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書評 「君から、動け。渋沢栄一から学ぶ“働く”とは何か」 幻冬舎 佐々木常夫(著)

by staff on 2021/9/10, 金曜日
 
タイトル 君から、動け。 渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か
単行本 246ページ
出版社 幻冬舎
ISBN-10 4344035720
ISBN-13 978-4344035720
発売日 2020/2/20
購入 君から、動け。 渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

はじめにの所で「鎖国によって世界におくれをとっていた日本が、諸外国と伍して国力を伸ばすことができたのも、この渋沢がいたからと言っても過言ではありません。」「資本主義の中心にあるのは“欲の塊”です。その欲のおもむく資本主義が暴走したら大変なことになる、人間の欲望に根差した厄介な制度です。渋沢はこれを律するための軸を”論語“で形成しようと思いつき、”一生を論語で貫いてみせる“と言い切りました。私はこの渋沢の慧眼に、思わず膝を打ったのです。」ここのところに興味を持ちこの本をとりあげました。

「一人で儲けるな」のところで、「多少なりとも志があるとはいえ、一介の農民のせがれである自分がここまでやってこられたのは、忌憚なく意見を述べ合える仲間がいればこそ。ある意味カリスマとは正反対の生き方が、日本に資本主義社会の盤石の礎を築いたのではないでしょうか。」そして渋沢は海運業で大成功をおさめた岩崎弥太郎の誘いにノーを突きつけます。「商人としての手腕は認めるものの、独裁的な経営をよしとし、同業者を倒して海運を独占しようとする岩崎のやりかたを、渋沢はどうしても受け入れることができなかったのです。」

「自ら箸を取れ」のところで「仕事をしようと思うなら、自分で箸をとらなければダメだ。いくらお膳立てしてもらっても、料理を食べるかどうかは、箸をとる人間の気持ち次第。料理を口に運んでくれるほど、世の中は暇ではない。」「役に立つ青年は磁石のようなもの。人に頼んで仕事をあたえてもらわなくても、仕事を引きつけるだけの力を持っている」つまり、いい仕事ができない、とか、つまらない仕事しかさせてもらえない、とかいうのは、仕事がしたいと言いながら実はやる気がないか、あるいは仕事を与えられるだけの実力を持っていないかのどちらかではないか、というわけです。

「堅忍持久の力を養え」のところで「思い通りにいかない時、グッとこらえて冷静になる。感情や勢いに流されないよう、自らを律して我慢強く持ちこたえる。これを徹底できたのは、明治に優秀なリーダー多しと言えど、渋沢の右に出る者はいないとさえ感じます。」「むろん大久保利通にしても西郷隆盛にしても、忍耐の時代を経ています。我慢が足りなかったなどと言うつもりはありません。でも、大久保は強引さが裏目に出て暗殺され、西郷は感情に流されたがゆえに自害することになってしまった。」「世の中のことは“こうすれば必ずこうなる”という因果関係がある。それを無視して、突然横から形成を変えようとしても、因果関係はすぐに断ち切ることはできない。だから人が世の中を渡っていくためには、成り行きを広く眺めつつ、気長にチャンスを待つ心がけを忘れないようにしなといけない。そのための忍耐を養いなさいと、渋沢は言うわけです。」

「逆境は真価を試される好機と捉えよ」のところで「人生には好むと好まざるとにかかわらず、波瀾の渦中に投じられて逆境に立たされることがある。これはいわば“人にはどうしようもない逆境”である。そのような逆境に立たされた場合は、目の前の出来事を“自分に与えられた本分(役割分担)だと覚悟を決めることだ。」「渋沢にとって一橋家の家来になるのは本来なら不本意です。ところが”家来にしてくださるというご好意はありがたいが、食っていくために志を翻すのは好まない。でも、一橋公が世のため人のために志あるものを召し抱えたいというならぜひ役に立ちたい“と申し出て見事仕官することに成功します。」「渋沢は、目をかけてくれた平岡円四郎の人柄と、彼が志ある人材を欲していることを勘定に入れた上で、”相手を困らせない、自分も困らない道“を切り開いたわけです。」

「実業は仁を根本とせよ」のところで「資本家と労働者の間においても仁を大切にするべきだと考えます。社会問題や労働問題を解決するには、労使間に壁を作りかねない方の裁きより、仁の徹底を優先すべきだと渋沢は考えたのです。」「渋沢は貧富の差や格差について、“人間社会の逃れられない宿命”としていますが、これを宿命として放置すれば、調和が崩れ取り返しのつかない事態が起こる、と危惧しています。」「だからこそ、災いを小さいうちに防ぐ手段として、“思いやりの道”を盛り上げてほしいと説いたわけです。」

「迷ったら、懐に飛び込め」のところで「見ず知らずの人とも積極的に会ってみるという心がけは、貴重な情報を仕入れるうえで大変役立つことがあります。一橋家の家来になった渋沢が行った“歩兵集め”もその一つです。集まった人々を前に熱弁をふるいますが、なぜか一向に志願者があつまりません。渋沢は一計を案じます。この作戦は見事に成功します。酒を酌み交わし、議論に花を咲かせ、共に釣りを楽しんだりするうちに、やがて渋沢のもとには“ぜひ志願したい”という若者が集まるようになります。」「うまくいかないと思ったら、とりあえず人と会う。誰と会うのがいいか 狙いをつけ、これぞと決めたら思い切って懐に飛び込む。そして、いきなり本題を突きつけるのではなく、距離を締めたところで相談を持ち掛ける。このような人付き合いのコツは、私たちビジネスマンがぜひともまねしたいところです。」

「おかしいとおもったら譲るな」のところで「自分は一見円満な人間に思われるが、まるで角がないわけではない。信じるところを揺すぶられ、覆されそうになった場合は断固として争う。いかなる場合でも絶対に譲らない。人間はいかに人格が円満でも、どこか角がなければならない。」「今や当然のように行われる国家予算の公表も、元をたどれば渋沢がきっかけを作ってくれたというわけです。」「渋沢は大蔵省に在籍したわずか四年余りの間で、財政以外にもさまざまな改革を行いました。全国の測量、度量衡の改正、税制改革、郵便制度の制定、公債発行及び貨幣制度の改定、廃藩置県に伴う藩札引き換えの整備など、その数はおよそ二百にも上がると言われます。」

「“知・情・意”を均等に成長させよ」のとこで「渋沢は“論語と算盤”の中で、常識を身に着けることの重要性を次のように説いています。社会で生きていくには常識が必要である。常識とは、世間の考え方を理解し、物事をうまく処理する能力のことである。これを身につけるには“智・情・意”を保ち均等に成長させなければならない。この三つをバランスよく得てこそ、我々は人間社会で認められ現実に成果を上げられる、と。」「智とは物事を見分ける能力のこと。知識を生かすには、物事の因果関係を見抜き、その後どうなるかを見通せる“智”がかかせないと渋沢は言います。“情”とは、他人に情けをかける気持ちです。人生の出来事に円満な解決を与えてくれる一種の緩和剤です。つまり“情”とは、バランスが悪くなりがちな〝智“を調整する機能なのだと渋沢はいいます。そこで必要になるのが”意“=動きやすい感情をコントロールする意思の力です。”意“は精神活動の大本です。強い意志さえあれば、人生において大きな強みをもつことになると渋沢は断言します。」

「身の丈を守れ」のところで「良心的で思いやりあること、常識人であることと並んで、渋沢は“己を知ること”を心がけるべきだと述べています。渋沢は実業家転身後も、“ぜひ大蔵大臣になってくれ”“日本銀行の総裁になってくれ”などと頼まれます。しかし“自分は実業界に穴を掘って入ったのだから、今さらその穴を這い出ることはできない”と言って固辞します。」「ただし、身の丈に満足しているからと言って、もう何も新しいことに取り組まなくてもいいのかといえばそんなことはない。やると決めたことは最後までやりぬかなくてはいけない。身の丈をわきまえつつも、目標を成し遂げるために全力を尽くす。そのバランスを考えながら進むのがよいと、渋沢は言っています。」

「小さなことは分別せよ、大きなことに驚くな」のところで「些細なことを粗末にする大雑把な人間は、大きなことを成功させることはできない。」「渋沢は天下統一を果たした秀吉を例にとり、“秀吉のような大人物も、最初信長に仕えた時は草履取りというつまらない仕事をさせられた。しかし秀吉はこの仕事を大事に努め、やがて抜擢され、柴田勝家と並ぶ重臣となった”と言っています。」「小さな仕事の大切さを説く一方で、渋沢は、大きなことに大胆にチャレンジする精神も忘れてはいけないと言います。要するに、細心さと大胆さの両方をバランスよく保ち、意欲的に新しいことに取り組むこと。これができて初めて、大事業を成功させることができる、というわけです。」「社会が進歩すると当然秩序も整う。それに伴い法律や規則の類も増えていく。その結果、決まり事にふれていないかビクビクするようになったり、決まりに沿ってさえいればいいと現状に満足するようになったりする。そうなると、新しいことが始めにくくなる。自然と保守に傾くようになる。こんなことでは個人の成長も、国家の前途もおぼつかないと、渋沢は当時の社会に対して警鐘を鳴らしています。」

「成功や失敗は、努力の後に残るカス」のところで「成功や失敗を、人生の基準にするのは間違っている。成功や失敗、あるいは金銭や財宝というものは、精一杯努力した人間の身体に残るカスのようなものである。」「渋沢は人生の成敗(勝ち負け)についてこのように述べ、成功や失敗しか眼中にない考え方を、“天地の道理を見ない愚かな考え”として戒めています。」「ただし“運命を切り開くには知恵が欠かせない”と渋沢は言います。巡り合った運命を掴むか否かは、その人の持つ智力にかかっている。いかに善人であろうと、智力を生かせなければ成功はおぼつかない。」

「人生の価値は、信頼と尊敬」のところで「渋沢は”論語と算盤“の最後で、こんな言葉を残しています。”成功や失敗などの価値観から脱皮し、超然と自立し、正しい道筋に沿って行動し続けるなら、成功や失敗とはレベルの違う、価値ある生涯を送ることができる“」では価値ある障害とはいったい何なのだろう。「人はこの世に生まれてきた以上、自分のためだけでなく、何か世のためにすべき義務=天命がある。渋沢の言うように、価値ある人生とは、突き詰めれば自らの天命を知り、天命のために精一杯の努力ができる人生ということなのかもしれません。」

表紙裏の言葉を取り出しておきたい。
「経済の停滞や格差拡大が進む中、仕事に対するモチベーションが上がらず、先行きに希望も持てず、これからどう働けばよいか、何をよりどころに生きていけばいいのか___悩んでいる方々にとって、渋沢の言葉や思想は心強い羅針盤となってくれる、と確信しています。」との著者の言葉だ。

(文:横須賀 健治)

 

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