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書評 「脱原発で本当に良いのですか?」 ごま書房新社 金子和夫 著

by staff on 2012/5/10, 木曜日
 

 「中国のように経済成長が著しい国では、エネルギー需要の伸びをカバーするには原発が必要不可欠です。中国で原発事故が起きれば放射性物質は偏西風に乗って日本に飛来するわけですから、対岸の火事として傍観しているわけにはいかないのです。むしろ、そのような時のためにも、原子力の安全面での技術研究を進め、一刻も早く対応策を講じておくべきでしょう。」金子さんは安易に原発を再稼働しなさいとは決して言っておらない。「いまこそ日本人に必要な科学する心とは」と問いかけている。

 根源から問題を捉え直そうと語られる。「福島の原発事故が起きた直後、外資系のトップや在日大・公大使館の人々が、関西方面や国外に移動したという話が耳に入ってきました。放射能汚染で日本はもうダメだという風評も、国内外を駆け巡ったようです。政府やマスコミはパニックに

なるのを恐れて、報道を制御しようとします。国民はいまだに原発で何が起きたのか、今後どんな危険が起こり得るのか、詳細をしらされないままです。実は福島の原発では、2010年6月に外部電源喪失事故が起きていたことが判明しました。そして、あろうことか、これに対する何の対策も取らずにいたのです。」

 福島の原発事故は、明らかに人災ですといい、しかも誰に責任があったかも、いまになっては明白ですと。また新しい核燃料サイクルの提言としてトリウム溶融塩炉を考える会編の一文を掲載しています。原発か脱原発のどちらかと言うのではなく、むしろ二者択一の危うさを問いかけます。判断基準は「倫理観」だよと、論語の言葉から説きます。「君子は、どんなことでも好き嫌いで判断しない。かならず義という客観的基準にてらして判断するのだよ。孔子が言う、客観的基準とは道義(仁義)ということで、いわば倫理観です。日進月歩で進歩する科学技術は、放って置くと暴走する危険性もあります。それを正しくコントロールするのが、人間の倫理観なのです。現代の日本人に、これが欠けていることが、原発事故でいみじくも露わになったような気がしてなりません。」著者はドイツにおける原発の廃止にも触れている。10年の年月議論し、再生可能エネルギーを18%まで増やしている。日本はわずか1%。ドイツは脱原発を宣言しても、原子力の研究は続行すると表明していると報告している。

 著者は科学がどのように発展してきたのか振り返りつつ、ご自分と科学との関わりを論語を引用しながら綴っている。
 先生は言われた。「お前に知るということを教えよう。知ったことは知ったこととし、知らないことは知らないこことする。それが知ることだよ。」
 先生は言われた。「人として仁でなければ、たとえ礼があってもどうしようもない。人として仁でなければ、たとえ楽があってもどうしようもないよ。」
 先生は言われた。「あるいは、ものしりでもないのに創作する者もいるだろうが、私はそんなことはない。たくさん聞いて善いものを選んで従い、たくさん見て覚えておく。」

 金子さんはつぎのように科学する心の話をします。「科学技術には、その基礎となる理論があります。理論を確立するには、仮説(推論)を立て、それを実験によって検証(実証)しなければなりません。検証されてこそ、初めて理論が確立するのです。(中略)多くの場合、仮説がほぼ正しいという検証結果がでれば、それを良しとしまいがちですが、確実性がない限り、それから先へ進むべきではないのです。」その場合は潔く仮説を捨てることの選択することを信条としてきたと語ります。

 「いまの日本は、明治維新にも相当する非常時といっても過言ではありません。その時に求められる人材は能く見る人であり、見て行う人であり、結果を出す人です。その三者が一体となった姿こそが、孔子の言う君子になると思います。残念ながら、日本の為政者や指導者達にそれを求めるのは困難な気がしてならないのは、わたしだけでしょうか。」金子さんは、足るを知る生き方、コメ作りの重要性、自然との共生を日本のあるべき姿ととらえています。「うまく生きていくには恕だ。自分が望まないことを人に施さないことだよ」論語の言葉で表現します。他者においても、他国に対しても「恕」で臨むことです。勇気をもって、今一度恕すなわち思いやりの心ももって進んでいくことを提言されます。

(文:横須賀 健治)

 

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