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書評 「未来を拓く君たちへ」 PHP文庫 田坂広志 著

by staff on 2013/3/10, 日曜日
 

 二月のある日私は経営体験報告者の立場で立っていた。その時にこの本のことが頭にあった。一番の印象はイチロー選手の言葉のところである。

 「ある時期、イチロー選手が、ライバル・チームのピッチャーに何試合にもわたって抑え込まれ、ヒットが打てなかった。あのピッチャーは、あなたの苦手なピッチャーですか?その問いに対して、イチロー選手は、こう答えた。いえ、そうではありません。彼は、ぼくの可能性を引き出してくれる、素晴らしいピッチャーです。だから、僕も、腕を磨いて、彼の可能性を引き出せる、素晴らしいバッターになりたいですね。このイチロー選手の言葉の中に、人生における苦労や困難の意味が語られている。」

 この本が言い続けているのは「人は成功することではなく、成長することが大事だ。」ということ。どんな人生であろうと、出会うことは奇跡である。それが喧嘩の相手だったり、どんなに嫌いだなと思う人でもだ。だから「志」を抱いているかと問い続ける。だからこそ、どんな人生であろうと後に続くものに語りかけているかという。誰でもの営みは奇跡以外のなにものでもない。ではなぜ我々は志を抱いて生きるか。「ただ一度しかない人生をくいなく生きること、若者は苦労も、困難も、失敗も、敗北もあったからこその人生であり、成長も遂げることが出来た。」というその思い。

 「我々が感謝の念を抱く時、我々の心には、自然に、義務と呼ぶべき感覚が生まれてくる。恵まれた境遇に生まれた人間には、そうした境遇に生まれなかった人々に対してなすべき義務がある。そうした感覚が、自然に生まれてくるだろう。それは、洋の東西を問わず、誰でもが抱く、ごく自然な感覚でもある。」

 こうも述べる。「たとえ、日々、街の片隅で ささやかな仕事に取り組んでいる人物でも、もし、その人物が、広い世界を見つめ、遠い彼方を見つめて 仕事に取り組んでいるならば、その人物の人生には、素晴らしい意味がある。そのことを教えてくれる寓話がある。二人の石切り職人という寓話だ。」と言って寓話を紹介する。難しい言葉でもあるが、「人を大切にするとは何か」を次のように述べる「自分の人生で巡り会った人に、親切にする、やさしくする、愛する。」さらに次のように述べる。どれも大層なことではなく、だれでもやればできることなのだ。

 「若き日に、目の前に立つ山を、見上げてほしい。人生という山、人間成長という山を、見上げてほしい。そして、その山の頂を、心に刻んでほしい。君が、生涯を賭して登っていく山の頂。その姿を、深く、深く、心に刻んでほしい。君は、いつか、その山の頂に立つ。そのことを信じている。君は、かならず、その山の頂に立つ。そのことを信じている。」

 山の頂を心に刻むとは、志を抱くということ、そして、我々が、命尽きるまで成長していくとき、死がやってくる。成長の最後の段階の死について、終末医療の医師、キューブラー・ロスの素晴らしい言葉を紹介している。「Death:The Final Stage of the Growth」それは、「尽きるその日まで、どこまでも成長していきたい。そして、素晴らしい”最後の成長”を遂げたい。」

 著者は「いまだ、人類の歴史は本史の幕開けを迎えていない。いまだ、人類の歴史は、本当の輝く歴史を迎えていない。なぜなら、人類の歴史は、いまなお、戦争や紛争、迫害や差別、飢餓や貧困に満ちた時代の中にあるからだ。」われわれの役割は人類の歴史を切り拓くことなのだと。だから見上げてほしい。君に、あの山の頂を、見上げてほしい。そしてわれわれは、「礎」となろうと呼びかける。その「礎」となる覚悟を、定めようと!

 「君の命。かならず終わりがくる命。ただ一度かぎり、君に与えられた命。いつ終わりがやってくるか分からない命。  その君の命。  その命を、君は、  何に使うのか。」

 そしてこう呼びかける。

 「だから、もし、君の人生で、苦しいときがあったら、思い出してほしい。 その苦労や困難。  その失敗や敗北。  その挫折や喪失。 それのすべてが、君の素晴らしい成長の糧になる。  そのことを、思い出してほしい。」

 経営体験報告が終わって、少し虚脱感を感じていたときに、もう一度この本を手に取ることがあって書評を書くことに決めた。著者渾身のメッセージが裏帯に書かれている。

 「人生という登山。頂上への道標は無く、その道は険しい。しかし自ら道を拓き、遥かな頂を目指すとき、我々は人間としての素晴らしい成長を遂げることが出来る。では登山口に立つ若者は、何を思い定めるべきか。今、山道を登り続ける壮年は、若者に何を語るべきか。そして、登山の終わりを迎える老境は、自らの人生を、どう振り返るべきか。すべての人々に贈る。」

(文:横須賀 健治)

 

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