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ソーシャルメディアの正体(第八回、最終回)

by staff on 2012/3/10, 土曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.ソーシャルメディアと他のメディア

 第二回で紹介した他のメディアを眺めてみると、情報発信としての手段が多様であることが分かる。企業としては効果的で合理的な手段を選ぶのが妥当と言うところであろう。ただ、今回取り上げるのはブランド作りで、ただ闇雲に広告宣伝をすればよいといったことではない。

 前回述べたように、モノやコトを行う手前の、商品やサービスのブランド作りが重要である。しかも、これまでのように、企業の商品企画部門だけが行う業務といった閉鎖的な活動ではなくなってきている。それは、生活者がソーシャルメディアを手に入れたことから、企業にとって需要(ニーズ)の把握が簡単に出来ることになった半面、逆に企業の活動が生活者の目線で賛同できるものでなければ、企業への批判はもとより、他社商品への乗り換え、購入のボイコット、極論でいえば、信頼の失墜まで引き起こす可能性が増えたことになる。

 ペイド(有償)メディアであるマスメディア、企業のオウンド(自己所有)メディアとは異なって、生活者のメディアとしてソーシャルメディアを位置づけると、使う側や買う側の意思を、マスメディアやオウンドメディアと同等の伝搬力を得たともいえる。第5回で「ソーシャルメディアの光と影」で紹介したのは企業からの目線であったが、生活者と企業とは、インターネットを通じて対等のメディアを手に入れた状態と理解しておこう。

2.ソーシャルメディアを使ったブランド作り

 さて、インターネットを挟んで対等に会話や情報交換ができる生活者と企業。この状態で、企業の商品の価値を高めて「ブランド」として確立するのは、一見簡単そうであるが、それほど単純ではない。

 ソーシャルメディアの強みは、口コミである。さらに言えば参加者のボランティアで成り立っている信頼関係の輪に根ざしている。友人の推進が、企業の営業マンよりも商品の購買に影響を与えていることも多くのマーケティング分析で分かっている。友人という信頼関係を損なわずに、商品を担ぐ企業とどうやって信頼関係を創り、ひいては他の商品よりも自社商品を買ってくれるブランドになるのか、これが「ソーシャルメディアを使ったブランド作り」の課題である。

 前回のモノとコト創りを思い出してみると、良心計画の例もローソンの例も、インターネットであれ、店舗であれ、生活者を参加させることで、信頼関係を慎重に創っていき、ブランド化に成功している。決して性急ではなく、何度も生活者の声を傾聴しながら進めていく根気が必要な作業である。つまり、「ソーシャルメディアを使ったブランド作り」には、信頼関係を創るために参加しやすい雰囲気やルール作りが必要ともいえる。こう言った雰囲気や暗黙のルールを生むには長時間の慎重な信頼関係が必要である。

 参加しやすい雰囲気は、投稿や傾聴のしやすいコンテンツ(コト、モノ)を準備する必要があり、暗黙のルールというのは、企業側のソーシャルメディア担当者が、自社の経営方針に従って、丁寧でしかも、タイミング良く、的確に回答することで、「荒れた」関係ではなく、フレンドリーな関係を維持するものである。

 ここまで来てお分かりだと思うが、情報発信それ自身は単純だが、ブランドを築くまでは、信頼関係をつくるための多くの努力が必要であることが分かる。

 再度、第四回の情報発信の際の注意点を振り返っていただき、ソーシャルメディアとの信頼関係の維持に自社は何をすべきかを検討することをお勧めしたい。

3.ソーシャルメディアに法人が参加することに、未だに違和感があるのは何故か

 統合戦略が、ソーシャルメディアでのブランド確立には必須である。理由は、統合戦略まで成功できれば、企業が傾聴から始まる努力を怠らず、信頼関係を生活者と結ぶことができるからである。

 しかし、未だ、企業アカウントでのソーシャルメディアの参加に違和感があるのはどうしてだろうか。

 この違和感の根源は、企業が血の通った人間でないことにあると、私は考えている。論理的ではあるが、感情の動物である人間に、企業が変わることはできない。ただ誤ってはいけないことは、ソーシャルメディアの参加者は、そんな人間臭い企業を欲していないことである。やはり、企業は生活者の奉仕者であって、価値を与えるものである。ソーシャルメディアでの企業の役割は、人間臭い会話を行うことが目的ではなく、参加者の意図や信頼をもって、自社が何か手を差し伸べる価値はないか、奉仕できるところはないかといった、謙虚なソリューション(解決手段)を提供することにあろう。やがて、このような多くの価値が提供できたところで、「ブランド」が生まれてくるのである。A社は期待を裏切らない商品・サービスを提供してくれるとなれば、すでにA社やその商品・サービスはブランドとなっている。

 ソーシャルメディアの正体を暴くべく、長期間にわたってマーケティング、ブランド、企業人格力といった活動に触れてきた。最後に、これまでのポイントを理解してもらって、生活者としては、より良き商品・サービスを提供してもらい、企業としては、生活者の声に耳を傾けるためにソーシャルメディアを活用して頂ければ幸いである。

【読者の皆様へ】

 ヨコハマNOWで昨年8月から連載してきた「ソーシャルメディアの正体」を長期間、お読み頂きありがとうございます。得体の知れなかったソーシャルメディアからその活用法や得失まで、少しはその正体を分かっていただれば、筆者としてうれしい限りです。

 なお、本連載にあたり、事務局の渡邊桃伯子さんら関係者の皆さまの助言やご支援に感謝する次第です。

 また、現在、別途連載を企画中ですので、またヨコハマNOWにご期待頂ければ幸いです。

松本 英博

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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