Skip to content

書評 「いろいろ」 NHK出版 上白石萌音(著)

by staff on 2022/2/10, 木曜日
 
タイトル いろいろ
単行本 226ページ
出版社 NHK出版
ISBN-10 4140818638
ISBN-13 978-4140818633
発売日 2021/9/25
購入 いろいろ(通常カバー版)

「ありのままの本音」と表紙カバーに出てくる。表紙を空けると「いつも心に太陽を、唇に歌を 懐には一冊の本を 萌音」の一枚の紙が挟まれている。そしてその後は萌音さんの読書している写真が載せられている。

「灯す」から。「おうち時間を通しての一番の収穫は、キャンドルを見つけたことかもしれない。断捨離をしていたら、なぜか靴箱の隅にちんまりとおさまっていたのを発見したのだ。どうしてあそこにあったのか。どなたにいただいたものなのかはさっぱりわからない。こんなところにキャンドル、と思って灯してみたその時以来、わたしの生活にかかせないアイテムになっている。」この生活感がとても大事なぁと思っていたら、この「灯す」の終わりの文書がこうして閉じられる。「?燭の火を消そうとするときは、毎回ちょっと切ない。甘い香りと橙の光のせいでだいぶおセンチに仕上がったんだわ。うふふ、の口でふっと一息。この部屋はこんなに暗かったのかと思う。闇が光をつくっているこことを改めて知る。あくびがでてきたけれど外はまだ昼なのだった。もういっそこのまま昼寝でもしてしまおうか。それがいい、そうしよう。それではおやすみなさい。」

そうしておいて、「わたしの“萌音さんの色”」とくる。「水色」ときて
「萌音ちゃんを思い浮かべたとき、パッと豊かな湖が浮かんできま した。その湖はとても深くて、太陽があれば水面がキラキラひかり、底を覗けばおだやかに魚たちがスイスイ泳いでいて、みんなが楽しそうです。」
水色の紙面に言葉がちりばめられている。

「歌う」から。「わたしにとって、歌は二種類ある。仕事で歌う歌と、それ以外のうた。レコーディングで一日中歌ったあと、家に帰っても数時間歌い続けることがよくある。まだ歌いたらんのか、と家族はびっくりするけれど、それとこれとは別なのだ。歌を歌い始めたのは二歳になる前だった。初めて音とリズムを正確にとったのは、“いないないばぁ”を見ていた時。テーマソングのばぁっ!のところを完璧に歌ったそうだ。」物心ついたときからの生活の一部だった歌がやがて仕事になったそうだ。「歌う」の終わりの文章がこうして閉じられる。「歌を歌う時は、いつもよりたくさん空気を吸う。いつもより口を大きく開けて、心も大きくあけ放つ。たっぷりの息に思いを乗せて声を出す。肺がぺしゃんこになるまで息を吐き切ったら、また息を吸う。この繰り返しが音楽になる。難しくても怖くても歌うことをやめられないのは、若干二歳にして知ってしまったこの楽しさが、住み着いているからだろう。」

そうしておいて、「わたしの“萌音さんの色”」とくる。「黄色」ときて
「萌音さんの笑顔はフワフワッとしてとても癒されるアカ シアの花のようです。」
黄色の紙面に言葉がちりばめられている。

「立ち返る」から「久しぶりに、“舞妓はレデー”の台本を引っ張り出して読んだ。たまにこういう時がある。過去の作品の台本を引っ張り出して読む時。それは大抵、何かにすがりたい時だ。台本には現場のすべてが刻まれていて、開いて読むだけでいろんなことが蘇ってくる。このシーンが楽しかった。合間にこんなことを話した。上手くいかなくて落ち込んだ。怒られた。暑かった。寒かった。書き記されていない、いろんなこと。」

そうしておいて、「わたしの“萌音さんの色”」とくる。「青色」ときて
「萌音さんとお話していると、柔らかく穏やかななかにも芯のあるものを感じます。青色も、明るく優しい印象の青もあれば不快色もあり、萌音の見せる表情と似たものを感じました。」
青色の紙面に言葉がちりばめられている。

「宿る」から「いつかじっくりとお母さんの役をやりたいとあこがれてきたが“カムカムエヴァリバディ”で思っていたよりもうんと早く夢が叶った。今日、初めて妊婦さんのシーンを撮った。扮装であるとはいえ、自分のお腹が大きくなるというのは、想像以上に感動的で不思議な体験だった。自然と両手がお腹に行って、気づけばずっとトントンしたりさすったりしてしまう。立ち座りの時すごく慎重になるし、走るなんて考えられない。気持ちが落ち着き、口調も柔らかくなって、今ならどんなことをいわれても大きな心でうけとめられそうだと思った。」

そうしておいて、「わたしの“萌音さんの色”」とくる。「黒」ときて
「可愛らしい見た目とは裏腹に、何色を重ねても染まることのない、安定感と真の強さと心の美しさを感じるからです。美容室という場所でも萌音さんは萌音さんのままの方です。」
黒の紙面に言葉がちりばめられている。

「褒められる」から
「書きためていたエッセイを始めて四編まとめて提出した。ふう。まだ鼓動が速い。原稿や菓子を提出するときはいつも本当にドキドキする。心の内側を覗かれるみたいな、ラブレターを渡すみたいな感覚だ。渡したことないけど、たぶんこんな気持ちなのだろう。何度も読んで、一晩寝かせてまた読みなおして、細かいニュアンスや助詞を直したり戻したりして、やっと送信ボタンを押す。最後はもう目を瞑って“せいっ”と送った。くどいようだけどラブレターもきっとこんなかんじなのだろう。」この“褒められる”の受け取り方が難しいと言われる。「謙遜しすぎると失礼に当たるし、すべてを鵜呑みにしていたら、自分を過信するようになってしまうだろう。自信は必要だけど過信は危険だ。わたしは、いただく時はありがたく頂戴して、そのあとは部屋の箪笥あたりに大事にしまっておくことにしている。そこから必要な時に必要な言葉を取り出して、心のポケットに入れておくのがいい。いつも全部持ち運んでいると、足元が見えなくなってしまうから。

そうしておいて、「わたしの“萌音さんの色”」とくる。「スモークグリーン」ときて
「萌音さんを淡色で表すことは難しいのですが、ユーカリの葉のように、シルバーがかかったグリーンをイメージします。癒しがあって、優しい色で、見る角度によって淡いグリーンに見えたり、雪のかかったグリーンにも見えたりするスモークグリーンが、ナチュラルでどんな空間にも馴染むことがのできる萌音さんのような色だと思います。」
スモークグリーンの紙面に言葉がちりばめられている。

「あとがきにかえて」の所で、「初めて本を執筆してわかったことがある。一つ目は、思っていたより数倍、自分が面倒くさい人間であるこということ。自分の心の機微を注意深く観察していたら、すごく疲れた。下手をすれば暗くてひねくれたエッセイばかりになるところだった。天邪鬼で気にしいなわたしは、たくさんの人に出会い、必要としていた言葉をもらって、なんとか前を向いてきたのだ。お仕事を始めてから十年、ひいては生まれてからの二十三年間の出会いのすべてが、ありがたくて大切でたまらない。」「書くことは、伝えるということは、見つめることから始まるのだと思った。そして。人では何もできなくて、だれかの力を借りたら何でもできるのだと思った。気づけてよかった。」と。

これからの大きな活躍が本当に楽しみですね。

(文:横須賀 健治)

 

Comments are closed.

ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
(動画をみる)

横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
(動画をみる)

Page Top