ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第90回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第90回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
“ゲルニカ” を描いたピカソは、虚構であることを通じてのみ真実に到達できる、とこの絵を説明したとか。確かに目の前にある現実だけを見ていると、その枠組みから脱するのは思った以上に難しいもの。現実に立ち向かって未来を切り開くには “虚構・抽象化” が突破口になること、そのためには地頭でじっくり対峙することが必要なのかもしれません。くり返しが得意な農耕民族から、時には一発勝負の狩猟民族へ変身。今後もパンデミックは回避できないとの予測。 “絵文字” が将来の世界共通言語になるかもしれない時代。既存の大規模知識ベースでなく、今後は徹底してパーソナル。パーソナル・ナレッジマネジメントをフル稼働。環境は直線型から指数関数型へ。柔らかく勁いカルチャー(コンテクスト)へ基盤を強靭化。梁塵秘抄では “山伏の腰に着けたる法螺貝の 丁と落ち ていと割れ 砕けて物を思う頃かな” とあります。修験者に法螺貝はつきもの。天狗も仲間にする。 “若い人の書くものを読まなくなった。わからないからでなく、余りにわかり易いから。混沌・理不尽の中で古典を読む” と作家・富岡多恵子。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
咲くのも道理、散るのも道理 能は死者の目を持ち込む
詩を書くことで欠落を埋める 成就のための技能と根気
美しい花はある 花のような美しさはない、と小林秀雄
“日本に生まれたことは宿命。誰だって運命に関する知恵は持っている。大事なのはこの知恵を着々と育てることだ” と文芸評論家・小林秀雄。文芸評論の確立者で保守文化人の代表格。私には、いつも支援してくれた弟テオへの手紙を評論した “ゴッホの手紙” が一番印象に残ります。 “病気はゴッホにとって大きな障害だったろうが、彼の作品は病気という条件がなければ現れなかったであろう” との人格構造への斬り込み。精神疾患と創造性の不思議な関わり。新型コロナという運命にも知恵を育て続ける必要がありそう。 “不協和音:緊張が生まれてより深い音楽が生まれる” と音楽家・坂本龍一。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
自分の生き方を価値創造の前面に押し出す 顧客が定義するものに絞る
イタリアの職人の目的は明確 ゴールはファッション、糸づくりは手段
自らの勝手でなく顧客が認めるスキル 外科手術に拘らず漢方薬も併用
日本には文化・技術・知恵は十分にあるはず。自分の生き方を価値創造の真正面に位置付けることが必須。イタリアのファッションビジネスは常に挑戦的で斬新、そしてしぶとい。それはゴールが明確だから。狙いはあくまでファッション。そのために必要な糸づくりは手段系。目的系と手段系を明確に整理して考えることで誰にも真似できない成果物を手にする。顧客が納得するスキルなら西洋も東洋もないはず。医学の世界も西洋医学が最先端を走っていますが、東洋医学の総合バランスも必要。外科手術に拘らず漢方薬も併用する妙。 “自分の時間を生きてきた人間に見られる嗜み” と作家・吉田健一。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
明確な目的と変革のチャンスが与えられれば やりたいことはやる覚悟
人間は自分のこともわからない 努力なしで成長がないのは間違いない
人間はどこか変 これが正しい・悪いというものはない、とチェーホフ
チェーホフは、ロシアを代表する劇作家であり、多くの優れた短編を遺した小説家。日本でも繰り返し上演される “かもめ” や “桜の園” などの四大戯曲は代表作。ロシアの至宝ともいえるチェーホフも、ユーモア短編を書いていたことは知られていますが、それは生活費を稼ぐという現実的な必要から。どの世界も、育てられるのではなく、自らの力量で育つしかないのが人間社会の掟。先人が獲得した知を習得しながら、将来の新たな世界を創り出すこと。 “ナチスドイツへの抵抗運動:音を立てられない野営地で、身振り手振りで意思疎通したのがパントマイム” とアーティストのマルセル・マルソー。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第90回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.ne.jp/asahi/oura/ohura-research-institute/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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