ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第51回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第51回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
“資本主義は最悪のシステムである。しかし、資本主義以上のシステムは存在しない” と語ったのは元イギリス首相チャーチル。多くの人は、これからもずっと資本主義が続くものと受けとめていました。しかし、資本主義にも少しヒビが入り、本当に資本主義で大丈夫か、との疑問も生まれています。 “金銭万能主義” への加速と違和感。坂本龍一のアルバム “async(非同期)” は楽音とノイズの間の境界を取り除き、異なるリズムの音がいくつも鳴り響くというもの。雅楽も “間・隙間” があり、どこに中心があるかわからないといわれます。これからの資本主義も中心をおかず、 “価値主義” という普遍的な概念の世界へ回帰するのかも。お金は価値の交換・尺度・保存の役割を担ってきましたが、これらの手段もICT(情報通信技術)の台頭で多様化・目的化し、 “価値” の方が信頼できるという方向に行くのかもしれません。豊かな価値へと向かう多様な道。梁塵秘抄では “四方の霊験所は 伊豆の走井 信濃の戸隠 駿河の富士の山 伯耆の大山 丹後の成相とか 土佐の室生戸 讃岐の志度の道場とこそ聞け” とあります。すべては神仏習合。お寺にしめ縄もあり。 “昨日の自分を弁護するな” と作家・幸田露伴。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
捨てるべきものは、すべて切り捨てる 時には、平気で横紙を破る
チャップリンも喜劇王をめざし 抽斗の笑いのネタを大部分は処分
戦略の基本 足し算でなく引き算 捨てる、やらないことを決める
チャップリンは、晩年 “一番の自信作は?” と問われて “次回作” と答えたのは有名な話。チャップリンのNGフィルムは英国映画協会に膨大な量が保存されているとのこと。同じテイクを何十回も繰り返し、2分のシーンを10秒にまで絞り込んで洗練させる完璧主義者。まさに、抽斗の笑いのネタの大部分を処分、捨てるべきものはすべて切り捨てる徹底ぶりが数多くの名作を生みました。結果から見れば、戦略の基本である “引き算・捨てる・やらない” を実践。赤狩りでアメリカを追われる時も、米国籍をとらず “世界市民” であることを貫きました。 “言葉の力だけで喜ばせたり絶望に追いやることができる。だから、精神療法の手法として言葉を軽んじてはならない” とフロイト。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
主力事業が消えたら何で食べていくか 現状が永遠に続くとは誰も考えていないはず
現状否定に対する抵抗は強いが 限界と真趣への思いを忘れず危機では積極策をとる
山ほどのデッサン そのままではなく、再構成した後で絵にしていく、と画家杉山寧
20代の頃、本屋に並ぶ雑誌 “文芸春秋” の表紙のスフィンクス像に強烈な印象を受けました。それを描いたのが画家・杉山寧。師匠は大和絵で知られる日本画家・松岡映丘。師匠との余りの画風の違いにびっくりしたことを覚えています。師匠は自身の画風を押しつけなかったとか。その画風は抽象画風で知的な空間構成。鮮明な色彩ながらも重厚。動物・植物を描く場合も “動物や植物を通じて、宇宙に広がる自然の美しい神秘性を表現したいから” と語っています。エジプトやインドなど従来の日本画になかった題材にも挑戦、納得いくまで絵を修正し続けました。長女は作家・三島由紀夫夫人。 “一つの難しい事柄に取り組み、そこに自分のすべてを注いでいる人は幸せ” と哲学者・アラン。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
ナレッジマネジメントも共通の原理原則 技術志向で突っ走らない
リテラシー能力、時間に錘をつける ブルペンでの集中力こそが命
ナレッジとコンテクストの擦り合わせに注力 魚でなく魚の釣り方
永田和宏さんは歌人で細胞生物学者。夫人も歌人の河野裕子で、晩年は乳がんに苦しみ、それを歌に詠みました。 “手をのべてあなたとあなたに触れたきに 息が足りないこの世の息が” は最後の歌。生への熱い思いは強烈。なんら関係のない二つのことを同じ重さでやってきた時間の堆積。短歌はその短さゆえに、ある瞬間の心の動きを敏感にキャッチし、短い言葉で定着させるという早業。一心不乱に研究を進め、一心不乱に歌を詠む。まさに “自分の時間に錘(おもり)をつける” こと。ナレッジマネジメントも技術志向に走らず時間に錘をつける営み。魚ではなく魚の釣り方。 “夢は砕けて夢と知り・愛は破れて愛と知り・時は流れて時と知り・友は別れて友と知り” と作詞家・阿久悠。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(四)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第51回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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