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2011年2月  「グローバル社会の胎動」

by staff on 2011/2/10, 木曜日

 アジアカップで日本代表チームを優勝に導いたイタリア人のザッケローニ監督は、母国イタリア紙レプブリカのインタビューで、次のように語った。「アジアのサッカー界は広大だ。はるか遠くの国と対戦し、遭遇しなかったのはUFOぐらいだ。・・・日本の選手は、荷物を自分で運び、試合後の後片付けまでする。今までみたことがない。」信頼されるリーダーの下、効果的な準備をし、メンバーが闘志と協調性のバランスを持ち、控えも含めて目標に一丸となった良きチームに勝利の女神が微笑んでくれた。93年のドーハの悲劇を乗り越えて数々のサッカー先進国の指導者たちから学び、地道に築いてきた道のりがある。決勝点のボレーショットを放ったラッキーボーイが韓国籍から日本国籍を取得して出場がかなった李選手だったというのも印象的だ。

 政治経済・科学技術の世界でも、資源確保や鉄道・港湾・発電所など大規模インフラ事業の受注などで、世界の大企業による合従連衡対抗戦が激しさを増している。お隣の韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は、「韓国は国土は狭いが、45カ国とFTA(自由貿易協定)を締結し〈経済領土〉は世界一である」と発表した。韓国大統領は、世界を相手に戦うビジネスマン政治家の本領発揮といった風情である。外国の資本や日本の部品・工作機械、高めの外部負債率に格差問題などもあり、リスクを取る戦略であるが、強気の風を武器に、Koreaという国家名と主要工業品等をブランド化せんとする世界戦略企画の国へと変貌しつつあるようにみえる。強い面に光が当たりがちではあるが、国民としての自信が全体にみなぎっているのは確かだ。英語やITも積極的に取り入れた競争社会は、日米男女ゴルフツアーなど、個人の努力がわかりやすいスポーツの場でも勝負強さで存在感は抜群だ。米・中・日・アジアから欧州やアフリカや中南米まで、世界中に売り込む姿も往時の日本商社のモーレツ度を連想させる。そして米国では現代重工の高級車がお目見えだ。

 中国やインドの市場でも、欧米や日本企業に伍して韓国や台湾の企業が、液晶やパソコン、携帯などの工場建設など、大きく台頭してきている。台湾の馬政権は、その名の通りすばやく中国との間でFTAに相当するECFA(経済協力枠組み協定)を締結し、今年の元旦から825品目の関税を引き下げた。日本も、韓国の後を追うように、インドとの間でEPA(経済連携協定)というFTAより一歩踏み込んだ条約締結の合意を昨年秋に完了した。インドでは、スズキやホンダだけでなく三菱や日立の発電所設備など工業や社会のインフラを環境に配慮しながら進める国家事業に日本の大手が関わって世界の強豪と競り合っている。日本の大手企業は設備投資、賃金や配当も抑えてきた上に、円高効果もあり、有利な状況を利用して今年あたりから海外への投資や買収が積極化する可能性が高い。しかし問題は、中小企業を中心とした国内での開発や投資と、経済活動の3分の2を占める個人消費が持続的、安定的回復軌道に戻ることである。そこには、経済面で相互依存する世界の大国がお互いを利用しようと積極果敢に出て行っている新たな潮流と比較して、活気の原因たる「アニマルスピリット」が日本社会に不足している現状が見えてくる。

 「アニマルスピリット」とは、ミスター野球の動物的勘や、小栗旬が演じた獣医ドリトル(鳥取)の技でもない。ラテン語の “spiritas animalis” (生命力みなぎる精神)という言葉から、英国の経済学者ケインズが発した経済学の言葉だが、最近は、経済論調でプラス面に使われることが多い。たとえば、インド出身のIMFのアジア太平洋局長であるアヌープ・シン氏は、日本の経済成長の論考の中で「アニマルスピリット(人間が本来的に持っている行動への衝動)の復活が不可欠である」と述べている。政府は消費と投資を刺激するため、国家財政不安要因を取り除くのも、中長期的成長戦略になるとの指摘もある。米国のノーベル賞学者のアカロフ博士も共著で「アニマルスピリット」という題の本を著し、副題は「人間の心理がマクロ経済を動かす」とある。合理的な人間行動からは説明しきれない好不況の大波の理由がここにある。問題は、日本全体の論調が、ペシミズム、負け癖、弱気の虫、言い逃れ体質から決別して、名誉や誇りのためにしっかりと世界の強豪と戦う意思表示をすることだ。「持っている」という呪術的言葉がはやっているが、そうではなくて健全なる肉体と精神を「持てる者」が行動してはじめて、自己鍛練や長期的世界戦略に根ざした投資や技術の開発がはじまる。サッカー選手達の真摯な取り組みは金銭ではなく名誉を重んじる日本文化の基本的価値観に訴えた面で功績大である。人それぞれの立場で、要は「いざ鎌倉」ができるように日々を過ごすことが大切だ。思慮を重ねた、悩んだ末の勇気ある行動にひとは動かされる。そこにはプラス方向のアニマルスピリットが充満する。

 国際航空運賃も極限まで安価なサービスを提供するLCCが台頭し、人材も国家の枠組みを離れて己の技術を最大限に生かせる場所を選んで仕事をする時代に突入している。昔だったら決死の覚悟でリスクを取って移民せざるを得なかったケースも、今は、長期出張でできる時代に突入している。ITと英語が世界共通のビジネス道具として作用し、ヒト、モノ、カネの移動に、大きな障壁も余分なコストもかからない国際的協働社会が形成されようとしている。

 情報革命は、1人1人の人間が、瓦版や号外をいつでも出せるようにした。 現在、北アフリカかのチュニジアから発した「ツイッタ―・フェイスブック革命」はイエメン、ヨルダンからエジプトへと、広がっている。中国では「金盾」という数万人規模のネット検閲部隊が、格差や少数民族、個人の自由と腐敗などの問題への庶民の不満が本格的な運動へと広がるのを抑えているようだ。個人でも組織でも、問題に対処するには、その根源に対して効果的な解決策をとっていく必要がある。情報革命後の現在の世界では、市民が情報の飛び道具を持つようになったという現実を、社会の公器を預かる立場にいる人間はよく認識して動く必要がある。「グローバル情報資本主義社会」の中で、旧来の制度の無力が露呈されていくスピードは速く、衆知を集めた建設的な動きに集中することの価値と意味を分かち合う社会思想を、地球市民として、持つべき時がきているように感じる。1923年にロシアの圧力と勃興するアメリカの脅威を現実のものと感じ、争いをしないヨーロッパを提唱し、今日のEUのもとになった論文「パン・ヨーロッパ」を著した、オーストリア・ハンガリーの貴族外交官と日本女性の次男、リヒャルト・クーデンホ―フ・カレルギーや、ユダヤ人を救った人道主義の外交官、杉原知畝が想起される。諸外国では、製品やサービスだけではなく、知恵や行動面でも日本人の資質に期待する人は多いのだ。

 市民の団結した力の平和的勝利は、ダビデがゴリアテを破ったり、小兵力士が大男を破るのに似ている。インドの独立運動やポーランドのワレサの連帯運動のような賢く粘り強い改革こそが求められている。世界中で良い意味で「アニマルスピリット」が刺激され、大きな流れを形成するバランスのとれた改革と成長がはじまることを期待したい。日本でも、寒い中、野球選手たちは沖縄へ行ってトレーニングを始めている。横浜ベイスターズも瀬戸際に立って、ようやく眠れる獅子が目を覚まし暴れそうな気配だ。寒い冬には、さくらの芽が十分に鍛えられ、気温の上昇と共に満開は早い。日本列島が元気に走り出す日もそう遠くはなさそうだ。

 

小田切英治郎 プロフィール

昭和30年5月、北九州生まれ。牡牛座、A型。横浜と横須賀育ち、県立横須賀高校から一橋大学で国際法を学ぶ。米国駐在を含めた金融機関勤務、中堅企業やベンチャー経験の後、文化や経営、社会や歴史を中心とする翻訳や執筆に従事。米国のビジネス論文、大手企業の週刊文化発信、米国の社会改革の論文等の和訳等に従事。ラッセル、ドラッカー、ガルブレイスに目を通し、中島みゆきに耳を傾けると、城達也の声や、淀川長治の顔が浮かんできた。21世紀の地球は、地上の星が満天の星と対等に挨拶できるような星になってほしい。三権+メディア+金融の五権の分立を基本として、ペンは剣よりも金塊よりも歯切れよく、人は大海に向かって船出し、笑顔で戻ってくるのだ。

 

Who


ザッケローニ監督
 
李明博(イ・ミョンバク)大統領
 
アヌープ・シン氏
   
ジョージ・アカロフ博士   リヒャルト・クーデンホ―フ・カレルギー氏   杉原知畝氏

 

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