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「今、こころを育むとは」(本当の豊かさを求めて) 山折哲雄 著 小学館101新書

by staff on 2011/5/10, 火曜日
「今、こころを育むとは」(本当の豊かさを求めて)小学館101新書 山折哲雄  

 ふと立ち止まって見た時に、寂寥とするものを感じないだろうか。そして今こそ立ち上がらないといけないという思いがしてきます。3・11の余震が続くなかで、もっともっと日本人としての誇りをもつ機会がないといけないのではないかとも。そのような時だからこそ、山折さんの言葉に耳を傾けたくなります。

 「いま、言葉があまりにも氾濫しています。言葉、言葉、言葉・・が溢れているだけで、それぞれの言葉は非常に軽くなってしまっている。言葉の奥底に深い沈黙の世界が横たわっていることを、つい忘れがちになっている。」若い世代の奥底に語りかける努力がたりなかったのではないか、こころの奥底を聞いているかと山折さんは反省しながら話し始めます。

 いじめを抜きにして心について語れないとしています。「子どもが深い言葉を発し始めたときに、その言葉を必死になって聞く。聞いて、聞いて、聞きつづける。子どもに方向性を与えるような言葉はむしろこらえる。

言葉を発したいのを我慢する。そして最後まで聞くことに徹する。深い沈黙、静かな沈黙、そういう沈黙の時間を共有できるまで聞く、聞きつづける。」

 つぎには古典教育を勧めています。「和歌のリズムは呼吸のリズムであり、古典には、道徳や宗教の問題をはじめ、いろいろな問題を根本的に考えたり解釈したりすることのできる、文学や哲学が含まれているからです。万葉集には相聞歌という愛の歌と、挽歌という死者を悼む歌がある。源氏物語にはもののあわれや美意識の世界とどろどろしたもののけの世界、古事記や日本書記にはこころの問題がすでにでてくる。世阿弥の初心であり、夏目漱石の則天去私、小林秀雄の無私などもこころの追求であります。」

 山折さんは「殺すなといえるのか」とも問いかけます。「生き物を殺さずには一日も生き得ないという生活の現実がある。そのために、殺すなとは人にも自分にもとてもいえない。そういう偽善的な生き方を自分に課すことはできないという、ある意味では良心的な生き方を始めるようになりました。その途端に、もう声高に殺すなとは言えなくなった。近代の良心が、偽善的な生き方を赦さなくなった。そのかわりに命を大切にしようという言葉を発見した。」そして次のようにいいます。「殺すなという言葉を信用できるとしたら、それはただ一つ、人間を超えたものの前で首を垂れて言うときです。」「もう私たちには、そういう人間を超えたものの力を感ずる能力がどんどん衰弱し希薄になってきています」こころを育むということはそれをどうするかという事柄ですと指摘されます。

 日本人の笑顔と無常観ということで良寛さんを語ります。子どもとあれだけ長時間遊べる大人がどれだけいるだろうかと話を始めます。「親の愛に恵まれることのないような子どもたちを集めて、いやそういう子どもたちが自然に集まってきて、一緒になって、手鞠をついて歌をうたっている。そして、そのうち、子どもたちの表情がだんだん穏やかになっていったんではないだろうか。」  「しばらくして、日暮れ近くなったとき、良寛は、さあ日が沈むぞと子どもたち全員を引き連れて海岸に出て、夕陽を眺めたのではないだろうか。」「子どもたちの親に対面させるために」「良寛的人間像こそが、家庭と地域を結びつけ、家庭と学校を結びつけ、家庭と地域と学校の連携を可能にする、重要な人物ではないかとおもっている。」長い人生をどのように生きるかといったときに、人生80年時代を生き抜くための人生モデルになると語ります。

 戦いに敗れてアメリカから伝えられた、民主主義という考え方はすばらしい思想であり、その恩恵によってどれだけ豊かな果実を手にすることができたかしれない。しかしその中から生み出された、横並び平等主義には問題があるといわざるを得ないという。どんなことか。「学校では、先生と生徒の関係が仲間・友達関係になってしまった。」「われわれ人間に向かっていろんなメッセージを垂直に発するものを、どんどん削りとってきたわけです。そのために、人間の敵意とか嫉妬とか殺意を吸収する装置がどんどん失われていった。」

 ひとりになることを通して自立し社会的な人間になるのだという。
 良寛さんのお話にはかならず景色が感じられます。大自然の脅威を今回ほど身近に感じていることはありません。こころを育むうえでは自然と触れあう機会が、もっともっと必要なのかもしれません。

(文:横須賀 健治)

<参考>

 

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