画といえば室町時代の画聖・雪舟。上野の国立博物館の国宝“破墨山水図・秋冬山水図”は時々展示され、外人観光客にも大人気。生産・消費だけが人生・生活のすべてでないのかも。水墨画の特徴の一つが余白。余白による躍動感・生命感。 “1つのわざに絞り世界一になるまで磨く。そうすると、他のわざは比較的楽に習得できる” と柔道家・野村忠宏。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
懸命の努力とは 理に適った努力ということ
判断力の劣化 これを何としても避けること
頭脳のエコノミー症候群こそ最も危険な兆候
エコノミー症候群は、長時間同じ姿勢で座っていると、脚の静脈の血が流れにくくなり、血栓ができる事から起こる症状。頭脳にもエコノミー症候群の可能性。政治家のチャーチルは、頭脳にも筋肉があると想定し、あることでうまくいかなかったら別の筋肉を使うことを意識したとか。人間が他の動物に比べて最も優れているといわれる思考力への対応。21世紀は “頭脳資本主義” の時代。頭脳が世界中のセンサーと繋がるステージへ。頭脳の活性化には、本人が納得する充足・満足体系の確立が不可欠。それにはイチロー流の日々の “懸命の努力・理に適った努力” しかなさそう。 “生れたよりももっと遠いところへ。そこではまだ可能が可能のままであったところへ” と哲学者・九鬼周造。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
力尽して山越えし夢露か霜か、と波郷 言葉は心の食
土と闘わない 自分の掟で生き何者にもなろうとせず
是非を看破 何の故に恐縮したる海鼠哉、と夏目漱石
夏目漱石といえば、肘をついたポーズが定番。これは英国の歴史家・カーライルのポーズを真似たもの。漱石は英国留学中、カーライル博物館を訪問し掌編を書いています。カーライルは胃弱で、漱石も胃弱だったことから共感度が強まったとも。漱石の名の由来も痛快。中国で “枕石漱流” を “漱石枕流” と間違えた故事が人口に膾炙したものとか。当初は、親友の正岡子規のペンネームの一つだったものを、漱石が譲ってもらったものらしい。その昔、雑司ヶ谷墓地にある漱石のお墓にお参りの折、墓石に夏目金之助とあり、本名が金之助であることを初めて知った次第。 “プラハの春の直後のメキシコ五輪では芝生を床に、倒木を平均台と考えて練習した” と東京五輪の華・チャスラフスカ。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(八)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第74回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.ne.jp/asahi/oura/ohura-research-institute/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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