5月 三ツ池だより 「朝に鶯が鳴いている」
先日友人の会社の経営計画発表会があり招かれた。会場は 桜に囲まれた大きな建物会場であった。社長の引き継ぎもあった。未曾有の大惨事のあとの厳しい経済情勢のなかであったし、流され奪われた命があり、大自然の底知れぬ脅威があり、放射能の危機の中である。それでも 桜は咲きみだれていた。
人うれしく人うつくしい花筏 詢
花筏が流れてゆく。何もかもを受け止めている。その花びらを今ほどはかない命と感じることはないし、本当に命の大切さを自覚させられる昨今である。
いとまする声掛けもなく花ぞ散る 詢
いまさかんに花が散っていった。桜は本当に短い命である。その、一時のさかりの時に桜は、人は、何を考えているだろう。
思案という文を隠せし花衣 詢
散ってしまうと、思案などどこにもなく、それでいて忘れられない花たちのことを思った。世代交代をされた発表会であった。新しい時代に向かうエネルギーを感じた。
弊社でも経営計画発表会が行われた。考えることがあった。
「およそ商品は売って喜び、買って喜ぶようにすべし、売って喜び買って喜ばざるは道に叶わず」二宮尊徳の言葉である。買って喜んでいただくためにはどうしたらいいかを考えることだ。わかっていることであるが実行を求められている。言葉をかえれば「価値の創造」となる。お客様に役立ち、社会に役立つことだ。商売は一度きりではなく続いていくことが必要なのだ。本当に相手方を思って仕事をしているかが問われてくるのだ。自分磨きをして、安心してもらい、客先の求める事を具現化していくことだ。
花びらの目安箱から出でしかな 詢
そして今、桜の景勝地である三ツ池公園は、寒緋桜から山桜になり、今はあっという間に芽吹き、そして若葉へと変わった。それは初々しさから少年少女の時代にでも入ったような景色だ。
ぜんまいのやわき煮付に背を正す 詢
奥秩父に遊んだ時、霧に包まれた事があった。この道でいいのだろうかと思っていた時に、足元に浦島草を見つけ驚いた。今、三ッ池公園の、私の家のすぐ前の公園入り口の真下に、浦島草が十数本群生している。数年前に見つけた。今年も楽しみにしていたら、ロープが張られ、その内側に腕の長さほどの木がずらっと植えられてしまった。これはどうしたことかと思っていたら先月突然に取り除かれた。安堵しながら近づいて見たら斜面に健在に花を咲かせていた。
紫頭巾のほどけし紐や浦島草 詢
浦島草は、花の姿が釣り糸を垂れている浦島太郎に見立てて、この名がある。調べてみると山野の木陰に自生する多年草とある。昔は痰を取ったり、痙攣などを鎮めるのに用いられたというが、毒草で、茎や新芽を食べると腹痛に襲われるとあった。茎は大島の明日葉のようにみずみずしい感じを受ける。その葉の下に鎌口を広げて舌を出してでもいるように花軸が長く糸状に伸びる。不気味なようでいて、とても楽しい花である。通り掛けの犬を散歩させている人に教えて差し上げた。驚いておられた。
石段に石の傾き花つもる 詢
「百花、誰のために咲く」どの花も自分のために咲いてくれる。そう思える事が大事だとある時に教えられた。どこにでも花は咲いている。どこにでも花をみつけることができる。見つける感性が大事なのだ。 花が咲いた。あーわがために咲いてくれたのだ。その大地の暖かさを感じ、大地の無条件の愛を感じることのできる自分づくりなのである。
時あたかも木々がざわめいている。このざわめきを喜びと感じられるようでありたい。咲く花をわがものとし、共にこの大地にあることに感謝し、時に立ち止まることだ。そして次に歩を進める。朝が来る。
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(文・写真:横須賀 健治)
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