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ソーシャルメディアの正体(第六回)

by staff on 2012/1/10, 火曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.ソーシャルメディアを科学する

 企業の論理としては、ソーシャルメディアで起こっていることが何であるのか、どうなろうとしているのかを知りたいところである。これまで述べたように、生活者の行動やプロフィール、嗜好、慣習などが直接ビジネスに関係する大きな要因であれば、なおさらである。

 そこで、実際にインターネットで流れている情報量はどの位なのかを検証してみよう。

 総務省の今年7月13日に公表された『情報流通インデックス研究会』報告書によると、以下のようなデータとなっている:

 先ず、数値の定義をみると、流れている情報量、すなわち、

流通情報量=受信された情報量×単位情報量(ビット)・・・(1)

ただし、受信された情報量は、通信時間、視聴時間、販売部数等から算出、単位情報量については、アナログ情報は同品質のデジタルデータとして換算し、印刷物はテキストデータではなくすべてグラフィックデータと見なして換算する。
また、情報が利用される量、すなわち、

消費情報量=利用時間×消費単位情報量(認知情報量:ビット)・・・(2)

       =流通情報量×消費率(平均利用認知率)・・・(3)

としている。ただし、認知科学分野での研究を参考に、受け取った情報のうち、人間が実際に認知した情報量を計量する。また、Card等の情報認知モデルをもとに、認知レベルでの時間当たり消費単位情報量を以下のように設定している。要は、大人が読んだり、見たり、聴いたりして意味がわかる情報量を示すと、

視覚情報の消費単位情報量=223(ビット/秒)

聴覚情報の消費単位情報量=105(ビット/秒)

としている。

 このような仮説で試算した結果をみてみると、平成19年度の流通情報量(1)は5.99×1021 ビット(約6ゼタビット)、消費情報量(2)、(3)は2.96×1015 ビット(約300ペタビット)と推計できた。このような結果から、同報告書では、次のような傾向を報告している。

  • 近年、特に流通情報量の伸びが大きくなっている。
  • 流通情報量の98.5%、消費情報量の77.4%を放送メディアが占めている。
  • メディアグループ別の推移を比較すると、流通情報量ではインターネットの伸びが突出して大きい。
  • 消費情報量でもインターネットの伸びは大きいが、流通情報量ほどではない。
  • インターネット以外のメディアの消費情報量は、横ばいか漸減傾向にある。

 ここで、ビジネスプランの概算で、よく使うフェルミ推定で考えると、流通情報量は6の後に21個ゼロが並ぶだけの量、消費情報量は、3の後に15個ゼロが並ぶ量、つまり、流通情報量は、消費情報量の10万倍流れていると予測されており、その量も、年を経るごとに総量が増えているというのだ。さらに、そのほとんどがマスコミの名の通り、放送メディアが情報の流通と告知を行っており、インターネットだけが、他のメディアを抑えて急成長している。

 さて、数値を追うのはこれくらいにして、インターネットの利用が大きいといっても、やはり放送メディアには広告の費用対効果が大きい。ソーシャルメディアといっても総量が、あまりにも違うことを覚えておこう。

2.流通情報の分析とマーケティング

 では、この大量の情報をどう扱い、分析し、求める顧客情報として利用できるかという話が当然でてくる。すでにIT企業の多くが、口コミ分析あるいは、ソーシャルメディア分析、ビッグデータ分析なる名前で取り組み始めている。

 多くの手法は、ツイッターやフェイスブックなどのAPI(アプリケーションインターフェイス;公開されたシステムの外部から情報のやり取りを行う仕組み)を使って適当なデータを保存することから始める。蓄積量は、調査会社によって異なる。調査依頼者の要望に応じて、データを抽出、統計データを取って、テキストマイニング(意味抽出など)技術を駆使し、その傾向を図示あるいは生データを提供する。つまり、ソーシャルメディアは流通情報といえども、システム側の情報提供に依存しているわけで、ツイッターやフェイスブックのAPIの仕様が変わったり、削除・修正されたりすると、希望するデータが採取できない可能性も出てくる。

 さらに厄介のことに、効果を見る指標が情報量として測定できないと意味がない。著者も鳥取大学 石井晃教授と共同でソーシャルメディアの数理モデルを研究しているが、ブログやツイッターの効果を見るにも、数値として入手できる映画の興行収入や広告費、テレビの視聴数といったマスメディアの流通情報を必要とする。一般的にこのような情報は研究用途以外では高価で、分析する対象商品の広告費に対して結構な負担となる。

 流通情報に注目するのではなく、消費者の受信によって消費される場合、口コミのように再度消費者から発信される流れに注目するアプローチもある。つまり、同じ情報でも口コミの範囲、口コミを受け取り、再び発信する消費者と消費者のつながり方などによって、拡散したり、消滅したりすることが知られている。つながりの数を次数、消費者一人一人をノードとみたネットワーク構造に焦点を当て、情報の広がりを研究する分野もある。複雑ネットワークと呼ばれる分野で、今経済学と物理学の学際的な研究として「経済物理」として取り扱われている。株価や為替の取引、ブログやツイッター、SNSの情報の広がりを説明するモデルも数多く提案され、今世紀に入ってからインターネットの普及により、統計情報との比較が簡単になって検証も進みつつある。

 マーケティングとしては、傾聴戦略も重要だが、定量化も重要なデータである。従って、調査会社に口コミ分析サービスを依頼することになるが、傾向は読めても、予測や予想には向かない。むしろ、依頼した側が分析をする必要がある。

【仮説と検証】

 多くのマーケティング戦略では仮説を立て、企画を推進する。仮説の多くは、顧客へのアプローチでの反応であり、B2C(対一般消費者の事業)だけでなく、B2B(対企業向けの事業)などにも利用される。アプローチによって購買行動に移り、購買し、その価値に対してフィードバックするといった一連の流れに対して仮説を立て、検証することになる。もし、その仮説が検証されれば、以後、そのアプローチを続けることによって、売上を向上されることができる。一方、検証できなければ、その要因の分析と対策を打たねばならない。

 ソーシャルメディアでの商品にまつわる分析を行うことを考えてみよう。

 例えば、高級チョコレートをネットで販売することを考えてみる。一般的に消費者は、女性や子供であろうが、あえて、男性に販売する場合の仮説と検証を考えてみよう。

 時期的に、聖バレンタインデーといった特殊な時期ではなく、通常の販売を考える。

 先ず、仮説として、男性がチョコレートを食べることから考えてはいけない。男性がこの高級チョコレートを「買う」ことを考えるのである。つまり、男性が、女性あるいは家族、あるいは職場や取引先等のために購入する「贈答用」と自分で購入して食べる「自家用」とに分けられる。そこで、仮説として、贈答用を増やすためには、他の贈答品よりも購入する確率を上げる必要があろう。自家用は、自宅よりも職場なども含まれるかもしれない。このように考えると、この高級チョコレートに関するソーシャルメディアでのうわさやメッセージが気になるだろう。チョコレートの贈答用としての競合は何であり、自家用は男性では少ないのか否か?

 このような情報を得たいなら、ターゲットとなる消費者(男性)にアプローチする必要がある。例えば、高級チョコレートのキャンペーンであり、試食会、デモといったアプローチで男性に無理なく近付き、その反響や反応を観察できる「しかけ」が必要だ。

 「しかけ」とそれを観察できるツールを準備し、例えば、キャンペーンでのアンケートやツイート、フェイスブックのメッセージでの反応などを分析して、購買行動の仮説を検証するのである。

3.AISASからAIDEESへ

 これまでマーケティングの入門書では、ネット販売で有効とされた理論にAISAS理論が紹介されている。消費行動をプロセスととらえ、

  • Attention」(注意が喚起され)
  • Interest」(興味をもち)
  • Search」(検索し)
  • Action」(購入して)
  • Share」(情報を共有する)

とした一連の段階を踏むというのだ。しかし、この理論はさらにソーシャルメディアの普及に伴って、進化し始めている。つまり、プロセスも単線的ではなく、ブログなどで爆発的に拡がるようなAIDEES理論が着目されている。

  • Attention」(注意が喚起され)
  • Interest」(興味をもち)
  • Desire」(欲しくなり)
  • Experience」(購買あるいは無料体験し)
  • Enthusiasm」(心酔し)
  • Share」(成功体験を共有する)
  • Attention」(新しい消費者に認知され)

 このAIDEES理論のポイントは、体験による共有を口コミの原動力している点である。ソーシャルメディアのマーケティングでの注意点はまさに、記事や投稿で消費者の体験が語られているかというところで、その善悪も容赦なく共有される可能性も示している。利用体験に対するアプローチを用意する場合、共有される情報が、自社の意図したものでない結果になることも念頭に置かねばならないのである。

 公になっている事例があまりないが、ネット大手もソーシャルメディアの取り扱いが戦略的になってきていることから下表にその一部を載せたので参考にして頂きたい。

表 ネット大手のソーシャルメディアの取り組み(一部)

企業名 サイトの性格 ソーシャルメディアに対する戦略
楽天 電子商取引 ファイスブックなどと連携。SNSで知人と対話しながらお買い物を楽しんでいただく。(顧客層へのアプローチを増やす)
ヤフー ポータルサイト ツイッターと連携。ツイートのリアルタイム検索を機能を提供。(広告出現率を上げる)
エキサイト ポータルサイト 音楽情報の共有サプリを提供。音楽を軸に交流機能を順次整備。(広告の出現率を上げる)
ニフティ プロバイダー SNSを利用した企業の販促支援会社コムニコを買収。(販促支援で事業を拡大)
ソネットエンタテイメント プロバイダー SNSゲーム「aima」を運営するACCESSPORTと連携。ユーザはソネットIDでaimaのゲーム20タイトルを無料で楽しめる。(SNSゲームへの事業拡大)
オウケイウェイブ 質問回答サイト Q&Aサイト「おけったー」で商品の内容などについて企業が質問を投げると、ツイッターなどでSNS利用者から回答が届く(B2B2Cへの展開)
カカクコム 価格比較サイト 気になったニュースやブログにコメントをつけて投稿する「juke」を開始。(情報内容の充実)

 次回は、「しかけ」について詳しく見ていこう。

次回の予告:
次回は、「ソーシャルメディアでモノ・コト創り」と題して「ソーシャルメディア・マーケティングで集客・イベント開催」を解説する。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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