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2011年1月  「ニューヨーク州に新知事が誕生」

by staff on 2011/1/10, 月曜日

2011年1月1日。米国で最も影響力のある州のひとつ、ニューヨーク州に新しい知事が誕生した。元同州知事のマリオ・クオモ氏の長男、アンドリュー・クオモ氏である。同氏は、政治に志した頃、貧困層の住宅支援組織HELPを創立し、ニューヨーク市から委嘱されたホームレス委員会の会長として活動した実績等を買われ、90年代にはクリントン政権の住宅都市開発省次官から長官を歴任した。深刻な財政赤字と行政への信頼の失墜の中で誕生した行政のプロたる実力派知事である。

 

アンドリュー・クオモ氏は2000年の連邦上院議員候補の際はヒラリー・クリントンに譲り、2002年の知事選では戦術の失敗もあり敗退した。2006年に州司法長官選挙に当選し、腐敗を摘発してきた実績と真摯な姿勢が評価されたようだ。イタリア系移民の商店主の息子からアメリカ的成功を実現した父親の薫陶もあるのだろう。演説する姿はたくましく、親しみと指導力と歯切れ良さを感じさせる。トヨタ車リコール問題の際は消費者保護と交通安全の観点から情報提供のサイトを立ち上げ、オーナーのために費用負担をトヨタに請求し全米で最初に協力を得た。 独禁法でインテルを提訴、リーマン倒産問題では、会計事務所のアーンスト&ヤングを提訴している。昨今では稀に見る積極姿勢だ。

2008年は3月半ばに元州司法長官でエリート弁護士であるスピッツァー知事の不祥事による辞任があり、9月半ばには、史上最大の倒産であるリーマンの崩壊が起きた。ワールドトレードセンターの惨劇を、ジュリアーニ市長からブルームバーグ市長へのバトンタッチで乗り切ってきているニューヨーク市に比べ、ニューヨーク州の再生が望まれていたところだった。2008年に副知事から知事に昇格していたパターソン知事は、盲目の黒人という人物で、当初は出馬の意思だったが、オバマ大統領の意向を受け、人気で辣腕の州司法長官のクオモ氏に2010年の知事選出馬を譲った。腐敗の追及で保険会社から数百億円を勝ち取ったクオモ氏は、自身の政治倫理と能力への協力を訴えた。クリントン元大統領も応援し、対立候補に2倍近くの差をつけて圧勝した。

ナイアガラの滝を有する米国最大の州のひとつニューヨーク州。カリフォルニア、テキサスに次ぐ2千万人を有する全米三番目の州だ。ニックネームがエンパイアーステイト(帝国の州)という名前で、米国と世界への重要性から、この名前を州民は誇りにしている。因みに隣のニュージャージー州はガーデンステイト、シュワルツネッガー知事のカリフォルニア州はゴールデンステイトだ。エンパイアーステートビルは州を象徴する高層ビルとして1931年の恐慌のさなかの竣工だが、当初は「エンプティービルディング」と揶揄されるほど空室が多かったようだ。アップステイトと呼ばれる北部に広がる郊外は、ウェストポイント陸軍士官学校から、西の端はナイアガラの滝のバッファロー市に繋がりカナダと接している。アップステイトの中でオルバニーという地方都市が州都で、工業都市ロチェスターにはコダック本社がある。

首長選挙は正副の2人で立候補するのが米国の伝統で、副知事候補ダフィー氏はロチェスター市長からの出馬となった。南のダウンステイトには、マンハッタンを含む5つの地区を有するニューヨーク市がある。 ビジネス面でも芸術や文化面でも世界に強い影響力を有する都市を持ち、価値観の多様性と格差の拡大は、多くの問題を引き起こし、それだけにそこで司法立法行政に働く人達の解決能力を試し、育んできた伝統がある。

「多様性がマイナスなのではなく、強みなのだ。」と言う新知事が、「ニューヨーク州は全米の小宇宙(マイクロコズム)である」と言っているのも、この事情を意味している。ニューヨーク州知事から大統領になった例としては、世界恐慌下に州知事として実績をあげたフランクリン・ルーズベルトが代表的だ。また地方自治を伝統とする国だけに州単位で決められることも多い。例えばマリオ・クオモ知事は全米で最初にシートベルトの義務付けを行った。知事から大統領という道が多いのも、国の最高指導者としての行政能力は、知事の方が、閣僚や議員の候補の場合よりも測りやすいからだろう。

アンドリュー・クオモ知事は、7年前に別れた妻の父である故ロバート・ケネディ司法長官の思想を引き継いでいるように感じる。政治哲学者のマイケル・サンデル教授は、暗殺の3か月前にカンザス大学においてロバート・ケネディが行った演説を紹介している。内容は、貧困、ベトナム戦争、人種差別といった問題の解決には、強い意志を持ち、解決能力を磨いていくシステムを持った皆が誇れる国にしていく必要があるというビジョンの主張である。クオモにはこれに通ずるところが見られる。

うさぎ年の新年を迎えた日本。リスクと可能性の両面から世界各国の情勢と知恵を参考にするならば、新興国の研究に加えて、やはり先進国、特にアメリカの動きにも敏感でありたい。そして行動派のクオモ知事とブルームバーグ市長の率いるニューヨーク方面をしっかりとレーダースクリーンに捉えておきたい。

 

小田切英治郎 プロフィール

昭和30年5月、北九州生まれ。牡牛座、A型。横浜と横須賀育ち、県立横須賀高校から一橋大学で国際法を学ぶ。米国駐在を含めた金融機関勤務、中堅企業やベンチャー経験の後、文化や経営、社会や歴史を中心とする翻訳や執筆に従事。米国のビジネス論文、大手企業の週刊文化発信、米国の社会改革の論文等の和訳等に従事。ラッセル、ドラッカー、ガルブレイスに目を通し、中島みゆきに耳を傾けると、城達也の声や、淀川長治の顔が浮かんできた。21世紀の地球は、地上の星が満天の星と対等に挨拶できるような星になってほしい。三権+メディア+金融の五権の分立を基本として、ペンは剣よりも金塊よりも歯切れよく、人は大海に向かって船出し、笑顔で戻ってくるのだ。

 

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