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しあわせの「コツ」(第52回) さくら随想

by staff on 2021/4/10, 土曜日

第52回 さくら随想

京都嵐山 渡月橋と桜

♪ 世に中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし ♪

古今和歌集に収められている在原業平の有名な和歌ですが、ことほど左様に桜の花というものは、日本人の心を惹きつける何かがあるようです。

「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という言葉もありますね。

植木屋さんの話では、これは桜の幹が梅よりも腐りやすく、下手に剪定をすると、切り口から腐朽菌が侵入して樹木自体が腐ってしまうからだそうです。とくにソメイヨシノは幹に腐朽菌が入るとたちまち侵され、中が空洞になってしまいます。

ソメイヨシノといえば、面白い話があるのでご紹介しましょう。
筑波大学名誉教授板野肯三さんのお話です。板野さんはご専門がコンピューター工学ですが、ある時、水耕栽培で1本のトマトの木に1万7千個も実をつけたことに驚き、ご自分でも稲を水耕栽培で育てたところ、なんと一粒の稲から500本もの茎が出たのです。
もっと実験を続けたかったそうですが、それ以上は予算もなく狭い研究室では無理だったため、やむなく稲を水から引き抜くことにしたのです。今まで色々な姿を見せてくれたことに感謝し、ごめんね、と謝って、稲を引き抜いたそうです。まるで「わが子を見殺しにするような気さえして心が残った」と板野さんは著書(「地球人のための超植物入門」アセンドラピス刊)で語っています。

 

それからです。板野さんが植物からのメッセージを受信できるようになったのは。稲だって魂はあるはず、と思い続けながらこの稲についての文章を書いているときに、突然、あの時の稲の精が板野さんに語り掛けてきました。

「あの時はとても楽しかったです。あなたのもとで、とても面白い体験ができました。感謝しています。」姿は見えないのですが、板野さんの胸の中から自分ではない何かが語り掛けてきたのです。そして、稲の精との対話から、水耕栽培にしても、植物側からの協力と植物自身の「やる気」がないと、人間の力だけでは何も起こらないことを学んだのでした。

そんな板野さんがソメイヨシノについても大変興味深いことを語っています。ご存じかと思いますが、ソメイヨシノは原種の桜ではなく、オオシマザクラとエドヒガンザクラの交配から生まれました。

左からお父さんのオオシマザクラ、お母さんのエドヒガンザクラ、子供のソメイヨシノ

交配させて作られた植物はどれもそうらしいのですが、ソメイヨシノの種を植えてもソメイヨシノにはなりません。挿し木で増やすしかないのです。板野さん曰く「そういう意味では全てのソメイヨシノは、元のソメイヨシノのクローンである。」

ソメイヨシノがクローン!

驚きの情報です。日本中、いえ、世界中に生えている何百万本ものソメイヨシノは、元をただせば一本の木だというのです。では、桜の精はどうなるのだろう、木の数だけ精霊もいるのか、それとも一人の精霊が何百万本の木につながっているのか、と疑問に思った板野さんは小石川植物園の樹齢140年の桜の木に訊いてみることにしました。

板野さんが訊いてみた小石川植物園のソメイヨシノ

小石川のソメイヨシノさんの話によると、まずソメイヨシノの魂の原型になるものが(宇宙に)生まれ、それを地上に降ろすときに元々あった二つの桜の木を掛け合わせて作ることにしたそうです。この「掛け合わせ」の部分は人間が担当しましたが、色々な組み合わせのうち、オオシマザクラのおしべとエドヒガンザクラのめしべで掛け合わせた組み合わせだけにソメイヨシノの魂が宿ったのです。

挿し木という人間の手を介さなければ決して自ら増えることのないソメイヨシノの生き方は、植物としてはかなり特異であるといえます。「しかし、あえて自分の力で種を残していかないということが、一瞬のうちに咲いて散っていくソメイヨシノという桜の生き方そのものでもある」と板野さんは結んでいます。

短くも美しい命を精一杯咲き誇り、潔く散っていく姿に、どれほど多くの日本人が感性を震わせ、精神性を感じ取り、そこに人の生き方を重ねてきたことでしょう。もしかしたら、それを私たちに感じさせるために、ソメイヨシノは、この地上に降り立ったのかもしれませんね。

折しもソメイヨシノが誕生した江戸末期は、それまでの日本人の精神性を担保していた武士階級が、終焉を迎えつつあった時でした。失なわれゆく日本人の魂のありようを、私たちが決して忘れることがないよう、ソメイヨシノは身をもって毎年教えてくれているのではないでしょうか。

日本人が毎年桜前線の動きを気にしたり、大勢の人が花見に興ずるのは、単に桜が美しいからだけではないでしょう。満開の桜を見上げた時、無数の花に見つめられ、一瞬時が止まったかのような感じがする時があります。まるで「今ここが永遠である」かのような幻覚に襲われます。桜の意志を感じる瞬間でもあります。

私たち日本人が花見好きなのは、こうした桜の意志を感じるだけではなく、桜が田んぼに神を降ろす役目をしている、ということとも関係しているかもしれません。

「春に満開に咲く『桜』を、秋の『稲』の実りに見立てて、仲間とワイワイお酒を飲みながら先に喜び、お祝いすることで願いを引き寄せようとしていた」と、ひすいこうたろうさんは「予祝のススメ 前祝いの法則」(フォレスト出版)で語っています。お花見は稲の豊作を予祝して、引き寄せるためのイベントだったのです。まさに「引き寄せの法則」の実践ですね。

只今「引き寄せの法則」を実践中

最近では中国でもお花見が盛んになっているそうです。日本からの影響だと石平さんは産経新聞に書いていますが(令和3年3月25日版)、稲作との関係や神行事としての側面は多分伝わっていないでしょう。
ましてや、ソメイヨシノの「意志」などは、とてもとても・・・。

産経新聞 3月25日木曜日版

去年今年と、コロナ禍のせいで、日本人の国民的イベントであるお花見が大幅に制限されてしまいました。

♪ たれこめて 春のゆくへも知らぬ間に 待ちし桜もうつろひにけり ♪

藤原因香(ふじわらのよるか) 古今和歌集

まさにこの和歌の通りの春となってしまいましたが、来年こそは、心おきなく桜を堪能し、「平和な豊かさ」を引き寄せたいですね。お花見は経済効果もあるので、一挙両得です。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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