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しあわせの「コツ」(第48回) 女性は胆力

by staff on 2020/12/10, 木曜日

第48回 女性は胆力

一時期、「おバカタレント」というキャラで、若い女性タレントがバラエティ番組を賑わせていました。そんな彼女たちがおバカキャラを「卒業」した後の生き方を見ると、「おバカ」どころか、実は賢くて肚が座った女性であることがほとんどでした。

里田まいさんは「おバカ伝説」という本もあるくらい「おバカ」を売り物にしていましたが、メジャーリーガーの田中将大選手と結婚してからは違いました。フードマイスターの資格を取った料理の腕前はプロ級で、田中選手に感謝されているそうです。

「里田まいのおバカ伝説」
竹書房

メジャーリーグで田中選手があれほど活躍できるのは、料理だけでなく、まいさんの物心両面でのサポートが大きいのでしょう。結婚してからの田中選手の安らぎにみちた落ち着きは、伴侶の力がいかに大きいかを物語っています。結婚後は芸能界から一切身を引き、迷わず内助の功に徹しているまいさんの行動には、聡明さだけでなく、女性としての胆力さえ感じてしまいます。

「胆力」-物事に対して尻込みせず、積極的にかかわっていく気力や度胸、根性。それでいて深刻にならずに明るく柔軟で、ぶれることがない芯を心の中に打ち立てている状態。

実はこの胆力は、男性よりも、女性に強く備わっているように思います。男性は、いざとなると意外に脆く、急に腰砕けになってしまう場合がありますが、女性はいったん肚を決めたら、図々しいほど強くなります(笑)。

私たちは長い間「女性は弱いもの」という洗脳を受けてきましたが、少し視点を変えてみると、どうしてどうして、男性も太刀打ちできないほどの胆力を備えた「女傑」と言われる女性たちが沢山目に入ってきます。

とりわけ九州にはなぜか「女傑」が多く、「花と龍」の作者火野葦平さんの母、玉井マンさんをはじめ、歌にまで歌われた女侠客の西村ノブさん、園田直元外務大臣のお母様で、日本初の女性国会議員だった園田天光光さんなど、枚挙にいとまがありません。

火野葦平さんの両親・若松の侠客夫婦               園田天光光女史
 
       玉井金太郎・マン。この夫婦を中心に描かれた。(「花と龍」はほぼ実話)

「どてら婆さん」と呼ばれた西村ノブさんは、「花と龍」では悪役として登場しますが、実物は人情味のある太っ腹の女丈夫だったようです。夏冬通して薄いどてらを着込み、日本髪を結い、出かけるときはいつも駒下駄を履いて必ず若い衆を二、三人連れて歩く、粋な女性だったそうです。

筑豊炭田から若松港に鉄道が敷かれる際、彼女は敷設工事に協力し、「川筋者」*と言われた荒くれ労働者を仕切り、筑豊興業鉄道(現JR筑豊本線)の開通に大きく寄与しました。その功績で、当時の鉄道院総裁から表彰を受けています。

畠山みどりさんの「女侠一代」はノブさんのことを歌っています。

「やってやれないことはない 人は一代、

人は一代、名は末代さぁ・・・」

という、肚にずんと響くイントロです。

*川筋者
昭和初期、主に筑豊炭田で、遠賀川を使って炭鉱から石炭を若松港に運ぶ重労働に従事した人々の事。気が短くて気性が荒い人が多かったそうです。

川筋者を束ねて鉄道敷設工事に従事させたのですから、西村ノブさんは大層肚の座った女性だったのでしょう。

現代でも、まさに「女傑」という呼び名にふさわしい女性がいます。

享保3年創業の京都の料亭「ちもと」の女将、潤田貞子さんは宮崎駿の「千と千尋の神隠し」に出てくる「湯婆婆(ゆばーば)」のモデルにもなった方です。

写真を拝見すると、高く結い上げた髪型と落ち着き払ったたたずまいが、なんとなく「湯婆婆」を彷彿させますが、貞子女将は京大工学部建築学科卒業で、日本文化の造詣も深く、大変な教養人です。とにかく話題が豊富なうえに話術が巧みで、どんな人とでも限りなく面白い話題をつなぐことができ、お客さん方はみな虜になってしまうそうです。

「ちもと」の女将潤田貞子さん

京都は鴨川のほとりにある、何とも言えないレトロなたたずまいの木造3階建。それが、潤田貞子さんが女将をしている料亭「ちもと」です。皇室と同じ雛飾りを所有する伝統と格式のある高級料亭です。海外の要人が来れば、政府から「ちもとへご案内しろ」と指名されるほどの名店です。

鴨川に面する「ちもと」。なんとなく「千と千尋」に出てくる湯屋に似ていませんか。

潤田さんには数々のエピソードがありますが、ひとつ痛快なエピソードをご紹介しましょう。

まだロシアがソ連だった頃、グロムイコ外相の一団が来日しました。政府から一行を「ちもと」で接待するようにとの指示があり、政府要人たちが外相一行を「ちもと」に案内しました。「ちもと」の行き届いたサービスと女将の接客に大層喜んで、上機嫌になったグロムイコ外相は、帰り際に女将にこう言ったのです。

「なんでもあげるから言いなさい」

女将は少し考えてこう答えました。

「それでは北方4島!」

一座はシーンと静まり返りました。

政府要人たちはさぞ冷や汗をかいたことでしょう。下手すれば外交問題になりかねません。どこをどうしたか、結局グロムイコ外相は北方4島の代わりに(笑)CD1枚を彼女に渡してお茶を濁したそうです。

女将曰く
「あいつはダメなやつだ。CD1枚で誤魔化した」

右がグロムイコ外相、左は当時の佐藤栄作首相

なんという胆力でしょう。こういう場では、冗談でも男性なら決して言えない言葉です。
「欲しいもの」と言われて、とっさに「北方4島」が出てくるのは、日ごろから国際政治や日本の置かれた状況をきちんと把握しているからに他なりません。しかも、知識だけではなく、相手に応じてスパイスの効かせ具合を加減していることが分かります。

こうした胆力ある「女傑」を知るにつけ、私は、彼女たちがある意味でこれからの女性の在り方を先取りしているように感じました。それは、まず第一に、みな自分に自信を持っていることが挙げられます。だから物怖じしない。物怖じしないから肚が座っています。そして、聡明な頭と機転と努力。

彼女たちは女性としてのやさしさや細やかな気遣いを持ちながら、「胆力」という、どちらかと言えば男性的なエネルギーを心の中でたぎらせています。内側で男性性と女性性が対等に混ざり合い、いわば「陰陽の統合」がなされているのです。

究極の「陰陽の統合」、太極図。陰は陽をはらみ、陽は陰をはらむ

「女性の解放」とは、女性が男性と同じように活動することではありません。男性の体にも女性ホルモンがあり、女性の体にも男性ホルモンがあるように、男女それぞれが自分の中に眠る違う性のエネルギーを覚醒させ、よりバランスの取れた人間になることではないでしょうか。

「おやじ飲み」などという言い方があるように、よく「女性が男性化した」と言われますが、それは今まで社会から押し付けられていた「女子はこれこれ」という生き方の枠組みから、女性が自ら脱出しようとしている現れに他なりません。それは、「草食系の男性」が今までの「男らしさ」の神話から自由になろうとしていることと対をなしています。

これからは、胆力を備えた女性が「女らしく」、繊細なやさしさを備えた男性が「男らしい」と言われるようになるかもしれませんね。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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