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しあわせの「コツ」(第54回) 成功と成長の法則・「守破離」

by staff on 2021/6/10, 木曜日

第54回 成功と成長の法則・「守破離」

千利休像

「規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本を忘るな」

これは、わび茶を完成させた千利休の教えを和歌にまとめた「利休道歌」のひとつです。ひたすら師の教えに従ってその流儀を習い、守り続けているうちに、いつしかそれを打ち破って自分の型を作り、師の元を離れる時が来る。しかし、たとえその時が来ても、根底にある基本を忘れてはならない、という意味です。

この歌を短縮した「守破離」という熟語は、武道や芸事などで修行の段階を表す言葉として今なお使われています。

「守る」。
教えられたことをひたすら練習して、基本を身に着ける。この段階では、教えられた内容の本質を理解できなくとも、とにかく無我夢中で師の技芸を模倣し、体得すること。

「破る」。
師の技芸を十分学んだ後に、試行錯誤しながら自分に合った型を見出していくなかで、(結果として)既存の型を「破る」こと。

「離れる」。
様々な経験を重ねることで、いつしか独自の境地に達し、自分のスタイルを確立することで、おのずと師から離れていくこと。

利休は、たとえ「離」の段階に到達しても、「守」の段階で学んだ「基本」を忘れてはならない、と諭します。「離」は、「守」がしっかりできていてこそ、実現するのです。

この「守破離」、実は最近、成功哲学やネットビジネスのサイトで取り上げられることが多いのです。

例えば、こんな風にー。

「あなたが成功したいと思うなら、この守破離のステップをしっかり踏んでみてください。何度も言うように、守破離の中でも「守」が土台となる部分で最も重要です。

あなたが、給料以外に毎月10万、50万、100万と稼ぎたいという気持ちがあるなら、私の型を真似てみてください。(中略)私についてしっかり実践してもらえば、半年以内に最低でも毎月30万円の継続収入を得ることぐらいは誰にでもできるようになります。

「守」をすっ飛ばして、いきなり「破」の段階へ進んで自己流で取り組まないようにしましょう。」

稼げるフリーランスの寺小屋☆フリーランス発電所

おそらく、説明した通りにやらないで失敗した人から、「お前のせいで失敗した」といったクレームを回避するためかもしれませんが、「とにかく最初は教えた基本を忠実に守ってください」と、強調しているのです。

「守破離」の「守」には、その道を究めるのに必須である「基本」の存在が前提となっています。それを「型」と言い換えてもいいでしょう。空手などの武道を見れば分かるように、すべてはまず「型」から入ります。

「型」は、その道の先人たちが苦労して築いてきた叡智の結晶であり、最も効率の良い技習得ノウハウの集大成です。それを学べば誰でも一通りできるようになります(本人の素質と努力によって結果は違ってきますが)。

まず「型」をマスターすること。つまり自分を「型にはめ」、「型通りに」演じること。やがて反復を繰り返すうちに「型にとらわれない」境地に入り、癖や好みによって、今までにない自分だけの「型」が生まれてきます。

「型」から入って「型」を身に付け、やがてその「型」を破り、「型」を離れて、新しい「型」を作るー、これは芸事に限らず、ビジネスでも通用する「成功と成長の法則」に他なりません。

演芸の世界で、まるで絵に描いたようにこの「守破離」を鮮やかに実現している方がいます。日本でただ一人のミュージカル落語家、三遊亭究斗さんです。

三遊亭究斗師匠

究斗さんは、三遊亭円丈師匠の門下ですが、落語家になる前は劇団四季でミュージカル俳優をしていました。大ヒットミュージカル「レ・ミゼラブル」でテナルディエを演じた(2003、2004年)ほどの実力の持ち主でしたが、思うところあって落語家に転身しました。

34歳で落語界に身を投じ、円丈師匠の下で修業した究斗さんは、やがて、独自のスタイルを創り上げました。それが「ミュージカル落語」です。落語の世界に軸足を置きつつ、身体に染み込んだミュージカルの素養を活かし、今まで誰もやったことがないジャンルの芸能を打ち立てたのです。

「芝浜」のような古典落語でも、ミュージカル落語では、ピアノやドラムなどの楽器をバックに随所に歌が入ります。究斗さんの人柄が伝わってくる暖かな語り口と、ミュージカルで鍛えた美声で語られる噺は、もはや単なる「落語」ではなく、もちろん(一人で演じるので)ミュージカルでもなく、まさに「ミュージカル落語」としか呼べない新しいエンターテイメントです。

ミュージカル落語「オペラ座の怪人」より

近年では「いじめ」をテーマにした「一口弁当」というミュージカル落語を中心に、全国の学校で公演もされており、教育の分野にまで活動を広げています。そんな究斗さんを見ていると、「守破離」の先には、もう一つ「開」という段階があるのでは、と思ってしまいます。ある分野で「守破離」の段階を極めた後は、新しい分野を「開く」。そして、そこからまた新たな「守破離」が始まっていく― 実に見事な進化系「守破離」ですね。

「進化系」で思い出しましたが、最近のショービジネスの世界では、まさに「守破離」の先に、新しいパフォーマンスの世界を開いています。

たとえば、2017年からフィギュアスケート界が「氷艶」というタイトルで、スポーツと日本文化の融合を目指したアイスショーを展開しています。2017年の「氷艶hyoen2017―破沙羅」では、なんと歌舞伎とコラボし、歌舞伎俳優とともに歌舞伎の装束を身に付け、スケート靴を履いて氷上で演技をしました。

2019年は「源氏物語」をプロの俳優や歌手とのコラボで実現させ、主役のフィギュアスケーター高橋大輔さんは、演技だけでなく、歌や殺陣もこなしました。フィギュアスケートの基本を尊重しつつ、フィギュアの枠を破り、全く新しいアート空間を生み出したこの試みには脱帽するばかりです。

(左)光源氏に扮した高橋大輔選手
(右)ステファン・ランビエール扮する朱雀帝と光源氏

若手歌舞伎の動きも、「守破離」による新しい歌舞伎の誕生を感じさせます。
もう20年以上も連載が続いているマンガ「ワンピース」(尾田栄一郎作)や、宮崎駿の「風の谷のナウシカ」が、歌舞伎化されるなど、つい数年前には考えられないことでした。

(左)「ワンピース」の一場面
(右)「風の谷のナウシカ」の一場面

こうした一連の試みは、単なる目先の変化を狙っただけではありません。フィギュアスケート、歌舞伎という専門性の高いパフォーマンス界が、「守破離」のプロセスにおける「離」に到達し、三遊亭究斗さんのように新しいジャンルを開きつつあるのではないでしょうか。

もちろん、今までのフィギュアスケートや歌舞伎がなくなるわけではありません。現代のスポーツであるフィギュアスケートがその技術を使って日本の古典を表現し、伝統芸能の歌舞伎が現代の人気アニメを舞台で演ずるーそこにはまさに「守破離」の「離」の精神が溢れ、新しいジャンルを創ろうという意気込みが感じられます。

何か新しいことを始めてみたい、と思う時、私たちはつい前方に視線を走らせがちです。しかし、自分が「守」のレベルで培った基礎がなければ、たとえ「これは!」と思うものに出会っても、極めることはもちろん、成功することは難しいものです。

それは私も主人の事業をサポートする中で学んだことでした。

もう20年ほど前の事ですが、自治体の条例制定に伴い、主人の会社の主要事業が廃業に追い込まれました。会社の売上の三分の一を占める事業がなくなったのです。危機感から高利益を生み出す(と思われた)事業に投資しましたが、どれもうまくいきませんでした。

けれども、ある製品との出会いによって、会社の「原点」ともいえる分野に立ち戻る事業に取り組むことになりました。会社が「守」に立ち戻った瞬間です。子会社として始めたその事業は、今では親会社と肩を並べるほどの売上げを出すようになっています。現在は「破」から「離」への移行期にあり、これからの展開にわくわくしています。

「守破離」。
この言葉は、決して古びない「成功と成長の法則」だと、つくづく思わないではいられません。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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