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田中健介の麺食力-それから- 第12回 「ハイカラの思い出」

by staff on 2019/9/10, 火曜日

第12回 ハイカラの思い出

2010年に出版した自著「麺食力-めんくいりょく-」。横浜の麺料理とその周辺の情景を描きながらほとんど売れなかった可哀想な本。著者自身も出来上がった本に向き合うことなく、ついに来年に出版10周年となるのを機に、改めて当時の内容を振り返り、現在の移り変わりを綴っていく、ついでに啜っていく企画の今回が第十二回目、ここのところは閉店した掲載店舗の現在の様子などが中心でしたが、久々にまだまだ元気な掲載店舗のレポートを再開致します。

「平沼の角」から付けられた店名「角平」は平沼商店街の角に位置する。

「平沼の角」から付けられた店名「角平」は
神奈川県道13号線横浜生田線・平沼一丁目交差点の角にも位置する。

9月に入りましたが横浜は暑い日々、冷たいそばが必要な陽気はまだまだ続きます。
冷たいそばを江戸系の醤油のきいた甘辛いつゆで食べたいなあ。
そう思い立つと、久々に「ハイカラ」が食べたい!となって、西区方面へ。
今回は西区平沼の「角平」の今をレポート。
拙著をお持ちの数少ないファンの皆様は69ページを開いてこちらと合わせてお読みくださいませ。ない人は、ないなりに楽しめるよう書いていきますのでご安心ください。

風情のあるたたずまいの店舗入り口。

1950(昭和25)年創業、二度目の東京オリンピックを迎える来年に70周年を迎える老舗。
戦前は別の屋号でカツ屋を営んでいたので、それも含めるとさらに古くからの歴史を誇ります。横浜大空襲で焼け野原となった戦後、カツよりももっと庶民的なそばで商売していこうと「角平」が誕生、現在に至ります。カツ丼がおすすめの品となっているのは、まさに角平のルーツなのです。

小上がりも貴重な風景。常連客であった大野伴睦、岸信介、重光葵の色紙が大切に飾られている。

店内は商談などで使われる個室も含め、約80席収容できるとのこと。お店の外観とは裏腹に、非常に奥行きのある空間となっています。

「角平」女将・藤江壽子さんと横綱・白鵬関の写真。
店内には数カットあるのでいくつあるか数えてみるのも面白い。

店内は歴史を垣間見ることができる写真パネルが多くあり、それを眺めるのも楽しいのですが、横綱・白鵬関と女将・藤江壽子さんとの写真もいくつか。二人は旧知の知り合いで、大相撲横浜巡業があるたびに角平に立ち寄っては宴会利用してくれるそうです。近年は横浜巡業が行われないのですが、個人的に白鵬関に会うなど、関係は続いているとのこと。

これが冷やし「ハイカラ」だ。中身もいいけど、器もいいねえ。

さっそく角平のおそばをいただきます。
他のそば屋では「たぬき」と呼ばれる「ハイカラ」を冷やしで。

「『きつね』と『たぬき』では化かしあい、だましあいをしかねないと、『たぬきそば』ではなく、当店では創業当時から『ハイカラ』という名前で出しています。『ハイカラ』というのはその当時流行っていた言葉のようですね。」と話すのは有限会社角平取締役・岩瀨有紀恵さん。

「麺食力」にて掲載の際、私は当初「揚げ玉」を「天かす」と表現していたのです。そこで岩瀨さんより、
「当店ではお客様にお出しするのに『かす』という表現は使いたくないので『揚げ玉』とさせていただいております。」
という「お叱り」を受け、訂正した思い出がございます。「揚げ玉」と「天かす」。確かに前者は高揚感があり、後者にはネガティブな雰囲気を感じます。言葉って大切ですね。そういう部分を大切にしている角平の伝統やブランドイメージの重みを感じました。

そんな思い出を胸に、ハイカラを手繰っていきます。
引き締まった喉ごしのよいそばと濃いめのつゆに揚げ玉が絡んで、実に良い風味です。
角平のそばは、十勝産の蕎麦粉を7:3、あるいは6:4の配合で角平の特製手もみそばが作られます。配合は天候や季節で変わりますが、それは職人のさじ加減に委ねられているそうです。

角平名物「つけ天」。豪快な海老天が素晴らしい。

「ハイカラ」を楽しんだ後は角平の名物のひとつ、「つけ天」もいただきます。
熱々のつけ汁でそばを手繰るという珍しいメニュー。つけ汁に浸かったそばよりもつけ汁で食べる方がそばの風味が良いとのことで考案されたもの。大きな海老天がつけ汁の上に立っている!
ハイカラとはちょっと違うそばの美味さを感じ、海老天のプリプリサクサクで悦楽。

角平のロゴ。どことなく亀に似ていて素敵。

拙著「麺食力」刊行の2010年からおよそ10年。人口減、超高齢社会。
飲食業においては食材の高騰、人手不足、消費税増税などが浮き彫りになった10年だったかと思われます。
「人手不足もありますが、何よりも飲食業はみんなが休みの時に営業するので特殊な勤務形態です。最近改正された労働基準法の制度と照らし合わせながら営業する難しさは増えたと思います。」

岩瀬さんはそう話します。

「角平」女将・藤江壽子さんと拙著。

厨房の職人は世代交代で若い厨房になっています。角平は多くの老舗飲食店の中でも伝統をうまく継承できているのではないでしょうか。
来年は70周年。記念パーティーも予定しているとのことですが、80年、90年、そして100年といつまでも平沼の角で、そばのように長く生き続けてほしいと思います。

筆者紹介

 
本 名 田中 健介(たなか けんすけ)
略 歴 1976年9月生まれ。横浜市出身。横浜市在住。
武相高校、神奈川大学卒業。
自称エッセイスト、本業は福祉関係。
ベイスターズファン歴35年、CKBファン歴17年。
 
2009年9月、日本ナポリタン学会設立、会長となる。
http://naporitan.org
 
2010年3月、著書「麺食力-めんくいりょく-」(アップロード)刊行
https://amzn.to/2DGVqiU(Amazonへ短縮リンク)
 
2017年5月~ 連載「はま太郎」(星羊社)「田中健介のナポリタンボウ」
https://www.seiyosha.net/
 
連絡先:hamanomenkui@gmail.com

 

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