「旅のラゴス」 筒井康隆 著 新潮文庫
筒井康隆といえば、「家族八景」 「七瀬ふたたび」 「エディプスの恋人」という超能力者の七瀬という女性を主人公にした3部作にはまった方も多いと思います。映画やドラマにもなったシリーズでしたが、筒井さんの作品は、SF、ミステリー、児童書もあれば実験的な作品も沢山あって、「安全地帯からは書かない」、そんな姿勢を70代後半の今も貫いていらっしゃいます。今回ご紹介する「旅のラゴス」は、ジャンル分けするならば、近未来SFでしょうか。 主人公のラゴスは、旅人。 |
ムルダムが北の町で家畜を無事に売り終えた頃、雪が降ってきた。これから大雪になるという。リーダーのポルテツは、大急ぎで故郷の平原に帰らなければ、と全員で「転移」をすることを告げます。一族の少女デーデは、「転移か。あれ、いつも何かを通りぬける時いやな気分になるのよね」と呟く。「転移」とは、数人以上の精神力の集中を合わせて一瞬のうちに空間を飛び越え別の場所に移動すること。ムルダムには動物もいて荷物も多いため、誰も何も置いていかないように気をつけなければいけない。「転移」をする時には全員の気持ちを一つにするための経験や技術も必要になる。指示に手間取っているポルテツに、ラゴスは話しかけます。
「俺にパイロットをやらせてくれないか」
ラゴスは、一族と動物たちを集めこう語りかけました。
「みなさん。目を閉じてください。あなたの前にいる人。あなたの隣にいる人や獣。あなたの後ろの人。全てについて考えてください。あなたの側にいるその人を、あなたがどれだけ愛しているか、心の中で教えてあげてください。そして故郷の平原を思い出してください。私はまだ行ったことがない。どんなところなんでしょうね。みなさんが故郷で私に一番先に見せたいもの、それを思ってください。さあ、行きますよ。」
ムルダム一族は無事に故郷に戻ることができました。
彼らの故郷に2週間ほど逗留したラゴスは長居もせず集団を離れ馬と共に南を目指して歩いた。さまざまな場所に泊まり、さまざまな人に会う。ラゴスは或る町で奴隷狩りに遭い銀の鉱山で働かされることになった。採掘業者に鞭で叩かれ、こき使われる。自分を慕う女性ラウラと共に暮らしながら、ラゴスは7年間をそこで過ごします。或る時、機を見て山を降り港へ向かったラゴスは、ラウラに別れを告げる。
「もっと南へ。一人で旅を続けなければならない。それが俺の人生に与えられた役目なんだ」
彼女を振り切って船に乗ったラゴスは18日間の航海の後、南の大陸に辿り着く。そして目指す森へ向け歩き始める。ラゴスは、或るものがその森に存在することを知っていた。それは、2千年前から保存されている人類にとって貴重なものでした。
ラゴスが何者で何を求めて旅をしているのか。そして旅はいつまで続くのか。物語の後半でそれらのことは判ります。読んでいる途中で大きな変化は、「俺」という一人称がいつの間にか「私」になっていたということ。「私」という一人称を使う人間にラゴスがなった、その瞬間があります。ラゴスは最後の方で自分の故郷へ帰えりますが、歳をとって60代になったラゴスが或る決心をする。その決心が反映されるラストシーンがすばらしいです。ラゴスがかっこいいです。
「人生は旅だ」という使い古されたキャッチコピーのような言葉が、この本では陳腐なものでなく読者の心を躍らせる物語に仕立て上げられています。232ページと比較的薄いこの本に、世界が丸ごと詰まっているところがすごいです。
<参考>
ヨコハマNOW 動画
新横浜公園ランニングパークの紹介動画 | ||
ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。 |
横浜中華街 市場通りの夕景 | ||
横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。 |
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