ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第2回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第2回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
平安時代末期、高度な文化として上層階級では和歌が盛んでした。歴史上、正当な文化として語られてきたのは、きらびやかな和歌の文化です。しかし、それは表の歴史・文化であり、表があれば必ず裏もあります。地を這い、肚をくくって生き抜いた人間の歴史は裏側にあります。その中にこそ、生身の人間の思いとエネルギーがこもっています。農民・商人から芸人・遊女に至るまで、誰もがそれぞれの生業を天命と受け止め、命を賭けて生き抜きました。乱世の中、いつ命を落とすかもしれない身を覚悟しつつ人生を全うしたのです。江戸時代の”花下有楽図屏風(かかゆうらくずびょうぶ:国宝)”には、桜の下で楽器を奏で、歌い踊り、飲み食いに興じる情景が描かれています。更には、”春は花見(桜)、秋も花見(紅葉)”の屏風など、花の下での遊楽図が様々な形でいろんなところに残されています。厳しい労働があるからこその飲み食い踊り三昧の色即是空。形式や内容は異なりますが、リオのカーニバルに一歩も引けをとるものではありません。日本人の遊びの精神は、縄文時代から平安時代、江戸時代を経て現在に至るまでしっかり受け継がれています。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
未来はすぐに過去になる だからこそ、過去を描いて、未来を洞察する
いつの世も課題は尽きない 大切なことを思い続ける、それに飽きない
ただ座っているだけでは 腕があがるはずはなく課題解決もありえない
長谷川等伯は、石川県能登・七尾の出身、安土桃山時代に活躍した代表的な絵師の一人です。代表作の“松林図屏風(国宝)”は、京へ上る際に目にした能登・羽咋(はくい)千里浜の松林を、写実でなく写意で描いたといわれます。上野の東京国立博物館では数年に一度、誰でも鑑賞できる機会が用意されています。静謐の中に秘められた切腹覚悟の気迫には圧倒されるものがあります。後継者と恃んだ息子にも先立たれ、千利休との関わりから自らの身の危険も感じながら、それでも絵の道を貫きました。“できることの可能な限りを追いかける” “思い続けて飽きることなくやり続ける”ことでしか、地力はつかないし腕もあがらないこと。このこと抜きに、世の中の複雑で高度な課題を乗り越えていく道はなさそうです。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
一〇〇年予測からは、さまざまな教訓が得られる かなりの精度で的中した
要因としては 技術の萌芽期から分析を重ね、その先をしっかり読んだ成果
今後一〇〇年の萌芽技術 更に途上・成長技術の道を歩むものは何かを探る
時代を動かす理論や考え方の変化は激しく、どのような経営手法であれ、すべてを一から洗い直さないと使いものにならない時代になりました。知をベースにしたインフラ構築が何より急がれます。1900年初頭の100年予測では、携帯電話などの登場を予測し、その的中は今日では誰もが認めるところです。的を射ることができた要因として、萌芽技術や途上技術への洞察の深さが大きく貢献したといわれます。一人ひとりが知のインフラを確立・強化するということは、単に“魚を溜め込む”ことではなく、“魚の釣り方を鍛え磨く”ということを意味します。知の釣り人としての腕があがれば、どんな環境でも臨機応変に対応できるはずです。そのためにも、自らが頼みとする技術/スキルの棚卸しと、更なる練磨の計画は欠かすことはできません。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
それでも、明治時代を切り開く人材が数多く育ち 偉材が大きく羽ばたいた
日本は八百頭の神の世界 神教と仏教という二つの教義の対立を乗り越えた
教育の力が大きい 不文律が根を張る文化風土も、教育を突破口にしていく
教育は国の要であり、国を支える個人一人ひとりの根幹でもあります。充実した教育環境は大切な要素であることはいうまでもありませんが、それだけで真の教育が実現できるとは思えません。モノや道具に加えて、プラスアルファの何かが必要です。“神か仏かではなく神も仏も”は、日本人の弱みでなく強みであることの揺るぎない確信。“両義性”を包含することで多様・多重な視点と発想が更に鍛えられ磨かれるはずです。グローバル資本主義では、これに似た課題が今後も繰り返し降りかかってきます。“あれかこれか”でない解決策も一つの選択肢であること。それを深化させていくローカル教育こそが日本人のグローバル教育。可・否の二案だけでは不足、“決定しないという決定もある”と説いたのはピーター・ドラッカーです。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(五)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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