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記憶の中から (第二話)装丁家の父

by staff on 2022/7/10, 日曜日

記憶の中から
時代小説家山本周五郎と父装丁家 秋朱之介の交流より

第二話  装丁家の父

父は三つの名前を持っていました。戸籍では西谷小助・通称西谷操・ペンネーム秋朱之介です。詩人として、装丁家としても当時の文壇では著名で、2018年故郷鹿児島の「川内まごころ文学館」で「川内の生んだ出版人」として回顧展が、昨年も山口県湯田中の詩人「中原中也記念館」で父が装丁した詩集その他の「ブックデザイン展」が開かれ、昭和ロマンを感じる本を見てきました。鹿児島の回顧展に出た本は文学館が苦労して収集、また神田の古書店「比屋根書房」が所蔵してある本で構成され、私も数冊の本を提供いたしましたが、その愛しい本たちは展示後すべて「まごころ文学館」に寄贈しました。それが最良の選択と思います。いま手元にあるのは佐藤春夫の詩集「魔女」ただ一冊。白蛇の皮の背表紙、川上澄生が龍を表紙に書いています。限定47部発行のうちの13冊目を二年前古書店からの勧めで購入することが出来ました。局紙を使いその卵色の紙の何とも温かい手触り。早く故郷に収めなければと思うのですが、別れがたくて身近に置いて眺めるのが究極の幸せです。
父の背中を感じます。
お値段ですか。数十万円でした。別に幻の1冊があるそうです。龍の目にルビーをはめ込んであるとのこと。現存すれば千万の単位だそうですが。もう無いものと思います。
頑固者の父、縁側で詩人堀口大学先生から譲られた少しほどけかかっている籐椅子に座って聖書か古事記を読んでいる姿しか記憶に無いのです。

私が4歳の時(1944年)に我が家は疎開で東京の目白から本牧に移ってきたのでした。父は大佛次郎達と小港辺りで遊んでいたので本牧には土地感が有ったらしいのです。引っ越しのことは事前に母は何も知らされていなかったらしい。私の「文香」というその頃では風変わりな名前は、結婚前に父のお付き合いのあった新橋のお姐さんの名だそうです。

戦前から出版関係で知り合っていた山本周五郎は、昭和18年「日本婦道記」が第17回直木三十五賞に推薦されましたが辞退しました。現在まで直木賞を辞退したのは山本周五郎ただ一人です。曲軒(へそ曲がり)というあだ名がついたのはその頃からだそうです。戦争で荒れ果てた東京馬込から4人の子供さんと再婚間もない奥さんを本牧の家の隣の空家に誘って住んでもらったのは昭和21年春のことでした。

薩摩川内市まごころ文学館 チラシ

佐藤春夫詩集 『魔女』

操書房発行書物

 

(第二話了)

 

大久保 文香さん プロフィール

記憶の中から 大久保文香さん   「関内を愛する会」事務局長を経て
「野毛大道芸」事務局に就任。
以降エンタメに興味を持ってイベント企画会社
桜蘭(株)を立ち上げ
現在、桜蘭(株)プロデューサー
 
<ヨコハマNOWの記事>
「大道芸の母」として慕われているイベントプロデューサー 大久保文香さん

 

 

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