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書評 「こころに残る現代史」 角川書店 白駒妃登美 著

by staff on 2014/3/10, 月曜日
 

 「日本人の知らない日本がある」と副題にあるように私たちは知らないことが多い。 戦前どこにでもあった二宮金次郎の像だって、ことごとぐ取り壊されてしまったのだ。勤勉がいけないとでもいうように!親孝行がいけないとでもいうように!生活改善に人生をかけた人だったのに!

 著者は「日本人がどんな思いで生きてきたのか、それを受け取ることは、私たちの生きる力になります。そしてそれをリレーしていくことが、私たちに課せられた大切な使命ではないかと思うのです。」とはじめに書いている。

 「日本人は戦いに敗れても、決して誇りを失うことなく、真面目に働いて立派な仕事をしたのよ。あなたも日本人のように生きなさい。」ウズベキスタンの母親たちは愛する我が子にこんな言葉を贈るそうですと語りかけるという。これは第3章「世界からみた日本人」感謝と報恩の歴史の中に出てくる。第2次世界大戦が終結したあと、ソ連軍は日本人捕虜の一部を、当時まだソ連に属していたウズベキスタンの強制労働施設に抑留しました。命じられたのは、ダムや運河、水力発電所、劇場などのインフラの建設でした。「絶望の中でも誇りを失わず、笑みさえ浮かべながら、真面目に働き続ける日本人兵士たちの姿を見て、人々が食料をさしいれしてくれるようになったのです。」先の一説はそれを受けてのものだ。

 この本はこころに残ることを集めた新しい視点が美しく感じられます。根底に流れる日本人のこころとは何かを著者の感性で綴られている。トルコやベルギーがかくも日本に理解を示しているかがよくわかる。

 「あなたがもしも、ベルギーを旅する機会があったなら、お互いに交わした“真心のこもった贈り物”があったことに、ぜひ思いを馳せてみてください。目に映る景色が、よりいっそう輝きはじめるのではないでしょうか。」その発端を次のようなものです。「第一次世界大戦にさかのぼります。ベルギーは、フランスを攻めるために領内に侵入してきたドイツ軍に、その国土を蹂躙されてしまいました。」「その悲惨な状況が日本で報道されると、遠い異国の出来事にかかわらず、当時の日本人はベルギー国民の惨状に胸を痛め、迅速に行動を開始、彼らに対する支援活動をはじめたのです。」その後のさまざまな交流も紹介されます。

 トルコとの交流の始まりは明治23年9月16日の大型台風の直撃をもろに受け、トルコの軍艦が紀伊半島の樫野崎に連なる岩礁に座礁し、沈没してしまう。二人の灯台守が村人の協力を得て救助することからはじまる。「救出された69名が母国・トルコに帰る日、彼らの代表者は言いました。“我々は、このたびの日本人の措置に心から感謝している。乗員一同は帰国後、広く日本人の温情を同胞に伝えるつもりだ”その言葉通り、この一連のエピソードはトルコ国民の多くが知ることとなり、後には教科書にまで掲載されるようになるのです。これが、世に言うエルトゥールル号遭難事件の顛末です。」「私は、もしタイムマシンに乗って時間をさかのぼれるとしたら、あの日の紀伊大島を訪ねて、村民の一人一人を抱きしめたい気分です。“ありがとう!あなた方のおかげで、120年後の日本人は、世界に愛され、とてもしあわせです。”そう、彼らに伝えたいのです。」「トルコには“自分の歴史を知らない者には未来がない”ということわざがあるそうです。まさに、きちんと時刻の歴史を学んでいたからこそ、日本が危機にあるときに“借りた恩は返そう”と格別の厚情をはかってくれたのでした。」

 白駒さんは言います。
 「歴史とは、名もなき一般の人々の生き方が積み重なって紡がれていくもの。私たちは、先人たちのおかげで、今、こんな恵まれた環境の中に生かされています。」 「50年後、100年後の日本人が世界から信頼され、愛され続けるためにも、“今”を生きる私たちの責任は重大ですね。」

 ペルーのこと、台湾のことにもふれられる。
 「李登輝さんのいう日本精神とはなんでしょうか?」という問いかけ、そして次のように語られる。「それは、“公に生きること”。自分さえよければという考え方でなく、みんなの幸せを考えて痛みを分かち合うこと。その結果として、恩恵もみんなで分かち合うことが出来るようになる。これが日本精神だと李登輝さんはおっしゃるのです。」

 はじめのところで著者は印象的な言葉を綴っておられる。
 「歴史を知ることで“日本人にうまれてよかった”、さらには“人間っていいなぁ。愛おしいなぁ”、そんな思いを深くしています。」

(文:横須賀 健治)

 

 

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