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第116回 ちょっと難しい話

by staff on 2023/1/10, 火曜日

山田スタジオ
山田慎一郎

現在、住宅の設計よりも携わる機会が多いのが寺院や納骨堂、葬儀場といった用途の建物です。小さな教会の納骨室の設計もあれば、いわゆる○○宗総本山のマスタープラン作成まで、様々な規模の建築計画を設計チームの一員として取り組んでいます。元々は随分前に企画され、なかなか実現しないまま10年経ってからお話をいただくことも珍しくはありません。墓地埋蔵法や近隣との調整、もちろん予算的な話など超えなければならない様々なハードルがあるためです。

もう一つのハードル、それは残すべき建物が「古い」ことです。いわゆる寺院建築は建築基準法上規制の多い特殊建築物には該当しないので、ある程度の自由度をもって設計が可能なのですが、昔からある既存建物も多く、履歴が曖昧で(建築確認申請を出しているが完了検査を受けていないなど)、何をするにもその履歴調査から始めないと先に進めません。難しくしているのが勝手に増築しているケースや当時の資料が残っていないことが当たり前になっていることです。既存の建物に増築などする場合、まず既存の建物が現在の法律に合致していることが原則です。また古い建物であれば建設当時の法律に合致していることがまず求められます。(既存不適格建築物と言います。決して違反建築物ではなく、今の法律に合致していないだけです/法律はその時代に合わせ変わるものです。)まず計画地(の建物)を法律的にスッキリ綺麗にしておく、といった感じです。

昭和初期建設のRC造の本堂。         木造の本堂。別棟で納骨堂を計画中
隣接庫裏建替予定                         

 「ちょっと難しい話」

現在建築計画に関わる主な法律は昭和25年制定の建築基準法です。前述の既存不適格建築物かを判定するにもこの法律がベースになるのですが、これより少し前の建物だと市街地建築物法(建築基準法の前の法律)をベースに判定されることになります。この市街地建築物法ではあまり多くの制限がかけられているわけではありませんが、法律が古いためか大手の確認検査機関でも取扱いが出来ないことがあります。前述の通り適合性判定(既存不適格建築物との判定など)を原則としているので、ちょっと古い建物だと行き詰ることもありますが、話し合いを続けるうちに柔軟に対応してもらえる個別のケースも増えています。市街地建築物法時代(昭和初期)には木造寺院だけでなく築80年の鉄筋コンクリート造である建物も建てられています。もう少し経つとこのころの建物も歴史的建造物として認定され新たな法律によって優遇される時が来るかもしれません。古いものが全て良いわけではありませんが、残されるべきものが正しく残される、そんな時代が来て欲しいものです。

市街地建築物法は各地の様々な建築制限の統一化、災害に強い基本的な都市づくり(建築の集団が街であり都市であるので)を目指そうとしたそうです。
時代も変わりこれからは画一的な判断だけでなく、何が本当に必要かを考える機会が増えると良いなと思っています。自分が関われる計画でそれが少しでも実現するようになればと。ちょっと難しい話かもしれないですが。

計画中の建物。既存建物である木造本堂の脇に建つ納骨施設。既存遡及は無しのケース

 「未来の古典」

古い寺院建物をそのまま使いたい、残したいというのが最も多いオーナー(住職)のリクエスト。できれば修繕と合わせて快適性も向上させたいと。全国どの寺院も古い本堂があり、宗教活動の中心として檀家門徒に愛されているはず。その建築を大切に使い続け、整備してゆくことで単なる宗教施設ではなく地域のシンボルになってゆく可能性もあります。一方住まいとして使う庫裏(くり、庫裡)など、同じ寺院機能の一部分であってもその時代の生活スタイルに合わせて、新しい建物に建て替えられていくものあります。

新しい建物は例えば耐震性とか省エネ性能がこれまでより高く、快適に過ごせる技術が反映されるでしょうし、デザインも新しい材料などが開発され斬新な表現も可能となります。境内の建物も伝統様式だけでなく新しい表現の建築も当然増えてくるでしょう。時代を反映しつつもそれ以降ずっと生き残って(愛されて)ゆく建物があるとしたら、古くからある寺院や古建築と同じように時代的な古さを通り越して常に「今」ひいては「新しさ」を持っているといっても良いのではと思っています。大袈裟かもしれませんが古くからそこにある伝統建築の隣に新しい建築の設計すること、すなわち「未来の古典」をつくる仕事であることを普段から意識するようにしています。できた当初奇抜で斬新なだけと評価を受けても今後受け入れられる未来を目指したものであること。伝統建築も元は「新人」だったはずですし、そんな新しい建築を優しく見守っていくことも必要かと。

さて過去5回寄稿した「街のはなし」。いよいよ新駅の開業も間近に迫っており、高層マンションも20階あたりまで建設中、すでに全戸完売とのこと。街道含めその周りも鋭意工事中。バスターミナルも新駅側に移設されるらしく、スイッチバック式の見慣れた姿ももうすぐ見納めです。バス停はともかく、街の記憶、これから伝統となるはずの何かがこのタイミングで損なわれないことを望みつつ、新しい歴史のスタートを楽しみにしたいと思います。

高層マンション建設。足元は新駅建設中    綱島駅スイッチバック式バスターミナル

 

 

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