Skip to content

しあわせの「コツ」(第49回) 文化にひそむ「かたち」

by staff on 2021/1/10, 日曜日

第49回 文化にひそむ「かたち」

風呂敷ほど便利なものはありません。四角い箱はもちろん、スイカのような丸い物から一升瓶のような物まで、安定的に包むだけでなく、飾り結びまでやってのけてしまいます。これは風呂敷が「正方形」だからできることです。長方形ではこうはいきません。一升瓶は何とか包めても、スイカは無理でしょうね。

私たちのまわりを見渡してみると、思いのほか「正方形」の意匠が多いことに気づかされます。折り紙、一升桝、碁盤、茶室、袱紗、重箱、座布団・・・。畳も一枚だと長方形ですが、2枚並べると正方形になります。平安京も、町の区画は正方形の「丈」で区切られていました(町は一辺が40丈―約120m―四方の区画でした)。

折り紙があれほど多様な形を折れるのも、正方形であるからに他なりません。

正方形の折り紙1枚で作ったシンゴジラ

なぜこれほど私たちの生活の中に「正方形」があふれているのでしょうか?

これは日本建築からきている、という説があります。丸太から角材を切り出す際、「正方形」に切り出すのが一番材木を無駄にしないやり方だというのです。

余った部分は割りばしなどに利用すれば、資源を無駄にしないばかりか、割りばし製造業という雇用を生み出すことにつながり、一挙両得になります(ひところ、「使い捨ての割りばしは資源の無駄遣いだ」というエコロジー運動がありましたが、割りばしは本当はとてもエコなのです)。

丸太を正方形に切り出し、
余った部分を割りばしなど木工品に
加工する

こうして、正方形の角材を使って、寺社に限らず日本の建築は作られてきました。

日本建築と言えば、以前このコラムでも触れましたが、至る所に白銀比(1:√2、「大和比」ともいう)が使われています。それは、角材の切り出し方に影響されているのではないか、と私は思うのです。なぜなら、角材の正方形の一辺を1とすると、対角線は√2になるからです。つまり1: √2という白銀比の比率が、すでに材木段階から仕込まれていたことになるのです。

実は日本文化の至る所に、この1:√2(1.414)がひそんでいます。たとえば、言葉の七五調は、ヒット曲やCMのキャッチフレーズでも多用され、日本人にはなじみ深い語調です。七五調は比率で見ると1(5):1.4(7)でほぼ白銀比であることが分かります。俳句も5・7・5ですね。

俳句人口が子供から大人まで幅広い層に広がり、根強い人気を誇っているのも、DNAに刻まれた白銀比のリズム、5.7.5のせいかもしれません。

「雪月花の数学」の著者桜井進さんは、その著書のなかで北野武さんの面白いエピソードを紹介しています。

「雪月花の数学」桜井進著 祥伝社刊

映画監督の北野武さんは、映画を編集する際に、撮影したフィルムをカットしていくのですが、「七五調」の奇数のリズムでカットすると収まりがいいというのです。北野さんが意識的にそうしているのか、あるいは日本人としての無意識がそうさせているのかは分かりませんが、大変興味深いお話ですね。

撮影現場での北野武さん。
彼の映画も七五調、すなわち白銀比でできている。

一方、西欧では白銀比に対して黄金比の1:1.6の比率が多用されています。白銀比あるいは7対5の比率では正方形が元になっていましたが、黄金比ではどんな形が元になっているのでしょうか?

有名なフィボナッチ数列は、前の二つの数字の和を並べた数列(1,1,2,3,5,8・・・)で、小さい方の数字で大きい方の数字を割ると、ほぼ1:1.6の比率になります。まさに数列自体が黄金比の連続です。その数字の数を半径にして円を描いていくと、螺旋形になります。

フィボナッチ数列で円を描き続けていくと、「螺旋」ができる

黄金比が螺旋形を生み出し、白銀比は正方形を形作る。

この違いはどこから来るのでしょうか?両方とも自然界にある比率です。ヒマワリや松ぼっくりには明らかに黄金比が見て取れますし、水晶やダイヤモンドなどの鉱物の結晶は白銀比を成しています。

左:黄金比の植物              右:白銀比のダイヤモンド

螺旋形は開放的でどこまでも広がっていくのに対し、正方形は対角線を引いて二等辺三角形を作ると、それを何等分してもどこまでも二等辺三角形が現れる、相似的な図形です。

この違いは何を表しているのでしょう?

それは、「宇宙のとらえ方」の違いを表しているのです。西洋的な認識では、宇宙とはつねに拡大・成長してゆくダイナミックな「螺旋」であり、一方日本的な認識では、宇宙全体がミクロからマクロまですべて同じ形でできている「相似象」と考えられているのです。

この日本的な認識は、やがて、小さきものの中に森羅万象を見、一瞬の中に永遠を捉える感性をはぐくんでいきます。なぜなら、極小から極大まですべてが同じ一つの形なのですから、「今ここ」も「永遠」も「ヒトツカタ」(=カタカムナ人の言い方)、つまり「同じもの」に他ならないからです。「今」を表現することは、「永遠」を表現することになるのです。

  荒海や      5
  佐渡によこたふ  7
  天の川      5

芭蕉の有名なこの句は、荒れ狂う夜の海と見上げた空に瞬く天の川を詠んでいますが、一瞬の情景の中に、大きな宇宙が感じられませんか。詠み手も、読者も、それを感じることができるのは、私たちが白銀比に基づく感性をもっているからです。

俳句、水墨画、竜安寺に代表される日本式庭園―およそ日本文化を代表する芸術には、形を変えた白銀比が至る所にひそみ、私たちの琴線を震わせ続けているのです。

竜安寺 思いのほか狭い枯山水の庭だが、大海原を感じさせる。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



詳細はこちら


「おかあさんの灯り」(幻冬舎)



詳細はこちら


「神さまがうちにやって来る」(幻冬舎)



詳細はこちら

 

Comments are closed.

ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
(動画をみる)

横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
(動画をみる)

Page Top