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【新年のご挨拶】
みなさま、新年明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

書評 「ほかならぬ人へ」 祥伝社文庫 白石一文 著

by staff on 2013/7/10, 水曜日
 

 出会いは偶然なのか、必然なのか、なんていうのではない。あまりにも必然であったように思うことが、実はことの勘違いのはじめなのかと思う。勘違いをしないとことには運ばないものなのである。著者は最後の所で次のように書いている。「決して泣くまいと心にきめていたのだが、あまりに深い悲しみに涙があとからあとから溢れてくるのを止めようがなかった。」

 小説だからというより、真からかなしみに泣けるというのはある意味、充実を味わったからだと思うのだ。それまでのあいだは徒労のように繰り返し繰り返し恋愛が繰り返される。実っているようで実りのないゲームが繰り返されていく。

 「前にも言ったけど、うちはお父ちゃんがあんなだったから、私は、ちゃんとお付き合いするなら絶対に浮気をしない人ってきめていたの。ああいうお店で働いていたら、男の人の生態ってほんとよくわかるの。明生ちゃんを一目見たとき、あみっけ、ってぴんと来たの」「まさか、そんななずなが結婚からたった二年足らずで自分を裏切るだなんて、あのときの明生には思いもつかぬことだったのだ。」

 明生は上司の東海さんになにかとお世話になり、相談もするようになっている。そんななかでの出来事。「“東海さん、肺がん詳しいんですね。”近い身内をきっと同じ病気で亡くしたのだろう、と二人のやりとりを黙って聞きながら明生は思っていた。“私がそうだから。”人の波に目をやったまま東海さんがいった。“えっ”思わず聞き返す。彼女の言葉の意味がよく分からなかった。」

 「誰かと暮らすことは確かに楽しい。そこには一人暮らしでは到底想定できない華やぎがある。だがこうして一人に戻って見ると、一人にはひとりきりの貴重な静寂というものがあることをおもいだした。“結婚は一度はして見るものだと思う。でも、長く続けるかどうかは人それぞれでいいんじゃないかと私はおもうよ。”昨日、別れ際に東海さんがいってくれた言葉を思い出す。あの人は自分は食べもしないのにあんな高い肉を買って、落ち込んでいる俺を励ましてくれた。帰りの電車の中で、今は東海さんのためにも仕事に打ち込もうと明生はおもったのだった。」

 人と人の出会いは思うようにいってるようで、思うようにいっていない。
著者は主人公明生に次のような言葉を吐かせる。
「この世界の問題の多くは、何が必要で何が不必要かでなく、単なる組み合わせや配分の誤りによって生れているだけではないだろうか。これが必要な人にはあれが、あれが必要なひとにはそれが、それが必要な人にはこれが渡されて、そのせいで世界はいつまでたってもガチャガチャで不均衡なままなのではないか。どうやったらそれぞれが、ちゃんとした組み合わせになれるのだろう。」

 出会いには打算やいきがかりがないとはいえない。その出会いが上手くいく場合だってあるに決まっている。同情が本ものになったりもする。その本ものが、またいつまで続くのかといったゲームになったりする。だれもが今も信じて生きているはずだった。

 「みんなそれぞれに重い荷物を背負っている。一人一人別々の苦労を抱えて必死で生きている。僕だってきみだってそうだ。あいつ一人がたいへんなわけじゃない。明生は喋りながらあの日聞かされた東海さんの話を思い出していた。そして、だれでもが現実から目をそむけているだけで、しかし、いつかは必ず自分自身がそうした死に直面する状態に追い込まれる。そして人は死ぬ。生きているからこその辛さなど、辛いと感じられるだけまだましに違いない。なずなはあの暗い部屋をトンネル代わりにして、新世界へ旅立って行くつもりなのだろうか。そのトンネルの先に広がっているのは、ひからびた過去にがんじがらみになった寒々しい未来でしかないというのに。」

 「 “宇津木、生きていたらいろいろあるよ。でもね、何年か経ったらどんなことでも大したことじゃなかったってわかるから。人間はさ、そうやって毎回自分に裏切られながら生きていくしかないんだよ“ 東海さんは言うと、”じゃあ、まだ仕事がのこっているから“と付けたして自分から電話を切った。自分に裏切られながら生きて行くとはどういう意味なのだろうか。今苦しくて仕方ないことでも、やがてはどうしてあんなことで悩んだのだろうとか、何であんなことにこだわったのだろうとか、なぜああいうことが可能だなんて馬鹿げた錯覚をしたのだろうかとか、冷静に振り返ることができるようになる。それが自分に裏切られるということなのだろうか。将来の自分が今の自分を裏切る?そういう意味なのだろうか。それだったら少しわかるようなきがする。」

 明生はベッドのへりに東海さんの骨壷を抱いて座り込むのだった。

(文:横須賀 健治)

 

 

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