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2011年3月 「卒業の季節と歌と」

by staff on 2011/3/10, 木曜日

 平成23年も雛祭りが過ぎて、卒業の季節を迎えようとしている。英語で、卒業はgraduation 卒業式は、commencementだが、前者は〈階段〉後者は〈始め〉というラテン語が語源だ。この人生の節目は原点と目標の再確認の時でもある。さてテレビでは白い犬が評判の携帯電話会社のCMドラマが、今回は全員学生服姿で、元ボクシング世界王者や、新進気鋭の女優なども交えて学級ものをやっている。そしてこの作品の背後に流れる厳かな行進曲風の音楽は、バッハのカンタータ140番から、1曲目〈合唱〉の最初の部分なのである。日独友好150周年の年に、偶々280年前のドイツ古典音楽が現代日本経済を応援する格好だ。

 実はこのCMの音楽に聞き覚えがあるのでネットで調べた結果、先月末に東京バロック・スコラーズの「21世紀のバッハ第7回コンサート」〈バッハとコラール〉で聴いたものだと判明したのだ。これは指揮者の三澤洋史氏が自ら組織した演奏団体で司会と指揮を兼ねるもので、曲の背景や音楽構成なども深い研究成果を噛み砕いて説明する、親しみのもてる音楽講義風のとてもすばらしい音楽会だった。

 三澤氏は、国立音大の声楽科を卒業後指揮に転じ、ベルリン芸術大学指揮科を首席で卒業、現在は新国立劇場合唱団指揮者等をつとめていてワーグナーとバッハに詳しい。三澤氏はこの140番について、高校時代に、音楽好きの友人がくれたこの曲に聴き惚れたのが、音楽の道に進んだきっかけだったと述懐した。ふと私は大学受験ラジオ講座の音楽がブラームスの大学祝典序曲の一部と知ったある日、レコードを買い全曲を聴きながら勉強を楽しんだことを想起した。

 さて、卒業式の歌といえば、昔は「蛍の光」か「仰げば尊し」だったが、今は様々な曲が歌われている。特に、今年の1月に80歳で亡くなられた小嶋登氏が、1991年に、秩父市立影森中学校校長の時に作詞し、同校音楽教諭の坂本浩美氏が作曲、コーラスへの編曲は、聖徳大学教授の松井孝夫氏になる「旅立ちの日に」が新しい古典の代表だ。この歌の背景には、荒れていた学校を「歌声の響く学校」にしたいと願った小嶋・坂本コンビがあった。今から20年前の2月、歌声運動三年目に、坂本教諭は、卒業生に世界にひとつしかないものを贈りたいと思い、校長に作詞を依頼したが、「センスがないから」と断っていた校長からの詞を翌日机上に見つけた。見事な詞を読んで曲のアイデアが自然と浮かんだ坂本は、授業の空き時間にピアノに向かい15分で曲をつけた。小嶋校長の定年退職のこの年、教職員から卒業生に、一度だけ歌って終わるはずだった「世界で一つだけの卒業ソング」は、翌年から生徒たちが、学校だけの歌として歌いはじめ、20年後の今日、全国で歌われるようになった。アマゾンには本のコメントも多く寄せられている。このように伝播するのも若い情報世代のなせる技だろう。またひとつ、21世紀の日本の出藍の誉れの例として、そして日本人の誇りとして、世界に発信していきたい話だと思う。

 卒業式や文化祭などでは、ほかにも、森山直太朗の「さくら」、アンジェラ・アキの「手紙~十五の君へ」、沖縄の女性二人であるKiroroの名曲「未来へ」、松井孝夫氏の「そのままの君で」などが歌われているようだ。横浜出身の「ゆず」の「栄光の架橋」もベストテンに入っている。どれも清々しく原点を見つめさせてくれる。娘に10年前の中学の卒業式で何を歌ったか尋ねたら、「大地讃頌」と杉本竜一の「BELIEVE」だったとのこと。大地讃頌は名曲で今年の半ばには、私も久しぶりに、縁あって新設のオリンパスホール八王子で歌う予定だ。

 日本の童謡や唱歌に魅せられて、たくさんの曲を英訳して歌っている人に一昨年とあるパーティで会った。グレッグ・アーウィンというウィスコンシンから来た背の高いアメリカ人で、歌手、声優などをして日本に永住している。彼のウェブサイトでは英語の「故郷」が流れている。「赤とんぼ」の英語版歌詞など、押韻もあり、見事な英語教材だ。明治維新を契機に、日本の童謡ができたらしい。文明開化のなかで、和魂洋才の平和利用の一形態として育ったこの文化遺産は、当時の作詞家、作曲家たちの進取の気性と文化創造への心意気を物語る。

 音楽のバッハも、市のお偉方と補助金交渉や楽団員や合唱団員の質の低さの改善要求など、現実と戦いながら、高度な技巧と美しい音楽性の追求を続けたという。現代ではヤンキースのトーレ前監督は、オーナーの故スタインブレナー氏が、優勝決定戦の前日に細かい指示をしに来てコーチ陣がカンカンになった際、「出て行ってくれ、ジョージ、コーチたちを混乱させないでくれ!」と言い、「覚悟しておいた方がいいぜ。」と言われ、「わかりましたジョージ、覚悟しておきます。」とやって、身をもって部下を守ったエピソードもある。外との戦いの前に中にもこのような戦いがあり、様々なイレギュラーバウンドも現場監督の判断で的確に処理し、権限を確保できるかどうかが、勝敗を分けると言ってよい。

 人類の歴史は、少数の人間の判断と命令に従う社会から、多数の人間の知恵と企業家精神を活用して、個々の判断を大切にしながら、全体としてのハーモニーのある大音楽のような美しい社会を各所に築こうとしている。しかしその道のりは厳しく、「3歩進んで2歩さがる」ことも日常だ。

 この点、2006年のノーベル経済学賞受賞記念講演でエドムンド・フェルプス教授が「活力ある資本主義経済の素晴らしさは、それが余暇ではなく魅力的な仕事を増やす機会を提供することにある。」と言っているのは慧眼だ。資本主義、民主主義、情報主義を、正しく分析してこれを律し、調和的に組み合わせれば、これが実現できるはずだ。そこに変な不調和音や、多くの人から見て「天の声にも変な声がある」とならないようにすることが重要だろう。そして、20世紀の大きな社会の変化には常に歌があったことも思い出したい。21世紀も苦しい局面ほど、小嶋登校長や坂本浩美教諭の実話、それにサウンド・オブ・ミュージックの実話のように、大切なものを守り抜く姿勢で、常に心に歌声を忘れずに、前を向いて堂々と、トトロの歌の如くに、歩き続けて行きたいものだ。

 今は、ネットで名演奏も山ほど検索鑑賞できるようになった。一度だけパバロッティの本物を聴いたプッチーニのオペラ、トゥーランドットの中の「誰も寝てはならぬ」など鑑賞していると、時間のたつのを忘れて、本当に寝られなくなってしまいそうな今日の情報社会、特にネット情報との付き合い方を学ぶべきは、公道での自動車の運転にも似た、皆平等の義務だと思う。

 

小田切英治郎 プロフィール

昭和30年5月、北九州生まれ。牡牛座、A型。横浜と横須賀育ち、県立横須賀高校から一橋大学で国際法を学ぶ。米国駐在を含めた金融機関勤務、中堅企業やベンチャー経験の後、文化や経営、社会や歴史を中心とする翻訳や執筆に従事。米国のビジネス論文、大手企業の週刊文化発信、米国の社会改革の論文等の和訳等に従事。ラッセル、ドラッカー、ガルブレイスに目を通し、中島みゆきに耳を傾けると、城達也の声や、淀川長治の顔が浮かんできた。21世紀の地球は、地上の星が満天の星と対等に挨拶できるような星になってほしい。三権+メディア+金融の五権の分立を基本として、ペンは剣よりも金塊よりも歯切れよく、人は大海に向かって船出し、笑顔で戻ってくるのだ。

 

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