Skip to content

ソーシャルメディアの正体(第五回)

by staff on 2011/12/10, 土曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.ソーシャルメディアの光と影

 前回まで、どちらかと言えば、ソーシャルメディアの良さを活かす「傾聴」や「対話」戦略を述べてきた。ここでは、良さ、つまり光の部分ではなく、影、すなわち悪い点について、リスク管理とソーシャルメディア・マーケティングの2つの面で考えてみよう。

 こういった論議は二元論に陥りやすい。特に気をつけないといけないのは、現実は善悪、良否といった両極端で考えてはいけないことだ。例えば、クルマを例にとると、ネガティブ思考では、クルマは「動く殺人道具」であり、交通事故を起こすものである。しかし、ポジティブ思考で考えると、同じクルマが「有効な移動手段」となる。だからと言って、クルマ自体の善悪を説いても致し方ない。要は、運転者(利用者)の利用目的でもって、クルマが手段として適正かどうか判断するしかない。ITで、ソーシャルメディアを語るときも同じで、良くも悪くも活用できるという点で利用者側の問題であって、ソーシャルメディア自身に善悪を説いても意味がないことは読者もお分かりだろう。

 ここで注目するリスク管理とソーシャルメディア・マーケティングも利用する立場によって光にも影にも見えることを忘れてはいけない。

2.ソーシャルメディアのリスク管理

 リスクは、情報を発信する側、受け取る側の双方にあると考える必要がある。一般的には、情報を発信する側のリスクがクローズアップされるが、受け取り側も情報が悪意のものであればリスクも高くなる。

 さらに、ソーシャルメディアは前回までも説いてきたように、ヒトとヒトのコミュニケーションツールである。そこに、企業が入るわけだから、違和感以上に多くのリスクを伴う。ここでは、ソーシャルメディアによるコミュニティーに情報を発信する場合のリスクを先ず考えてみよう。

【発信情報のリスク】

 さて、発信情報のリスクは何だろう。メーカーやサービス業であれば製品やサービス情報となるが、前回のメディアの種類でいえば、購入メディアや自社メディアでは発信情報に多くのチェックや検査が行われるに違いない。倫理的や道徳的、社会的、さらに文化的に問題がないかは基本的な基準であろう。さて、ソーシャルメディアの場合はどうだろう。ツイッターやフェイスブック、mixiなどのメッセージは、「堅い」文章でもなく、カジュアルな雰囲気で行われることから、違和感を減らすためにも発信内容はこれまでのメディアとは違って、口調も柔らかいものとなるだろう。問題はここでの基本的な基準に対するチェックである。発信だけでなく、受け答えや対話が始まれば、これらのチェックはどうであろうか?

 もう1つ見逃せないのが発信情報として、ソーシャルメディアへ実際に投稿を行う担当の情報が挙げられる。テレビやラジオのアナウンサーやパーソナリティのように、人気がある担当者には、発信情報の内容に関わらずファンが生まれることがある。ポジティブには、ファンは企業にとって歓迎すべきことであるが、担当者のプライバシーにも考慮しなければならない。

【受信情報のリスク】

 コミュニティーから受け取った情報もリスクをもっている。コミュニティーというオープンで公共の場からの情報であるから。受け取る分には問題はなさそうだ。しかし、企業関係者がコミュニティーに参加しているという事実は、そこでの会話を理解、蓄積あるいは暗黙の受諾をしていると解釈されるリスクがある。もっと言えば、コミュニティーの参加者の情報はすべて把握していると思われている。

 参加者の投稿メッセージや回答も、企業参加者を意識したものであれば、リスクがある。つまり、参加者は、コミュニティーで発言の有無に関わらず(つまり、黙っていても)、企業参加者に意見を見られ、利用され、最悪は悪用もされかねないと思われているかもしれない。個人情報保護法と相まって、企業参加者には受信情報の秘匿性の確保はもちろんであるが、コミュニティーに関連する情報も個人の特定が可能な状況ではリスクがある。

【受発信のリスク】

 最初は緊張の溢れる会話で始まるが、コミュニティーからの反響で「慣れ」となった時のリスクである。いわゆる、炎上の火種がある可能がないか、現状から参加の継続できるかといった点検である。多くの企業参加者は目立つ。衆人環視の中で、ソーシャルメディアを通じて情報のやり取りができているかが重要なポイントである。

3.ソーシャルメディア・マーケティング

 傾聴や会話でのリスクとは裏腹に、企業として自社の顧客あるいは顧客候補の意見やプロフィールは最も手に入れたい情報である。企業がソーシャルメディアを活用したい理由も主に、この生の顧客の情報によるマーケティングが可能だからだ。自社の商品やサービスに対して、その反響や欲しい人の声が手軽に手に入るということはこれまでになかった。ソーシャルメディアはそれを実現し、正に「魔法のマーケティング」に見える。どの企業も、2.で述べたリスクを見て見ぬふりして参入しているのではないだろうか。光をみて影を見ずに戦略は立てられない。マーケティングも同じである。

 確かに顧客情報を手に入れることはたやすいかもしれないが、それは参加者の自社に対する信用や信頼に裏付けがあるからである。つまり、社会(ソーシャル)で認められる企業であることは、参加者と同様、人格を持ったものでなければ、マーケティング活動を行うことができない。

 ソーシャルメディア・マーケティングの難しさは、他のマーケティング以上に顧客からの信頼の上に成り立っていることを知っておこう。

 では、ここでソーシャルメディアの1つであるツイッターを例にあげて「顧客サポート」を行うことを考えてみよう。企業が人格者であるからには、

挨拶は必須

個人情報の取得はツイッター上で行わない

入口はツイッターだが、その後は、サポートの内容にあった方法で行う

サポートの回答前に、これまでの対応の履歴を確認する

といった「気配り」が必要となる。すでにお気付きだと思うが、このような運用ルールが、2.で述べたリスク管理の基本となる。担当のみならず、経営、現場でこのルールを徹底していなければならない。自社内は多くの部門があっても顧客にとっては「一枚岩」に見えるのが自社であるという自覚を忘れてはならないのである。

次回の予告:
次回の予告:次回は、「ソーシャルメディアを科学する」と題して「ソーシャルメディア・マーケティングのデータ分析など」を解説する。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

Comments are closed.

ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
(動画をみる)

横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
(動画をみる)

Page Top