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しあわせの「コツ」(第59回) 「からだの叡智」を活かす知恵

by staff on 2021/11/10, 水曜日

第59回 「からだの叡智」を活かす知恵

 

子どもたちが幼稚園に通っている頃、どの子にも必ずしていた事があります。その名は「愛情ガソリン」(笑)。要するにハグの事です。どんなに機嫌よさそうに帰ってきた子でも、帰宅直後の身体は固く、肌は冷たいのです。嫌なことがあった日は、なおさらでした。

玄関に入るとすぐ私は廊下の端に座り、子どもをギューッと抱きしめます。腕の中の子どもは、はじめは頬も冷たく、身体全体が固くなっています。私は目をつぶり、「○○ちゃん、大好きよ。いい子ねぇ・・・」とささやいて、じっとしているだけ。10秒、20秒、30秒・・・。しばらくすると、腕の中で子どもの体が急に温かくなり、同時にクタっと柔らかくなるのです。すると、最初は腕の中でジーっとしていた子どもは、もぞもぞ動き出し、目をキラキラさせて「あのね、折り紙上手ねって、先生にほめられたよ!」「今日のおやつはなぁに?」「お着換えしてくるね!」などと言いながら、私の腕を振りほどいて子供部屋に駆け込んでいくのでした。

私は、ただハグして冷たい体を温めてあげただけ。でも、身体が温まると同時に子どもたちはバネの様に弾む体と心を取り戻し、親の腕の中から飛び出していったのです。
外界と自分とを分かつ境界である皮膚が、精神とリンクしているのはよく知られた事ですが、皮膚への刺激は私たちが思っている以上に、人間にとって大切なようです。

皮膚は、実はとても賢いのです。
資生堂リサーチセンター主幹研究員の傳田光洋さんは『驚きの皮膚』の中で、皮膚には音を感知する能力もあると言っています。

傳田光洋著 講談社刊

私たちがトランス状態になるような音楽は、CDではカットされる10万ヘルツ以上の高周波が含まれていますが、そういう音楽を、音を通さない物質で首から下の皮膚を覆って聴かせたところ、トランス状態は起きなかったそうです。高周波は耳ではなく、皮膚で受容されているのです。
また、表皮を形成するケラチノサイトは赤い光と青い光に細胞レベルで異なった反応をして色を識別し、味覚、嗅覚に似た反応さえもするというのです。

なぜ皮膚はそんなに賢いのでしょう?

それは、受精卵が分裂するとき、皮膚の表面になる表皮は、脳や脊髄など神経系とともに外胚葉から作られることに関係しています。もともと皮膚と脳は同じ外胚葉だったので、脳と同じような反応をしても何の不思議はありません。
皮膚を刺激することが脳の活性化につながることもお分かりになると思います。

受精卵の仕組み

「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンも、これまで脳が合成し、放出すると考えられてきましたが、何と表皮でも合成されていることが最近の研究で分かってきたそうです。

そう考えると、抱っこ、おんぶ、添い寝、お父さんやお母さんと一緒にお風呂に入る、といった日本の家庭で当たり前に行われているスキンシップが、いかに脳を活性化させる行為であるかが分かりますね。こんなにも子供との「肌のふれあい」の多い国はそうそうないと思います。

幕末に日本を訪れた外国人が一様に驚くのは、日本の社会が「子供の楽園」であったことです。渡辺京二氏の『逝きし世の面影』を読むと、彼らの驚きと感嘆が伝わってきます。

「私は日本は子供の天国であることを繰り返さざるを得ない。世界中で日本ほど、子どもが親切に取り扱われ、そして子供のために深い注意が払われる国はない。ニコニコしているところから判断すると、子どもたちは朝から晩まで幸福であるらしい」  モース(P390)

渡辺京二著
『逝きし世の面影』
平凡社刊

だっこやおんぶなどの伝統的な日本式スキンシップのおかげで、皮膚を通して脳が活性化され、加えて表皮で合成されるオキシトシンが豊富に放出されていたため、当時の子供たちは無邪気で、明るく陽気で、賢く、いつも楽しそうにしていたのでしょう。

浮世絵に見る子供の遊び 生き生きと遊ぶ子供の姿が活写されている

現代の脳科学でようやく解明されてきた皮膚と心の関係を、すでに昔の日本人は知っていたのです。それだけではありません。何気ない習慣としてそれが日常生活の中に組み込まれていたのです。「しあわせの『コツ』」を知り抜いていたとしか言いようがありません。

日常生活の中に組み込まれた「しあわせの『コツ』」ということでいえば、「お辞儀」もそのひとつです。「正しいお辞儀」は体の潜在力を引き出すはたらきがあるのです。

「正しいお辞儀」とは、足をそろえて立ち、手は体の横に真っすぐに伸ばして指は揃えます。首と背中を真っ直ぐにしたまま、おしりを後ろに引く形で、約45度の角度で礼をします。この時、首だけを前に出したり、背中を丸めないようにします。

小笠原流では、上体を倒す動きのまま手が自然と前に出、正面から見て「八の字」にすると教えていますが、身体の潜在力を引き出す「お辞儀」では、手は体の横につけたままにします。ちょうど手の指が当たる場所に「伏兎(ふくと)」という腰や股関節のツボがあるので、そこに指が触れるようにします。

正しいお辞儀の仕方

このお辞儀では、頚椎・胸椎・仙骨が一本の線となり、エネルギーの通りがよくなります。そうすると、自分のエネルギーが相手にも伝わりやすくなり、円滑なコミュニケーションがとりやすくなるのです。首が曲がった状態では、エネルギーが伝わらないどころか逆に自分のエネルギーを弱くしてしまいます。

日本人は昔からそのことを知っていたのでしょうか。食事の時ですら首を曲げることを嫌いました。今でも私たちはお茶碗をもってご飯を食べます。それは首を曲げて頚椎がずれるのを避けるからなのです。

脳に一番近い頚椎は、カイロプラクティックでも重要視され、創始者D.D.パーマーの息子であるB.J.パーマーは、頚椎の1番2番を整えることが、自然治癒力を引き出す効果が高いことを発見しました。

カイロプラクティック創始者 パーマー親子

頚椎は生命維持を司る脳幹の一部である延髄が入り込んでいます。頚椎がずれていると、脳からの命令が100のうち70や60、あるいはそれ以下に減ってしまうのです。そうなると、本来の生体機能を100%発揮できなくなり、心身のトラブルの元となります。

カイロプラクティックで頚椎の重要性が発見されるよりはるか昔から、日本人は姿勢を正して頚椎にずれが生じないようにと知らずに躾けられてきました。「お辞儀」は飛鳥時代に中国の礼法を取り入れたのが始まりとされていますが、気がつくと電話しながら見えない相手に自然とお辞儀をしたりする日本人は、発祥の地以上に「お辞儀文化」を極めているといえましょう。

「お辞儀」は、単なるマナーではありません。私たちの体を正しく使うことで自然治癒力を高め、心身の健康を維持すると同時に、相手と和してゆくための行為でもあるのです。

日本の生活文化や風習を調べると、平易な事柄の中に深い叡智が隠されていて、思わず感動することがあります。子供とのスキンシップ然り、「お辞儀」然り。最近は携帯電話のせいで、首を前傾させている人が多いですが、先人の叡智に思いを馳せ、頚椎に負担のかかる姿勢は避けたいものですね。

正常な首と、前傾のし過ぎで頚椎の自然な湾曲が取れた「スマホ首」

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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