書評　「奇跡を呼ぶ１００万回の祈り」　ソフトバンククリエイティブ　村上和雄　著

9月1日は大正１2年に関東大震災が起きた日です。日本は間違いなく何年か毎には大きな地震が起きています。2011年3月11日は「見えなかったものが見えた瞬間」と著者は書き始めます。「目に見えるものだけでなく目に見えないものも含めて考えなさい、ということなのかもしれません。」大震災の前年の秋に脳梗塞を起こして、病床に伏していた著者は気づいたと言います。命の尊さを頭で理解していただけで、いのちというものをいろんな角度から見ているようで、目に見えるものしか見ていなかったと。 　「奇跡の集合体である命を自分は持ち、さらには生かされている、ということを病気で気づき、また今回の大地震によって覚醒させられた思いがします。まさに有り難い命を持ち、生かされている私たちがただ悲嘆に暮れていたり、何も考えず無為のうちに過ごして良いはずがないのです。それこそ亡くなられた方々に申し訳がたたないでしょう。」

　今はまだ大震災後の有事であるはずです。復興もしかり、現状把握後の将来ビジョンしかり、放射線放出の影響の実態調査しかりです。分かっている分でも、情報を開示していなと思われる部分もあります。

　「奇跡を呼ぶ１００万回の祈り」は東日本大震災が起きたあと書かれたものです。

　「あなたの思いが遺伝子をかえます」「日本人は祈りの民族です」「祈りが震災を乗り越え、原爆で廃墟になった街をたちなおらせてきた」「今度の震災はのりこえられます。乗り越えてまいりましょう」「人は、無力だから祈るのではなく、祈りには思いもよらない力があるから祈るのです」と語られます。

　「遺伝子オンで生きる」の著者でもある村上先生は筑波大学名誉教授です。まだ、わからないことがいっぱいありますが、人生を充実させて幸せに生きるには、ガン遺伝子をなど好ましくない遺伝子にはできるだけ眠ってもらい、好ましい遺伝子をオンにして、どんどん働いてもらえばいいのですと話されます。

　「今こそ頑張らなくては、何か自分にやれることを始めなければ、もう一度我々本来の姿に立ち返らなければ、という気持ちのスイッチが多くの日本人に入った。日本人が本来持っていた豊かな精神性の灯りに再びスイッチが入れられた。」そして次のようにも語られます。「私たちは、地球という両親の愛情に甘えて好き勝手に生きてきた子供のようなもの。誤解をおそれずに言えば、今回のことは地球という両親から、今の行き過ぎた人間のあり方を本気で叱られたということです。」

　私たちを形づくるからだは６０兆個の細胞からできているが、命のもとになる細胞一個すら作り出すことはできない。「いつの間にか原発が生み出す電力に依存して、深夜すらこうこうとした光に照らされ、次々に増える新しい家電に囲まれて暮らしてきた私たちの暮らしは、突如として訪れた電力不足という事態に右往左往しました。」

　私たちは祈りの民としての日本人です。私たちの身の回りにはたくさんの神社があり、多くの人が初詣やお宮参りなどで参拝します。「神道は古来から、この世には人知を超えた神々の計らいがあり、その中を人は自然にあるがまま生きること、と教えています。つまり、昔の人々はそうした人間の回りにある森羅万象、すべてに神が宿るととらえ、その恩恵を受けつつ、ともに調和して生きることを大切にしていたのです。」

　サムシング・グレートにふれています。それは大いなる何か、偉大な何かという訳になります。人の遺伝子の解明が進んでいます。「そうなっているということが解き明かされています。何故そのようになっているかは科学でも分からない。このような精緻なものが偶然できるとは考えられず、まさに人知を超えた大きな何か、まさに、サムシング・グレートとしかいいようのない存在が、このような神秘的ともいえるものをつくったと想定したほうが無理がないようにおもいます。」大いなる何か、サムシング・グレートが震災後しばらくして満開に咲く桜を通して励ましてくれ、そうした桜の様子を感じる感性を遺伝子のスイッチがONになったことで取り戻したために、より美しく見えたのだと思うと語り「祈り、行動する民にならなければいけない」と著者は強く訴えます。

（文：横須賀 健治）