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横浜スケッチ(第40回) スウェーデン女性写真愛好家を訪ねて(後編)

by staff on 2019/10/10, 木曜日

ペンネーム 成見 淳

6月14日。北欧の夜は滅茶苦茶明るく、2時頃目が覚めても外が認識できる。4時半にまた目が覚めたら日射しが真横から差し込んでいた。もう、まぶしい事、まぶしい事。
日本からはるばるここまでたどり着いて約束時間に遅れる訳には行かない。まして初めての場所で初対面だからからすぐに見つかるとは限らない。早めに着いて旧市街のスケッチポイントを探しながら待ち合わせ時間まで過ごすことにした。
この駅はグリーンラインとレッドラインの2系統が走っていてプラットホームが上り下り二つある。どちらのホームかまでは決めていなかったので、二つのホームを交互に端から端まで行ったり来たり。やがて約束の時間が近づいて来て緊張が高まる。
定刻になり反対側のホームにそれらしき女性を発見! 箱から額装した絵を取り出し、高く掲げて名前を呼んだ時、運悪く列車がホームに入って来て、音も視界も遮られた。
列車が行って、彼女が気付いて、お互いにホームの階段を下りて、ハグ。はせずに握手。まるで映画の一シーン。少なくともこの瞬間は映画の主人公。

 

改札を出て、地下道を東側に出る。
「どこか行きたい所ありますか?」「分かりませんのでお任せします。」
感心したのは、さすが写真愛好家(プロではない)、目に止まったものを素早く撮る。しかも、なぜ興味を持ったかを教えてくれる。例えば街角で建物の影が所々光っているのを見て「あの窓が影の中で光を反射しているのが面白い。」とか、目的の写真にさりげなく通りの名前や店の名前を入れて後で調べやすくするのだとか。私は写真家の目線で景色を見たことは無かったので絵を描く際の参考にもなった。さながら写真撮影の実地研修の様でもあった。水溜りの映り込みなど時々二人の関心が一致してお互いにニッコリとか、撮影中車に轢かれないよう気を配るとか、通行人の邪魔にならないようにとか、お互いに協力し合った。

「映り込み」ストックホルム旧市街 4号 透明水彩

「Old Townの光と影」Stockholm, Sweden F4号 透明水彩

島を一通り回りした後、対岸に行き2時間近く歩き回り、気温も上がって来たので休憩がてらランチにすることに一致。
彼女は大小問わず船やボートが被写体としてお好きなようなので、レストランとして係留された船を昼食場所に決めた。彼女は白ワイン、私はビールで乾杯。
彼女がトイレに行き、嬉しそうに戻って来て、トイレの丸い窓から撮った港の風景写真を見せてくれた。後日それらの幾つかは帰国後にもアップされていた。インスタグラムをやられる方はアクセスすると写真が見られる。私達のコメントも。
「今日は沢山写真を撮りましたね。200枚くらいでしょうか?」「いや、もっと撮りました。」同じアングルで何枚も撮るらしい。
食事の後、例の写真のスポットについて、私のクロッキー帳に地図らしきものを書いてくれた。Drevviken湖は複雑な形で細長く、岸辺も長いので説明に苦労されていた。

この手書きの地図と、絵を頼りに(しかもその絵は3月の柳の葉が全部落ちたもので、今は初夏。)探し出すのだからまるで宝探しの様。我ながら無謀な試みと反省?
さらに別の港に足を伸ばし、駅に向かって帰りながら旧市街を抜けて駅に着く。明日の土曜日はご主人と乗馬なので朝早いからと解散することになり、グリーンラインに乗り、分岐するGullmarsplan駅で別れる。

 

6月15日、今日も快晴。土曜日なのでご主人も奥さんも起きて来ない。誰もいないリビングルームで今までの絵に手を加えていた。日本に来た事があり、日本贔屓と伺っていた息子が泊まりに来ていた。彼は話好きで、特に私が日本人という事で、朝食後夢中で話しかけてくる。「日本の寿司が大好きで、日本以外の寿司は全く別の食べ物。納豆大好き、鰹節の出汁が大好きで、削る道具をデパートに探しに行った。日本の『Manga』は最高だ。丸い帽子を被った有名な漫画家を知っているか。」「分からないなあ。」「知らないのか!有名な漫画家だけど。うーん。」「もしかして手塚治虫?」「それそれ!」という調子。
「今日はどこへ?」と聞くので、昨日の事を説明し、「彼女の写真を私が絵に描いた場所に行く。」と言うと「Amazing!」
彼が「メトロに乗らなくても、一番近いバス停から一回バスを乗り継ぐだけで行ける。」とバス停まで案内してくれた。
乗換えのバス停に着き、念のため隣の人に聞くと「ここで待っていたら、今来た所に戻るよ。Guod(oの上に点が二つ)に行くバスは高速道路の下を潜った反対側。」と教えてくれた。彼、乗換えのバス停名は教えてくれたが、そこまでは教えてくれなかったよな。
高速道路は快適で15分位で着いた。

バス停のベンチに荷物(三脚と絵道具などの入ったバッグ)を置いてナビ代わりのiPadを取り出して首に下げ、バッグを背負う。(後で知ったのだがこのバス停は彼女が教えてくれたひとつ手前だった。もう一つ先まで行けば3時間は節約出来たのだった。
IPadの地図を見ながら歩き出す。この頃は途中目についた景色や家並みなどを撮影してルンルン気分だった。
やがてDrevviken湖のはずれの岸に出て、何となくそれらしき景色の反対側に出た。この柳、今は葉が茂っているがあの写真と形がそっくり。岸の傾斜も木の並び具合も。でも写真には木の桟橋は無かったし、舟も一隻だったが今は数隻。廃船は無く皆現役のボートのようだ。
こことぞ、と思われるポイントに立ち三脚を立てれば良かったが手を抜いた。このツケが後で来ることになる。
2分ほど歩くと川でカヌーを操る人が3人。そのうちの男性に声を掛けると自信なさそうに「見たことのあるような、無いような景色だなあ。」 自分のいる位置を確かめたくて、「この近くにファッション・ショップありますか?」、と聞くと。「ああ、それならすぐそこだよ。」
お礼を言って急いで行くと、先ほどの高速道路、手書きの地図のラウンダバウト、信号、ファッション・ショップ(交差点の角でかなり大な店で綺麗)があった。何のことは無い。半島を反対側から一回りして来たのだった。
ショップの角を曲がり、湖と思われる方向を目指す。だんだんと上りになって来る。30分位(実際はもっと短かったかも)歩いている途中でハッと気が付いた。『三脚はどこだ?バスの中か? 出てこないだろうなあ? 90%諦め気分。
『アッ! そうだ。バス停のベンチに下ろした!』と気が付いた。
高速道路に出て、さっき歩いて来た方向を見ると見覚えのある信号が。さらに側道を進むとさっきのファッション・ショップが見えた。その先には来る時に降りたバス停があるはず。ここからそれほど遠くない。そいて20分ほどでバス停に着いた。
祈るような気持ちでドキドキしながらベンチを見ると。あった! 中身がむき出し。袋はベンチの下に落ちていた。中学生くらいの男の子が一人いて「あなたの物だったのですか? 袋が落ちていて何かと思っていた。良かったね。」事情を話し、笑って別れた。
奇跡だ。

散々歩いたので、ポイント探しは諦めようかと思ったが、ツアー・メンバーのKさんの話を思い出し、気合を入れ直して、小さな川沿いの径を歩く、歩く、歩く。

 

Kさんの話

彼女が北イタリアからスイスへの移動中のバスの中で話してくれた事。「絵を描きに行って、石に躓いて転び、顔面を打って出血し、コンビニで氷を買って冷やして『ここまで来て描かずに帰ったのでは何しに来たのか分からない。』と流れ出る血を抑えながらスケッチした。」
簡単に紹介するとこうなるが、後部座席で臨場感たっぷりに話をしてくれた。周りの我々は気の毒と思いつつも軽妙な語り口につられ大笑い。夕食時に『バスの後ろで大きな声で笑っていたけど何?』と聞かれ、また全員で大笑い。実は話の続きがまた面白いのだがカット。私は彼女の話を聞いて、絵に対する情熱、気迫に恐れ入ってしまった。その後スイスのソーリオ村でスケッチする時に『疲れたからこのくらいにするか?』という気持ちが芽生えた時、隣で一緒に描いていた高原さんと『Kさんの血だらけでスケッチを続ける姿を想像すると、我々もここで描くのを止める訳にはいかないですね。』と話しながら頑張った。お陰で手を抜くことなく描き続け、予想以上の絵を描くことが出来た。

「旅の途中で・・・」スイス、ソーリオ村 水彩6号
隣で一緒に描いていた高原さんの作品(akc水彩画展2019出品)
私の作品より数段お上手なのでお借りした。(反射光で見難い点ご容赦。)

ツアー中もKさんの言葉にどれだけ叱咤、激励の刺激を頂いたか計り知れない。
身をもってメッセージを発する真の教育者(彼女はかつて教育者だった)を見た。
私はそれを自分の糧とすべく、それまでの心構えを入れ替えることにした。

 

さて、川の途中で桟橋代わりの小さなお風呂の簀の子板のようなものを見つけた。
『ここなら水面に近く、涼しくて描きやすいのではないか?』
小川の岸辺は思った以上に急斜面で、色々な木くずや枯葉などが堆積していて滑りやすい。転ばぬよう、川に落ちぬよう慎重に降りる。成功! 衝撃で板が揺れる。三脚を短く立て、板に座って準備する。波で微妙に揺れるのが気持ち悪い。そしてもっと大敵が襲来。モスキートだ。私は蚊が大嫌いだ。生憎虫よけスプレーを持って来なかったので、さすがにこれにはすぐに降参。来た道を戻り、途中ベンチを見つけ、バナナとビスケットで昼食代わり。食べ終ったら眠気が来たので諦めてB&Bに帰ることにした。

B&Bに着くと、何とBirgittaさんからメールがあり、乗馬を終わって12時過ぎにファッション・ショップ付近に来ていたとの事。心配しての事だろうと心遣いに感謝。

「Drevviken湖へ続く小川」ストックホルム、スウェーデン 6号水彩
この絵は18日午後に帰国したばかりの20日の朝、一気に描き上げた。

「Drevviken湖畔」ストックホルム 3号水彩

最初に三脚を立てて描こうとした場所。その時は確信を持てなかったが、右の柳の木、岸辺、対岸の光景など、実はここが目的の場所ではなかったのかと思う。そう言えば昨日彼女も「廃船は撤去された。」と言っていた。

夕食を食べようと思って、駅に向かって歩いている途中に黒人女性に声を掛けられた。気軽に話していると「マネー」「旅行者だから持っていない。」「でも旅行者はお金持ちでしょ。」「私は貧乏旅行者」「一人?」『危ない。危ない。一人と言ったら帰りに仲間を連れて来て、襲われるかもしれない。』「No家族と一緒」と言って立ち去る。
地下鉄に乗ると彼女も乗り込んで来て、今度は空き缶を持って「マネー」と乗客に声を掛けている。地下鉄では2回この光景を見た。
北欧諸国は高負担高福祉社会と思っていたがその恩恵にあずからない人達もいるようだ。
ついでながら、スウェーデンではキャッシュレス化が進んでいてカード決済が普通。現金だとお釣りをくれない。お札を出してお釣りをもらったのはB&B近くのコンビニでの1回だけ。中央駅のレストランで食事処を探したが適当な店が見つからず、大きなコンビニに並んでいたSHSHIに目が止まり、確か70スウェーデン・クローネ(約1000円)だったので50クローネ札2枚を出したがお釣りはくれなかった。
「No Change? 」「No Change」と当然の様に言い、レシートを見ると値段が100クローネになっていた。30クローネは店の儲け? そんな馬鹿な!
日本に来た外国人が、自動販売機でお釣りが出て来るのに感激する、という話の真意が理解できた。常識とは「その国、その地域、その時代の」という限定されたものなのだ。
スウェーデンに行く時は両替して行く必要はない。キャッシュカードさえあれば充分。

明日はスウェーデンを離れミラノへ向かう。B&Bのご家族から帰りの交通手段を聞かれ、自分では空港へのチケット2人分の残りがあるので当然中央駅からバスで行くことにしていたが、息子さんが色々調べて他の方法を勧める。「バスチケットを持っているから。」と言っても納得しないので、自分でも再度調べ直した。これが良くなかった。
ストックホルム11時05分発ミラン13時45分着のSASだから、アーランダ空港に9時前には着かねばならないはずで、当初案は7時半にはB&Bを出る予定だったのに、何回も調べているうちに空港着時間を1時間間違えてしまった。

 

6月16日(日)。この日も早く起きてしっかり出発準備をし、ゆったりとメールチェックなどをしていた。7時を少し過ぎた頃、ドアをノックする音がした。普段無口で頑固そうなご主人が「7時半に出ないと間に合わないよ。」と教えてくれた。
「え!8時で間に合うはずですが?」「いや。7時半。間違いない。」
焦って離陸時間を確認すると彼の言う通り、当初の自分の案通り。幸い支度は全部終わっていたのでケースの鍵を閉めるだけ。最後にポケトークのアラビア語で「お世話になりました。ありがとうございました。」と伝えるとニコッと笑って日本式のお辞儀を深々と。
ご主人のお陰で間一髪チェックイン出来た。

11時5分発だから朝食兼昼食は食べずに、機内食で充分と思ったのが失敗。昼食どころか飲み物も出ない。ハタと、富永さんから頂いたチョコレートの事を思い出した。皆と別れる際に、バッグの中にしまい、最後まで取っておいたものだ。
美味しかった。自分のミスを思い出して苦さもしっかり噛みしめた。
富永さんは絵手紙の先生。手のひらサイズ、折りたたみ式で、開くと長~~~い冊子を何冊も持っていて、目についたものを小まめに描き込み絵日記にしている。
字がまた素晴らしく、何年も書き続けられていて宝物だ。

富永さんの絵日記帳から

ミラノのリナーテ空港に着き、空腹を我慢してとりあえず中央駅まで行くバスに跳び乗る。終点中央駅のバス停に着き、マルペンサ空港行きのバス乗り場に向かう。
マルペンサ空港でメールすると10分ほどで若い元気なイタリア娘が迎えに来てくれた。明日も空港まで送ってくれるのでもう安心。と思ったのだがそうはいかないのが一人旅。

B&Bに着いて、荷物を置いて「海鮮スパゲッティーが美味しい。」と彼女が教えてくれたレストランに向かう。道路は狭く、歩道はない。途中、ト路になった所を間違えて曲がってしまい、戻って来る時に、乗用車が猛スピードで丸くなったコーナーすれすれにショートカットで向かって来た。大声を出しながら反射的に跳んだ。道路側に跳んでいたら怪我程度で済んだかどうか? そのまま車は行ってしまった。危なかった!

 

6月18日火曜日。
飛行機が成田に向け着陸態勢になった頃、隣のイタリア青年に声を掛ける。
「お仕事で日本へ?」「はい。ビジネスです。今回は4か月くらい滞在です。何回か東京、横浜に泊まっています。」「お仕事はIT関係でしょ?」「その通りです。」
ミラノとベルガモの間辺りに住んでいるという。わずかな時間だったが、シャイでジェントルマンの好青年だった。
こうして6月3日~13日までのスケッチ・ツアー。引き続いて18日までのストックホルム一人旅が終わった。Where to next?

全編終わり

PS

  1. 本編の英文版
    今回初めての試みとして、本編の英文バージョンを私のホームページにアップしました。(見出しの「横浜スケッチ」English Ver.) いかに翻訳という作業が大変か、文化や考え方の違いなどに考えさせられました。
  2. 展示のご報告
    隔月掲載の都合でご案内出来ませんでしたが、9月22日(日)から28日(土)までの間、インスタグラムをご覧になった銀座の6丁目の画廊ASAGIARTSさんから企画展Beautiful展へのお誘いを頂き、「横浜スケッチ」で掲載された絵を含み4点ほど出品させて頂きました。
    出展などのお知らせは随時ホームページ冒頭に掲載させて頂いています。

筆者紹介

Jun Ohsawa 大澤 淳さん  
お名前 Jun Ohsawa 大澤 淳
E-mail j-narumi@ug.netyou.jp
URL http://home.netyou.jp/kk/ohsawa/
成年月日 1967年1月15日成人式。おひつじ座。いわゆる団塊の世代。誕生日はもっと前。
年齢 その年の西暦 ? 1947(3月25日以降)
生息地 横浜市鶴見区に70年弱在住。いわゆる浜っ子。
血液型 いわゆる典型的なAB型
性格 内気、控えめ(だが信念は曲げない)、人前に出るのを極度に嫌う・・・だったが、 最近は少しずつ変わって来た。これもネット化のおかげかな。
割りと簡単に物事をはじめてしまう。(衝動的、意思決定が速い、好奇心が強い)。
忘れやすい。(最近特に)
趣味 ◎絵画:(主に水彩画)初めは油彩だったが10年近く休止していた。ヨコハマNOWのお陰で、2015年より主に水彩画を中心に絵画を再開した。
◎文章を書くこと(エッセイ、旅行記など)。
◎放浪の旅:国外国内を問わず、スケッチポイントを求めて心の洗濯に。(すぐに汚れやすいので。)
〇ゴルフ:1979年にホールインワンをしたことも。42年間通った神奈川県津久井湖ゴルフ倶楽部を2016年12月に退会。ハンディキャップは全盛期13だったが。
〇2015年急に作曲を始めたが半年もたたずに現在休止状態。
●フォルクローレ(アンデス音楽):ケーナ、サンポーニャ等も演奏したが、今はたまに聴くだけ。

 

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ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
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横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
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