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ビジネスの創造方程式で勝ち抜こう(第5回)

by staff on 2012/9/10, 月曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.事業ネタの熟考

 前回の「事業ネタ」を商品やサービスの具体的なイメージをもつ「事業テーマ」にどのように発展させていけばよいかを考えてみましょう。

 事業ネタと事業テーマの大きな違いは、顧客への価値を具体化させた商材(商品・サービス)の概要があるかという点です。前回の解説で説明図について触れましたが、具体化の第一歩は説明図の作成です。説明図は、客観的に周囲の関係者から意見や考え方を与えてくれ、見方を拡げることに役立ちます。さらに、事業ネタから事業テーマに進む際に、商品やサービスのイメージを固めるためにも役立ちます。

事業の「におい」とは、「儲かりそう」、「売れそう」といった発案ですね。事業ネタになると、具体的な商品やサービスイメージがある、図解できるといった発案です。

● ちょっと一言 ● 説明図で語る内容は

 多くに人が、事業ネタを元に説明図を描いてください、と示唆すると

  • 商品やサービスの外観、スケッチなど
  • 商品やサービスの利用シーンなど
  • 商品やサービスを中心としたビジネスモデルなど

といった絵が出てきます。どれも悪い例ではありません。提案する自分が描く上で最も気になっているものを描くというのが心理だからです。言い換えれば、説明図にかけないモノが、事業ネタから事業テーマに追求に重要で、どこまで具体化できるかがキーとなります。

 例えば、商品として、新商品のデジタルカメラを描いたしましょう。おそらく、カメラの外観や機能、想定価格などが説明図に出てくるでしょう。しかし、説明図に描けない、あるいは描く必要のないと思っている、

  • 利用シーン
  • 写真を取ったお客様が必要とするサービス
  • 販売までの流れ

などが挙げられます。

 利用シーンは、すでにデジタルカメラであれば既存の商品があるので、不要。カメラ本体を売るので、写真撮影後のサービスも検討外。既存の販売網を使うので、今更、新商品のデジタルカメラで説明をすることなし・・・・。

 いかがでしょうか。利用シーンや購入後のサービス、販売プロセスといった、一見当たり前と思っていることも、再考することが重要です。例えば、利用シーンの検討で、新商品の特徴を追及し、購入後のサービスで、実は本体の販売を行う事業よりも収益性が上がる場合もあります。パソコン用のプリンタなどは、本体価格よりも実は交換のインクカートリッジの方が高いといった商品もあるからです。販売プロセスも、既存の販売網を通じて販売する場合にも、商品の特徴をうまく伝えるために、別の商材との組み合わせや既存の商材との補完を考える必要もあります。つまり、現在の市場ですでに既存の商品が支持されているにも関わらず、新商品を出すことで、反って既存の商品の売れ筋をつぶしてしまう場合もあるからです。

 商品やサービスを説明するとなると、少なくとも、

  • 誰に
  • どんな価値(価格)で
  • 何時までに

といった最初のターゲットを設定する必要があります。もちろん、そのためには、

  • 誰に => 市場規模やターゲットのプロファイル(顧客の特徴、年齢、性別など)の調査。
  • どんな価値(価格)で =>競合や代替手段の価値や価格の調査。自社の提供可能性の検討が必要。
  • 何時までに => 自社の生産能力や販売経路などの裏付けが必要。

など詳細に予備調査や検討が必要になってきます。

 

2.事業ネタから事業テーマへ

 実現性、市場性、提供価値といった様々な要因で、事業ネタから事業テーマでもすべてがそのまま採用することはないでしょう。ここでも多産多死が待ち受けています。

 だからと言って、事業テーマの評価を甘く見ても、実際の事業にはなりえません。やはり事業ネタのレベルを上げ、前回、解説したビジョンに沿った内容に磨き上げるしかないのです。

 確かに、技術やソリューションが未熟で商品やサービスが「絵にかいた餅」であれば現状では、事業化には、ほど遠いと感じるでしょう。ただ、「絵に描いた餅」のままで終わらせずに、何が現状足らないのか、もし、適切な技術やソリューションがあれば、実現できるのかといった、「不採用」の決着をつけることを怠ってはいけません。

 読者もお分かりにように、技術は秒進月歩といったスピードで発展しています。従って、現在では不可能かもしれないが、将来にわたって不可能とは限らないと思うべきです。

 となると、不採用となった事業ネタも忘却の彼方に捨て去るのは有益ではないですね。「ネタ帳」として記録すべきものと思います。

 さて、事業ネタを展開して予備調査を行い、事業テーマに見事昇格したとしましょう。そこで考えるべきは、事業テーマの展開の仕方となります。

 

3.事業テーマから更に商品ラインナップを考える

 商品やサービスが具体化しても「一過性」のモノでは事業にはなりません。一過性というのは、一定のの販売やサービスの提供で終始してしまい、その後の継続的な販売につながらないことです。事業の重要なファクタとして「継続性」という、極めて強い条件があるのです。つまり、事業テーマには、投資家の視点でいう、「売れるか」(市場性)、「できるか」(実現性)、「儲かるか」(成長性)の「儲かるか」が重要なのです。継続的に成長して、「やればやるほど儲かる」ものでなければなりません。

 もちろん、そのためには、商品やサービスも単一であることはありえません。商品やサービスも発展して、顧客のニーズに合うモノとならねば、継続的な成長もできないものとなります。

 そこで、最初の商材の投入から、2年、3年と経過したときに、どんな商品のラインナップで価値を提供し続けるかを予め計画しておく必要があります。

● ちょっと一言 ● 全体解と部分解

 事業テーマを実現するときに、技術やソリューションが未熟で、それが枷となって先に進まないことはよくあることです。技術やソリューションは、確かに秒進月歩かもしれませんが、自分が注目している事業分野に必ずしも革新的な進歩が出てくるとは限りません。あるいは自分自身で、技術革新を起こし、進歩を進めることも極めて時間がかかることです。となると、技術力が不足し、ソリューションが不完全の中でも、顧客に満足してもらえる手段を講じなければなりません。

 こう言った場合2つの姿勢が考えられます。

(1)全体解
 対象としている課題を解決するために真っ向から技術やソリューションで解決しようとする姿勢です。常套手段ですが、競合他社も同様に課題解決の糸口を見出そうと凌ぎを削るでしょう。つまり、先進技術やソリューションをリードあるいは追従して、これらに先行投資を行い、顧客に価値を提供する方法です。そのためには常にトップグループに入り、先行した商品やサービスを提供し続ける体力が必要となります。

(2)部分解
 対象としている課題を一部だけでも現在の技術やサービスで解決し、未解決な部分を徐々に解決していく姿勢です。最初からすべての課題を解決しようとせず、顧客にとって最も重要視する価値だけを先ずはきちんと提供しようとする姿勢とも言えます。

 この方法は、一見正攻法ではないようですが、顧客と共に課題に触れることによって、解決の経験値を積むことができ、真の課題がつかめるメリットがあります。この姿勢は、(1)に比べて、実現のスピード、つまり動きの良さが勝負になります。競合他社よりもいかに速く、顧客に提供するかが重要で、遅れればそれだけ、商品価値を失うことになります。ピンポイントで一気に勝負をつけ、ファンを増やし、徐々に、解決手段を拡げていく姿勢です。

 一般的に、大手企業の開発投資は(1)、ベンチャーや中堅企業、新規事業の開発投資は(2)の傾向が強いようです。

 

4.事業性を見るために収益計画を立ててみる

 商品のラインナップに合わせて、1年ごとに横軸に並べて、縦軸に

  • 投入する商品やサービス
  • それぞれの想定単価と顧客数(売上高見込み)=>初期の市場導入から回収、撤退まで
  • それに必要な経営資源(人財、設備、情報、資金)

を並べてみると、簡易な収益計画となります。

 ここでは、それぞれの詳細を考えるというよりも、事前に儲かるという皮算用ができるかという点を重視します。皮算用はもちろん机上論ですが、具体的な事業性検証をおこなう前に行うことで、検証すべき内容が明確になるからです。

 下図は、大人のチョコドリンクで「くつろぎ」を与えるといった商品企画です。図では販売量となっていますが、具体的な数値をいれて、収益計画の概要を作成してください。

※「発想の触媒」のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

次回は、「事業テーマ」とビジネスモデルについて考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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