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第7回 リノベーション考

by staff on 2012/12/10, 月曜日

一級建築士事務所 水口建築デザイン室
水口 裕之

 先日、先輩建築家の案内で関内、石川町界隈の主に店舗をリノベーションした事例を拝見させて頂く機会がありました。横浜の古い街に良くなじんだ、歴史がある味わい深い建物がうまく再生されて利用されている姿を見て、単なるスクラップアンドビルドではなくて建物を残すことを選んだオーナーや関係者にとってこの建物や場所がとても愛されているのだなと感じさせられました。

 老朽化のためやむなく壊されていく歴史的な建物が多い中、決して目立たないけれど新築ではどうしても出せない風格や味わいを持つ小さなこのような建物たちがリノベーションされて、これからも横浜らしい風景の一部となって残っていくことはとても素晴らしいことだと思います。

 さてこの「リノベーション」という言葉はまだ耳新しく感じる方も多いと思いますが、単なるリフォームではなく付加価値を増す大規模な建物改修という意味で使用されています。建物の用途変更まで伴う「コンバージョン」という言葉もあってややこしいのですが、このリノベーション、今、住まいを考える上での選択肢として存在感がとても大きくなってきているようです。

 自分らしい個性的な家に住みたいが一戸建ての新築までは手が出ない、賃貸では自由に手を加えることが難しいし、魅力的な賃貸住宅自体が乏しいという特に若い住み手にとって、将来的な収入や家族構成まで見通せないということもあって、とても現実的で賢い住まい方としてもてはやされてきているようです。

 その利点として、まず価格が安いということがあります。中古住宅の個別の価値がなかなか評価されにくい不動産流通のシステムのなかで、築年月を経た中古住宅、中古マンションは大量に余っていて、中には掘り出し物といえるお安い物件も多く存在しています。古い住宅ほど新築ではなかなか得られないような生活に便利な立地の良い場所に建っていることが多いので、住宅の広さを求めない住み手にとっては中古住宅の価値が一層高く感じられることでしょう。高度成長期からバブル期のような、一生かけて支払う住宅ローンを組んで終の住処を手に入れるという感覚は薄れてしまったようにも感じます。家族構成や将来の収入や社会保障が見通せない世代にとっては、人生のある期間をその時々のライフスタイルにふさわしい住まいで過ごしたいという、多少刹那的な意識があるのかもしれません。

 価格面で言うと東京の都心などでは、面積がそこそこ広く共用空間が充実していて維持管理も行き届いた古いマンションが「ヴィンテージ・マンション」と呼ばれて逆に新築並みに高く取引されるという事例も増えてきたようです。過渡期にある今は、価値のある中古住宅を安く入手して、欧米のように手を加えることで資産価値まで増やせるという時代到来のさきがけなのだと思ってみたいところです。

 私の住む横浜郊外には築50年近い古い団地が数多く建ち並んでいますが、その新築当初には一般的な家族向けとされていた50㎡前後の住戸が今では当然手狭となっていて、多く住まわれている高齢の夫婦や独居老人だけでなく独身の一人住まいや若い夫婦にとってもちょうどよい広さと言えるでしょう。水廻り設備の老朽化や、エレベーターがないなどの不便な面がありますが、大規模団地ならではの立地の良さや屋外空間、共用空間の余裕、年月を経て大きく茂った緑などの、新築にはない魅力にも溢れています。分譲団地であれば個別のリノベーションにも適した物件ですが、UR都市機構(昔の日本住宅公団)主導による大規模な賃貸公団住宅の再生計画もこれから横浜でも進められるそうで、どのように変わるのか期待したいと思います。

 かくいう私の自宅も民間の古いマンションを自分で設計してリノベーションしたものです。築40年近いマンションですが自分のライフスタイルに合わせながら間取りを大きく変えたり、老朽化して不便で仕方なかった設備を新しいものに入れ替えたりすることで、予想以上にとても快適な空間となりました。

 改修することを前提に手に入れて10年以上住んでからの改修となったので、この住まいの良い所悪いところを全てくまなく知り尽くしているという意味でもベストなリノベーションとなったと思います。

 今後も人口減少に伴ってさらに既存住宅が余ることが絶対的な世の中で、中古住宅を資産としてうまく活用していく手立てとしてもリノベーションはとても有効だと思います。私たち建築家の設計すべき仕事としても、リノベーションの設計の機会は今後どんどん増え続けるに違いありません。

(クリックで拡大画像)


M邸住戸玄関(リノベーション前)

 


M邸住戸玄関(リノベーション後)


M邸住戸LDK(リノベーション前)

 


M邸住戸LD(リノベーション後)

「暮らしを大切にデザインする」ギャラリーへ

横濱元町AA STUDIOは「暮らしを大切にデザインする」17名の建築家のギャラリーです。それぞれの建築家の模型・作品写真など自由にご覧になれます。

横濱元町代官坂の中腹にあるカフェのようなギャラリーで、週末は交替で建築家がお迎えいたします。(建築家と話そう!)ホームページのスケジュールに担当建築家が掲載されていますので、カフェに立ち寄る気分で横濱元町まで建築家とお話にいらしてください。お待ちしております。

なお5回ほど私が連載して参りましたが、今後はメンバーが交替で「新しい建築とのかかわり方」を綴りますので、変わらぬお付き合いでご愛読くださいますと幸いでございます。ありがとうございました。

AA STUDIO WEB http://www.aaplan.com/aastudio/
Craftman Shop Street Motomachi http://www.motomachi-cs.com/cm/shop/shop051

青木恵美子 http://www.aaplan.com
新井今日子 http://www.arai1992.com
伊藤 寛 http://www.ito-kan.com
岡田 勳 http://www.kuukantoshi.co.jp
荻津 郁夫 http://www.o-as.co.jp
神田 雅子  
北川 裕記 http://www.aalab.com/kitagawa/
栗原 正明 http://msak.asia
河辺 近 http://www.ken-ken-a.co.jp
後藤 武 http://www.gtaa.jp
鈴木 信弘+洋子 http://suzuki-atelier.com
豊田 悟 http://home.m07.itscom.net/toyoda/
中村 高淑 http://www.unit-h.com
藤本 幸充 http://www.kamakobo.com
松井 理美子 http://www.matsui2ar.com
水口 裕之 http://homepage1.nifty.com/eau/
山口 賢 http://www.amarterrance.com

 

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新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
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横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
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