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Harbor Bakery 105オーナー 内田孝治さん

by staff on 2022/2/10, 木曜日

横浜橋商店街南エリア宝水産の角を曲がると、『Harbor Bakery 105(ハーバー ベーカリー イチマルゴ)』と書かれたブルーのテント看板が目に入ってきます。昨年11月24日にOPENした「棒食パン」を主流とした食パンの専門店です。オーナーは商船三井客船(株)の「にっぽん丸」などに30年在籍し、25年に亘ってパンとデザート部門を務め「ヘッドペストリーシェフ」を拝命した内田孝治さん。今回は内田さんに「棒食パン」に込められた思いを伺いました。

Harbor Bakery 105オーナー 内田孝治さん
 
Harbor Bakery 105オーナー
内田孝治さん
 
お名前 内田 孝治(うちだ こうじ)
お生まれ 1971年4月4日
ご家族 ご両親とお住まい
お仕事 株式会社K・U 代表取締役
趣味 読書/文庫本(時代小説)

 

海への憧れ

幼い頃は「将来なんになるの?」と聞かれても、何になりたいのか何をやりたいのかあまり考えることはありませんでした。3人兄弟の真ん中で、これと言って目立つことなく「普通の子」だったと思います。
そんな私が中学校に入学し、「陸上部に入りたい」と思ったのですが、既に入部していた3年生の兄が、兄弟が同じ部で活動することを嫌がったので入部できなかったこと、他の部に入部したものの本当に入りたかった部ではなかった為、すぐに辞めてしまったことを思い出しました。
この時「人はやりたいことをやるのが1番」と思いました。

当時、父が水産関係の仕事に就いていたため、その影響もあって、高校は水産高校に入ろうと決めていました。
水産高校の学科には、「航海技士」や「機関技士」など船の操作を勉強する科や、「漁業」を学ぶ科、「水産加工や食品製造」を学ぶ科などがありました。私は「水産加工や食品製造」を学ぶ科に入学したので、他の科の生徒が捕獲したマグロなどの魚を缶詰に加工する勉強をしました。体験学習で遠洋航海に出かけられる生徒を羨ましく思いました。

部活は舟艇部に入りました。カッターという全長9mのボートを左右6名ずつ12名の「漕ぎ手」が漕ぎ、舵を操作する「艇長」、号令を掛け指揮する「艇指揮」の14人が乗って海に出ます。
1年生の時は漕ぎ手で、オールの長さは4m、重さは10kg以上もあり、そのオールに波や海流などの抵抗が加算されるので体感する重さは20kgを優に超えます。そこで体が鍛えられました。
カッターの大会には全国から強豪校が集まってきます。大会では500mを折り返し1kmで速さを競います。折り返しでは回り込む側の漕ぎ手が号令に合わせてオールを垂直に立てます。この時のテクニックが勝敗を分けるとも言われています。
私のいた水産高校は2グループを出場させる実力校で、私は2年生の時に「艇指揮」を、3年では副部長を務めるまでになりました。舟艇部で海の楽しさ厳しさを体験し、チームワークの大切さを学びました。

そして将来の夢が芽生えました。海に関わる仕事に就きたいと思うようになりました。
高校卒業後の進路は船員になるために国立清水海員学校(現在は短期大学)で1年間勉強をし、19歳の時に念願の商船三井客船株式会社に就職が決まりました。

豪華客船で行くクルーズがブームになった

当時、商船三井客船㈱にはにっぽん丸、ふじ丸、新さくら丸の三隻のクルーズ船があり、洋上イベントやパーティー,チャーター便など国内や海外を巡るクルーズブームの火付け役になっていました。
私は調理員として乗船していましたから、野菜の切り出しや火入れなど、調理見習いとして仕込みや下ごしらえ、雑用に追われる毎日を送っていました。航海中は食事が楽しみの1つですから作る側も力が入ります。早朝に起き、夜遅くまで先輩の下で勉強の繰り返しでした。

疲れた時は船底に近い自室の丸窓から海を見ました。仕事の合間やお客様がツアーに出掛けている間にデッキに出て見る水平線、夜明けや日没の美しさは今でも目に浮かびます。

観光地に寄港すると、殆どのお客様は下船しツアーに出掛けるので仕事は暇になります。その時間を利用して現地の珍しい食材を手に入れたり、勉強のために現地のレストランに行ったりして時間を過ごしました。

デザート&ベーカリー部門へ

ある時、ベーカリーのトップが体調を崩し緊急下船しました。そして私が数か月間ベーカリー部門を手伝うことになりました。そんなことがあってか、入社して3年目に「本格的にベーカリーをやらないか?」と声を掛けられ、ホテルや有名店でパンとお菓子の研修を受けました。

客船のパン部門に配属された当時は、日本人2人でパンを焼いていました。棒食パンといって長細い食パンです。朝食のパンはプレーンの他にフルーツソースを練り込んだものなど味にバリエーションを付け、甘いパンもご提供させていただきますが、ディナーのパンは料理の邪魔をしない甘味を抑えたシンプルな味のものを用意しました。先輩たちから受け継がれるレシピがあり、食事の時にベストな状態になるようにパンを焼きました。

船では7:00~9:00が朝食、11:30~13:30が昼食、18:00~21:00がディナータイムとなっていました。乗船したお客様の人数によってディナーが2回に分けられることもあり、2回となると17:00~21:30までがディナータイムとなります。それに合わせてパンを焼くのですが、焼き立てのパンは切り分ける事ができないので、絶妙なタイミングでお客様に提供できるように気を使いました。

私が担当になってからベーカリー部門も人員が増え、お客様の多様な要望にお応えできるようになり、基本は「にっぽん丸特製」とかクルーズ船の名前を付けた「特製」の棒食パンですが、朝食にはあんパンのような菓子パンも並べるようになりました。

正確には覚えていないのですが40歳の頃に「ヘッドペストリーシェフ」を拝命しました。人生が順風満帆と思われた時にコロナが旅行業界を襲いました。「人流」の自粛要請などでクルーズ船にお客様をお迎えできなくなりました。これを期に、船を降りて独立しようと思いました。

Harbor Bakery 105 の誕生

30年間船で仕事をしていました。その間、船員仲間から一緒に会社を立ち上げようと誘われることもありました。長い休暇を利用して国内外で研修をしたこともありました。いろいろな経験を積み、2021年11月24日に横浜橋商店街近くで自分のパン屋を開くことになりました。

店名は「マリーナベーカリー」と思いましたが、「マリナーズベーカリー」という店が既にあったので「Harbor(ハーバー/港)Bakery(ベーカリー/パン屋)」に決めました。テント看板は海のブルーを使いロゴマークは船と錨をデザインしました。数字の105は私が在船中に行った世界一周クルーズの中の最長日数です。

店の看板商品はもちろん「棒食パン」です。プレーンとチーズ、クルミバターの三種類があります。「山形食パン」は和三盆を使ったものとレーズンが入っているもの2種類。そして、カリッと焼いたラスクを売っています。味と品質に自信がある食パンの専門店です。

焼き立ての棒食パンはやわらかくてもっちりしています。なるべく焼き立てをお客様に提供したいと1日2回パンを焼いています。8:30~9:30頃、12:00~13:00頃が目安です。
棒食パンは、焼き立てをちぎって食べるのが一番美味しい食べ方です。
コンビニやスーパーに並ぶ食パンは時間が経過して硬くなるのを嫌がり、硬化をなるべく延ばすような添加物が入っているものがありますが、私の作るパンは小麦粉、塩、砂糖とイースト菌をベースに、チーズパンにはチーズ、くるみパンにはくるみといった素材しか使っていません。ですから素材の仕入れには気を使い、納得できるものを使っています。(※注)

ご飯も炊きたてが美味しいでしょう?! 冷めると硬くなるのは「デンプン質」の特徴です。焼き立てのやわらかい食感を十分に楽しんだ後に、残って硬くなったとしても、トーストするとまた違った食感を楽しむことができます。

お客様の中には「にっぽん丸のパンですね」と言って買いに来られる方がおりますが、私のオリジナリティが加味されていますので全く同じものではありません。また、お客様の思い出の味にはクルーズ船での楽しかった思い出やいろいろなシーンでの感動が加味されているので全く同じものにはならないのです。もちろん私のパンの味で楽しい思い出が蘇るのなら、それはそれで光栄だと思います。

今後は、船での経験を糧に、地元横浜の皆さんから愛される店にしていきたいと思います。

※注:2021~2022年(取材時迄)の一例:国産小麦「春よ恋」、マダガスカル産「バニラ」、塩「雪塩」、砂糖「和三盆」

あなたにとっての横浜とは

まずはこの店を繁盛店に育て、足元を固めてからサンドウィッチの専門店やカフェをやりたいと思います。自分の目が届く範囲で味を守って行きたいので通信販売のような量販は考えていません。
自分が納得できるパンを作り、焼き立てを食べて「美味しい」と思っていただけたら、私もやりがいを感じることができます。

先日、横浜港大さん橋に寄港した船から店に仲間が訪ねて来ました。仲間と話していると船を懐かしく思っている自分がいて「海」が恋しくなりました。
私にとっての横浜は「海」です。50年間の人生の中で30年を占める海での生活、多くを学び成長がありました。

そして「Harbor Bakery 105」の新しい船出、舵取りは私自身に託されました。コロナ禍で世界的に経済活動が滞った中で、原材料の値上げが大きな不安要素となっています。 その中での舵取りは決して楽なものではないと思いますが、海で鍛えた精神で夢に向かって進みたいと思います。

Harbor Bakery 105
神奈川県横浜市南区浦舟町1丁目1-7 TEL:045-315-4540
営業時間:火曜日~日曜日/10:00~18:00 月曜日定休日
ツイッター:https://twitter.com/HarborBakery105>
インスタグラム:https://www.instagram.com/bakerharbor/

(インタビューと文:高野慈子平安山美春

 

 

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