ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第79回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第79回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
先日まで横浜美術館では “原三渓の美術展” が開催されました。三渓といえば “三渓園” 。生糸貿易で大をなし、京都・鎌倉の古建築を活かした美の理想郷の実現。古美術のコレクションも5000点を超えるとか。平安時代の国宝 “孔雀明王像” は元勲・井上馨から10000円で即断即決。母方の祖父は画家・高橋杏村で、幼い頃から絵を学んだ眼力のなせる業。茶人でもあり号が三溪。20年かけた三渓園に “遊覧御随意” の看板を掲げ無料開放。詩人タゴール、夏目漱石や芥川龍之介も来園。また、岡倉天心との親交から、横山大観・下村観山・安田靫彦などを物心両面で支援。食事も共にし、夜を徹して芸術論を闘わせたとか。それらが血肉となり、観山の “弱法師” が生まれました。三渓も大好きな蓮を何枚も描いておりプロの技。関東大震災では、横浜市復興会の会長を務め、私財を投じて復興に尽力。三渓から学ぶべき教訓は “AIと真逆の抽斗をどれだけ持てるか” 。梁塵秘抄では “わが子は十余に成りぬらん 巫してこそ歩くなれ 田子の浦に汐踏むと いかに海人人集うらん 未だしとて問いみ問わずみ 嬲るらん 憐しや” とあります。娘を守ってね、姫神さま。 “真の問題は創造される” と哲学者・ベルグソン。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
グローバル社会では、文化の違いは絶対埋まらない 細分化が一層進んでいく
敬意は、こちらが行うと必ず返ってくる 信頼は向こう側から与えられるもの
一〇分多く努力 生活はルーズでも、サッカーは正確ということはあり得ない
これまで世界は、農耕民族と狩猟民族に色分けして語られました。狩猟民族は基盤を狩猟に置いて小集団で移動。一方の農耕民族は、主に河川流域に住んで麦や稲を育てて生活。科学技術の進歩は急速で、世界の距離は近くなっていますが、それでも民族特性は根深いもの。ただAI時代では、生きるための糧は手段になり、世界で生まれる知・アイデアは一瞬で地球上に伝播し、多種多様な分野で利用可能に。AI時代のスキルの根幹は柔軟性。常に危険な綱渡りが求められ、知と精神のボヘミアン。日本人は意外にも組織への愛着が低く打算的という調査結果も。要はどうしたら生き延びていけるか。 “誰もが発信方法を教える。しかし、受信方法は磨こうとしない” と脚本家・倉本總。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
リスキーな事業 倒産の恐れは、と問われ 既に二回倒産、またやり直せばいい
淡々と答えるシリコンバレー経営者 失敗は素直に受け入れ、一旦退却し再挑戦
事業経営は槍、突くよりも引くスピード 一つの成功に酔うな、とは本田宗一郎
脳科学における無意識領域のメカニズムは、イノベーションとも深く関係しているとか。イノベーションを起こすのは人間ならではのもので脳の構造に起因すること。人間の脳は動物に比べて圧倒的に脳細胞の数が多く、一つの経験に多くの “タグ” をつけることができること。無意識の世界が検索された時、一見関係のない記憶まで引っかかることで、思わぬ発想や切り口が生れるのだとか。ものの見方・捉え方・考え方の発見。本源的競争力の強靭化には、多くの回り道や失敗を重ねて、様々なタグをつけられるかが勝負かも。技術とビジネスの間を行ったり来たりする執拗な会話の繰り返し。 “万に一つを千に一つ、百に一つ、十に一つと確率を高めるには練習” とサッカー・釜本邦茂。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
今後の生産性基準には 労働の頭数だけでなく思考力や精神力まで加味する
人材の引き抜き 引き抜かれる企業は負けず、引き抜きをやる企業は負ける
現実でも非現実でもなく無意識こそ人間が持つ本能の神秘、とモディリアニ
モディリアニはイタリア出身の画家・彫刻家。面長で目玉のない独特の女性像は一度見ると忘れられません。当初は彫刻に没頭し、アフリカ・アジアなどの民族美術に影響を受けました。しかし、資金が続かず、健康の悪化による体力不足も重なり途中で断念。ただ、この経験が後の絵画作品の特徴である独特のフォルムや単純化につながりました。様々な試行錯誤・回り道に裏打ちされた技量の厚み。最後は、極貧の中で健康を害して37歳で死去。妻はモディリアニの死の2日後、後を追ってアパートから飛び降り自殺。この時、妊娠9ヶ月。2018年、サザビーズの競売に出品された “裸婦像” は最高額の1億5720万ドルで落札されました。 “場違いなことがどれだけ大事か” と作家・辺見庸。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(九)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第79回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.ne.jp/asahi/oura/ohura-research-institute/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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