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書評 「永遠の0」 講談社文庫 百田尚樹 著

by staff on 2013/6/10, 月曜日
 

 この本を読んで、よく書いてくれたと思った。目的地に故障で着かない飛行機があったという話は聞いていた。「必ず死ぬ作戦は作戦ではありません。これは戦後ある人に聞いた話ですが、ミッドウェーから戦っていたベテラン搭乗員が”敵艦に爆弾を命中させたら、もどってきてもいいでしょうか”と尋ねたそうです。すると長官は”ならぬ”といい放ったそうです。」「これが特攻の真実です。勝つための作戦ではなかったのです。特攻の目的は搭乗員の体当たりなのです。そして、沖縄戦の後半は志願するもしないもない。通常の命令で行われたのです。」と書かれている。一気に読んでしまった。実際の生き証人の言葉として浮き出される。

 なぞのような発言がある。「この年になって、つくづくと思う。わしも特攻で死にたかった。五体満足であれば必ず志願していただろう。

わしが腕を失った三年後、宮部は特攻で死んだ。おそらく奴は志願はしなかっただろう。命令でいやいやながら特攻に行かされたに違いない。命を投げ出して戦ったものがこうして命を長らえて、あれほど命を大事にして助かりたかった男が死んだ。」

 この物語は宮部の孫が自分のルーツをたどるものである。祖父が特攻にいたことで、その最後が知りたくて当時を知っている人にインタビューに歩く。「おじいちゃんは、いつも僕に優しいね。こんなことを言うと、あれだけど、その・・・」「血も繋がっていないのに、か」戦後祖父に代わって祖母と結婚しお母さんを育ててくれたのがおじいちゃんなのだった。

 「これって、もしかしたら奇跡のようなことじゃないかと思っている。戦争に行った人たちが歴史の舞台から消えようとしている、まさにこの時にこの調査を始めたことは、何か運命的な巡り合わせのような気がしてならないんだ。もし、あと五年遅かったら、宮部久蔵のことは永久に歴史のなかに埋もれてしまったと思う。だから、ぼくはおじいさんを知っている人すべての話をきかなくちゃいけないと思っている」私たちは当時の本当の姿を知っているのだろうか。「アメリカの兵士たちが祖国の勝利を信じて命を懸けて戦ったように、私たちも命を懸けていたのです。たとえ自分がしんでも、祖国と家族を守れるなら、その死は無意味ではない。そう信じて戦ったのです。」姉と弟の取材が続く。

 桜花の搭乗員もいた。桜花とは人間が操縦するロケット爆弾。自力で飛び立つことも着陸することもできない。旋回もできずただ真っ直ぐに滑空することしかできない人間ロケットがあった。これほど非人間的な兵器もつくられていたという。「今日の桜花の搭乗員に筑波での教え子がいた。出撃前に、彼は俺の顔を見て、宮部教官が援護して下さるなら安心ですと言った。しかし俺の目の前で、彼を乗せた一式陸功は火を吐いて墜ちていった。中功の搭乗員たちは俺に敬礼しながら墜ちていった」宮部少尉はこうも語っていたという。「運よく、敵戦闘機の追撃を逃れて、敵空母にたどり着けたとしても、ものすごい対空砲火が待ち構えている。俺はなんどか特攻機が突っ込むところを見た。米軍の対空砲火のものすごさと言ったらない。マリアナの時もすごいと思ったが、今や米軍の対空砲火はそれをはるかに上回るすごさだ。そんな実態を司令部は何も知らない。いや、知っていて知らないふりをしているのか」

 この物語は生きることの大切さを問うているのではないかとも思われる。戦後宴会でいつも歌われていたラバウル小唄やここはお国の何百里とうたわれた戦友の歌はなにを意味していたのか。大事な想いをどこかに秘めて当事者はそこにいたのかもしれない。実際を知らないものが郷愁のなかで歌っていたというのだろうか。

 姉弟は祖父宮部を追いながら、その人物と時代背景、神風そのものの実態に迫りながら、時間に流されていく厳しさ、悲しさ、寂しさを描いていく。あの「やって見せ、言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば人は動かじ」の山本五十六は昭和18年のガダルカナルの戦いに敗れ戦死している。立派な軍人もいたはずである。宮部は教官なのに訓練生を誉めなかったという。なぜ!!誉めることは優先的に特高に指名され、死を意味するからだったという。そんな実態を戦後60数年知らずにいた。ただ茫然と立ち尽くしながら読み終わった。なんと不思議な「永遠の0」なのだろう。「不思議なことに、より厳しい戦場から帰ってきた者ほど戦場のことは話しませんでした。むしろたいして実践を積んでいないような搭乗員の方が戦地風を吹かす傾向にありました。宮部さんもまた戦場体験はほとんど語りませんでした。華々しい話や手柄話はまったく言わない人でした。」「熟練搭乗員が特攻に行かされることは稀でした。」だのに・・・・。

(文:横須賀 健治)

 

 

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