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しあわせの「コツ」(第62回) ハスキーはお好き?

by staff on 2022/2/10, 木曜日

第62回 ハスキーはお好き?

ハスキーボイスが人気だった青江三奈さん

今でも覚えていますが、森進一さんのデビューは世間を驚かせたものでした。私の母は「あんなしわがれ声で良く歌手になれたこと!」と、昔の東海林太郎のような端正な声を懐かしんでいました。

けれども、森進一さんの前にも水原弘、守屋浩など、「しわがれ声」とまではいかなくても、ハスキーな声の歌手はいたのです。松尾和子という歌手は、物憂そうな表情のハスキーボイスで、大層人気を博していたのを子供ながらに覚えています。また、「伊勢佐木町ブルース」を歌った青江三奈は、ジャズで鍛えたスイング感あふれるハスキーボイスで人気を博していました。

澄んだきれいな声をよしとする風潮もありながら、現実にヒットするのは上にあげたようなハスキーボイスの歌が多いのは、なんとも面白い現象です。

実は、これには深い訳があるのです。

気づいていない方もいると思いますが、日本人は伝統的にハスキーボイスが好きです。義太夫、浪曲などのいわゆる「濁声(だみごえ)」にしびれるのです。なぜでしょうか?

それは日本人の「音」に対する昔からの意識がそうさせているのです。
そもそも、昔の日本には西洋的な意味での「音楽」というものはありませんでした。「音」というものは神界とつながるための手段であり、神界とつながって、高次元のエネルギーを降ろすことで「神と一体になる」ことが、とても大事なことだったのです。そして、神と繋がるには倍音が必要だと、日本人は感覚的に知っていたようなのです。

倍音。
自然界には様々な音が流れていますが、自然界の音は西洋楽器のような澄んだ音ではなく、豊かな倍音に溢れています。最近のCDなどのデジタル音源では2万ヘルツ以上の音は、「聴き取れない」という理由でカットされていますが、森林の中では5万ヘルツ以上の倍音が充満しているそうです。

森の中は5万ヘルツ以上のバイブレーションが溢れている

聞き取れる音だけが「音」ではありません。実は聴覚で感知できない「バイブレーション」の部分こそが「音の本質」で、それが神とつながることを可能にしてくれるのです。

生命維持に関わる「脳幹」、嗅覚以外のあらゆる感覚情報を大脳皮質に送る一大中継基地である「視床」、自律神経の調節を行う「視床下部」― と言った脳の大事な部位は2万ヘルツ以上の音域で活性化します。ですから、心身が健康になり、感受性が豊かになるためには、2万ヘルツ以上の高次倍音を浴びる必要があるのです。

だからと言って、2万ヘルツ以上のバイブレーションの部分だけを切り取って聞かせても、脳は反応しないそうです。あくまでもある音から発せられる「自然の倍音」としての2万ヘルツ以上の音域でないと、脳は反応しないのです。

誰でも知っている倍音といえば、「除夜の鐘の音」がありますね。ゴ~ンと鐘を撞くと、そのあと、基音以外の様々な音が幾重にも重なりあってグワングワン~という響きが残ります。あれが倍音です。私たちはゴ~ンという音よりも、そのあとの余韻を味わっています。つまり倍音を味わっているといっていいでしょう。倍音のバイブレーションを身体全体で受け止めながら行く年を振り返るー除夜の鐘が私たちをそんな気持ちにさせるのは、倍音が豊かだからに他なりません。

倍音豊かな除夜の鐘

人の声の場合、倍音が豊かなのは、特に「非整数次倍音」の「ハスキーボイス」です。非整数次倍音は、基音の振動に対して、不規則な周波数を持つ音です(逆は「整数次倍音」で、基音に対して整数倍の周波数を持つ音のことを言います)。

歌手名で言うと、非整数次倍音の声の歌手は、桑田佳祐、宇多田ヒカル、中島美嘉、八代亜紀など(外国人ではエド・シーランやブルーノ・マーズもそうです)。

整数次倍音の声の歌手には、美空ひばり、郷ひろみ、B’zの稲葉浩志がいます。あ、ジョン・レノンも整数次倍音の声ですね。

こうしてざっと名前を挙げただけでも、大勢のファンがいる人気歌手は倍音の豊かな声の持ち主であることが分かります。

そして、もう一つ日本人が大好きな音遣いがあります。それが「こぶし」です。
カラオケなどでこぶしを回して歌っている人を見ると分かりますが、目を閉じて、うっとりと歌っています。「こぶし回し」は、実は聴いている人よりも歌っている本人が一番気持ちがいいのです。それが「忘我の状態」、神と一体化した状態だと昔の日本人は考えたのでした。

人が「変性意識」と言われる忘我の状態になるには、ピッピッピッ、トントントン、といったパルス音を聴かせるのが有効です。木魚などの単純な繰り返しが眠気を誘うように、パルス音は人の意識を気持ちよく、別天地へといざなってくれるのです。

木魚の音は、死者の魂をあの世に送ると同時に、
生者にも安らぎをもたらす

楽器でパルス音を出すことはたやすいですが、声の場合はどうしたらよいでしょうか。「あっあっあっ」と音を切って歌うのは歌いにくく、また聞きやすいものではありません。そこで「音を切らずに切る」方法として、「こぶし」が用いられたのです。

民謡や演歌で多用されるこぶしは、歌の「さわり」の部分として、聴き手の心に響きます。都はるみの「あんこ椿は恋の花」という歌で、「あんこ椿はぁ~ああああ~ん あ~ん かぁ~たぁだぁあよぉりぃ~」と、これでもかとばかりこぶしを回していますが、こうした音の揺らしが、パルス音と同じ効果を生み出します。

西洋音楽でも、「メリスマ」という技法があり、古くは「グレゴリオ聖歌」など、神と一体化するための教会音楽でよく使われていました。こぶし、あるいはメリスマによって音を引き延ばしながら揺らして歌うと、聴き手の心に深く入っていき、感動を与えるのです。
細川たかしの「津軽山唄」を聴くと分かりますが、こぶしを多用して悠然と歌っています。民謡に興味がない人や彼のファンでもない人が聴いても、胸を揺さぶられること間違いなしです。圧倒的な歌唱力もありますが、こぶしによる音の揺らしが、鳥肌が立つような感動を与えてくれるのです。

細川たかし

「津軽山唄」はこちらの youtubeでどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=zN_ip-ovOk0

国際気能法研究所所長の秋山眞人(あきやま まこと)氏は、細川たかしの「津軽山唄」について、音が引き延ばされ、多彩に揺らされることで、音に込められる霊力は半端なくなる、と述べ、この歌は山の神に出会うことを目的とした「神歌」である、とまで言っています。(『怖いほど願いが叶う音と声の呪力』秋山眞人著 河出書房新社刊)

ハスキーボイスとこぶし。
これが日本人の好きな音遣いなのです。ですからハスキーな声で「コブシ」を回して歌ったら、日本人はもうたまらないのです(笑)。これこそが手っ取り早く「神と一体になれる」手段なのですから。

明治以降、西洋式の音楽教育が導入されてからは、倍音豊かな濁声(だみごえ)は排除され、澄んだ声が良しとされました。そして、こぶし回しによる音の揺れは「音痴」とみなされ、地声で歌うことは恥かしいという意識を生みました。現在では神社で上げる祝詞でさえ、西洋式の「きれいな声」で音の揺れのない一本調子の唱え方をされています。これではどんなにありがたい祝詞でも言霊が響かず、本来持っている霊力が発揮されません。
出口王仁三郎が挙げた祝詞の貴重な音源がありますが、それを聞くと「祝詞とはなんと力強い言葉なのか」と感じ入ります。

出口王仁三郎

出口王仁三郎の「天津祝詞」の音源はこちらにアクセスしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=NkXgvjIfekk

祝詞に限らず、日本語は倍音豊かなこぶしの効いた声で発せられるとき、もっとも言霊が響くのではないでしょうか。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・都市拡業株式会社取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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